第18部
「船長、こちらです」
部屋を出たらすぐに、人がいた。
「あなたは誰ですか?」
「私は大統領からの命を受け、あなた達を案内するように言われている、丹国ウィオウスです。よろしくお願いします。ですが、まず朝食はいかがでしょうか?このホテルのレストランの朝食は、とてもおいしい事で有名なんです」
「そうか、ならば食べてみないといけないな」
「そうだね〜。ちょうどお腹も空いているし〜」
3人はエレベータで下に降りた。
レストランはあまり人がいなかった。
(まあ、午前7時前に来る客はあまりいないだろうしな)
「何がおすすめなのですか?」
スタディンがたずねた。
「ここのおすすめは、たこ焼やお好み焼きです」
「たこ焼?お好み焼き?何なのですか?」
「たこ焼とは、水などで練った小麦粉を、基本的には、半球状のくぼみのある鉄板に流しいれて、刻んだたこの足など具をいれて、焼き上げて、それに、ソースや、付け汁などを付けて食べる庶民的な食べ物です。お好み焼きは、水などで練った小麦粉を、熱した鉄板の上に円形状に置いて、その上に、魚介類や肉などを思いのままに置いて焼き上げて食べる、こちらも庶民的な食べ物です」
「両方とも食べたいな」
「そうだね」
「どうします?ほかにもいろいろありますが…」
そう言うと、メニューを、手に持った。
「いや、その、お好み焼きとたこ焼を食べよう」
「分かりました」
それだけ言ったら、ウィオウスは、近くの店員を呼び、注文した。
「彼らにはそれぞれたこ焼とお好み焼き。私には、すき焼きをくれないか?」
「分かりました。たこ焼2つとお好み焼き2つ、それにすき焼き1つですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ」
店員は厨房の方へ歩いて行って、何か言っていたが、詳しくは聞き取れなかった。
(きっと、注文を言っているのだろう。でも、こんなに科学技術が進歩していたのに、なぜ、全ての証拠が消されてしまったのだろうか)
スタディンはこんな事を考えていたが、クシャトルの方は違っていた。まったくまじめに考えていなかった。
(今まできた事がない世界って、なんかいい響き〜。もしかしたら、この世界の服って、私達のとは違うのかな?あ〜、なんだか気になる〜)
「お待たせいたしました。たこ焼2つとお好み焼き2つです」
1舟6つ入りの、たこ焼と、直径10cmぐらいのお好み焼きがやってきた。
「後はすき焼きだけですね」
「ああ、そうだ」
(心なしか、態度が大きくなっているような…)
だが、スタディンは気にせずに、この料理を食べる事にした。すでに、クシャトルの方は、食べはじめている。
(まずはたこ焼の方から)
フォークでたこ焼を刺してから、ゆっくりとした動作で、口元へ運び、一気に食べる。
(なかなかおいしいな、これは。どうして無くなってしまったのだろう)
「おいし〜」
「それは良かったです。あなた達の口に合って」
(確かに、おいしいな)
さっきからそれしか考えていないスタディンが思った。
(この「たこ」と言う生き物に会ってみたいな)
「このたこにどこへ行けば会えますか?」
「この近くの海沿いに、大きい水族館があります。そこへ行けば会えると思います」
「では、これを食べ終わったらそこへ行こう」
その意見に一人だけ異議を唱えた人がいた。クシャトルであった。
「それは嫌だよ〜。私はこの星の流行の服とかを見に行きたい〜」
一人駄々をこねている妹をなだめるスタディン。
「そこは、水族館を見に行ってからにしよう。ちゃんといくからね」
「本当?」
疑いのまなざしでスタディンを見つめるクシャトル。
「ああ、本当だよ」
「じゃあ、しょうがないかな?」
納得したようなうなずきを見せるクシャトルだった。その時、上の電球が点滅し、少し揺れだした。
「きゃ!」
この振れになれていないクシャトルは声を上げたが、すぐになれるほどの弱い振動だった。
「さっきの揺れは何ですか?」
「さっきのは、地震と言われている振動です。あなた方の星には、そのような揺れは無かったのですか?」
「あまり無かったですね」
「そんな事も起こるのですね。この地域では」
「この揺れはまだ軽いほうですよ」
その時に、ようやくすき焼きが運ばれてきた。
「まだ軽い?これよりももっとひどい揺れがきた事があるのか?」
「そうです。1996年に明石海峡付近を震源とする地震が発生しました。それを筆頭に、この旧日本国を中心とする、地震活動期にはいりました」
少しすき焼きを食べる。
「これからも起こるでしょう。さらに、巨大な地震が…」
再びすき焼きを食べる。
「これから巨大な地震が起こるのか?」
「可能性は十二分にあります。この前の、巨大地震と言われる、南海・東南海地震が、1946年と1944年にありました。しかし、東海地震はその時起こっていないのです。今世紀半ばまでの発生する確率が、8割を超えているのです。次の瞬間に起こってもおかしくありません」
「物騒なところに住んでいるんだな」
いつの間にかすき焼きは無くなっていた。
「私達は日本人です。日本に住むことが当然だと思いますが?」
「それはそうだけど…」
「そう言えば、皆さん食べ終わったなら、水族館の方に行きませんか?」
「そうだな。行こうか。いいよな、クシャトル」
「うん。私は大丈夫だよ。ほかの人達はどうするかしらないけれど」
「ご安心ください。他の方々も、あなた達と同じように一流ホテルに宿泊しています」
「それは良かった。ならば、行こう」
「分かりました」
3人ともテーブルから離れた。そして、レストランから出て、このホテルの玄関を出たら、普通車が停めてあった。
「この車にお乗りください」
「この車は何ですか?何か特別な車なのですか?」
「いいえ、私の車です。普通は家族と一緒に、どこかへ出かけるときとかに良く使いますが…もしよろしければ、家族を乗せたいのですがいいでしょうか?」
「別にかまわないが…」
「ありがとうございます。実は…」
ウィオウスは、少し顔が赤くなった。その時、車の中から声が聞こえた。
「お父さん、早く、早く〜。あれ?この人たち誰?あ、分かった〜、この前ニュースに出ていた、空のどこからか来た人たちでしょう」
「そうだよ」
「やっぱりなんだ〜。私、丹国シュアン。アメリカ人と日本人とのハーフなの〜」
車の中で影が動いた。窓から別の顔が出てくる。
「私の名前は、丹国クォウス。よろしくお願いします」
すぐに顔が引っ込んだ。
「すいません。内気なものでして」
「いいんですよ。私もいずれこんな子達に囲まれる事が夢のひとつだから」
さらに、別の顔が出てきた。今度は男だった。
「こんにちは、自分は、丹国ルイです。12歳です。これからよろしくお願いします。ところで、あなた方は、どこの星から来られたのですか?」
「私達は、ここから、約1500光年離れた、オリオン星雲から、来た。ここへきたのは、燃料補給をするためだよ」
「そうですか」
明らかに疑っている目だった。しかし、何も言わずに、車の中へ戻った。
「何人家族なんですか?」
「5人です。ただ、家内は今日は、友人とのパーティーがあるらしいので、今日は来ていないのです」
「残念ですね。あなたの奥さんが見れなくて」
「そうですか。では、車に乗ってください。もうそろそろ出発しないといけないので」
「ああ、分かった」
皆、車に乗った。車は、少し古い型の8人乗りだった。ホテルを出て、高速に乗り、海岸に向かって、走り続けた。その時、車の中では、CDがかかっていた。
「すいませんが、CDをかけさせてもらっていますよ。いいですよね」
「ああ、別に何でもいいし、それにこの星の音楽とやらに興味を持っているところだからな。それよりも今流している曲はなんだ?なかなか面白そうだが」
「今の曲は、30年ぐらい前に流行った曲です。題名は忘れてしまいましたが」
「そうか、それよりも、この車の中が暑いような気がするのは気のせいだろうか」
「気のせいじゃないですよ。この車の中は今、えっとー、27℃は、ありますね」
「外の気温は?」
「外は、地球温暖化が進んだ影響で、ここは、34℃位ですかね。まだ、高くなりますよ」
兄妹は顔を見合わせた。
「これ以上高くなる事が?有得ない!私のふるさとでも、30℃台はあっても、午後の2時ぐらいですよ。それにそこまで高くなる事はまずないし」
今度は逆に、丹国側の人達が顔を見合わせる番だった。
「低い場所にお住まいなのですね。この惑星では、平均気温がすでに、19℃に達しています。京都議定書は、連邦政府が承認しました。すでに活動を開始していますが、後1000年は温暖化の効果が続くと見積もられています」
「後1000年ですか…長い間続くのですね」
「そうです。地球規模の大変動を起こしてしまった我々人類は、産業革命以来のツケを今払わされているのです」
車の中で皆は、真剣に話し合っていた。
「それは我々には出来なかった行為です。そもそも、地球シミュレータが、出来たのが、約20年ぐらい前でしたから」
「ところで話は変わりますが、この星で1980年ぐらいから何か奇妙な事は起こりましたか?何でも良いので」
「何故そのような事を聞くのですか?」
「私達は、他の惑星系の近代史について勉強しているのです。それでここの惑星の歴史にも興味がありまして」
「それでしたら、そこの子供達に聞いてください。彼らの方が私より良く知っています」
8人乗りの車のうち、一番後ろの席に、3人座っていた。ちょうど、運転席側から、外ばかりを眺めている、丹国クォウス、真ん中で舟をこいでいる、丹国ルイ、助手席側に座りながら歌っている、丹国シュアン。後ろを見たとき、座っている真ん中のシートが後ろを向いた。突然だったので、兄妹で頭をぶつけてしまった。
「いてっ!」
「いたい〜」
「アハハ。他の惑星の人達も、運動神経が鈍い人がいるんだ〜」
そう言ったのは、歌を歌っていた、シュアンだった。スタディンは、頭を抑えながら、苦しそうに言った。
「君達はこの惑星の1980年以降の歴史について、普通言われないような、歴史を覚えているだけ、言ってくれないかな?」
「いいよ、えっと〜、1985年ぐらいに、なぞの生命が発見された事があったな〜。確か、その時は地面にぶつからずに太平洋の何も無いところに落ちて、そのまま、漂流していたのを発見されたって言う話しなら知っているけれど?」
「そうそう、そんな話で良いんだ。他には?」
「その生命体は、すぐの死んじゃったんだって。あとは、あまり無かったかな?」
「ひとつだけあるよ」
かろうじて聞こえるようなか細い声で言ったのは、外を見ていたクォウスだった。
「どんなこと?」
「まだ、世界政府なんて存在できなかった、1990年代に、この地球がおかしくなった。重力が突然無くなったり、逆に巨大になったりした。そのまま2000年になるとすぐにやんだけれど」
「分かった。それだけしか覚えていないのかな?」
「…うわさなんだけれど」
真ん中で眠っていたはずのルイが言った。
「ただのうわさかもしれないんだけど、この旧日本国領は、とてつもない財宝があって、その財宝をいつも世界中の人が狙っていると言う話があるよ」
「そうか。教えてくれてありがとう。ところで、このシートはどうやって直るのかな?」
そのシートは後ろはすぐに向いたのに、戻ろうとしなかった。
「そのシートは壊れているのです。そのまま後ろで子供達と話してください。もしも、よろしいのでしたら、あなた方の惑星の話とかも。みんなそのような話しに興味があるのです。ただ、後10分ぐらいで水族館に到着しますが」
「早いね」
「いつもだよ〜。この国の高速道路網は、有料だけど、とても良いの。あなた達も運が良いね。大統領が日本にいて。もしこれが、別の国だったら、どうなっていたか分からないよ」
その時、スタディンとウィオウスの携帯が鳴った。
この日の旧日本国は、いつも通りの日だった。ただ、これが起こるまでは…
「船長!船長ですか?」
「そうだ。どうした?」
子供達に聞かれないように、英語で話す。ウィオウスはハザードランプを付けた。そして、携帯を見ていた。
「いま、船の中から話していますが、こんな状況は見た事がありません!重力場、電磁波、その他もろもろ、なにもかもが、狂っています。船長早くそこから脱出してください、急がないと・・・?」
携帯が突然きれ、その代わりに外から地鳴りが聞こえはじめた。ウィオウスは携帯を閉じ、みんなに言った。
「緊急地震速報が発表された。自分達は、車内の状態の訓練に従って行動する」
言っている間にも、その地鳴りは次第に大きくなってゆき、最高潮に達した瞬間に地面が揺れはじめた。
「地震だ!」
「今度のは少し大きいな。少し揺れますよ!」
(もう十分揺れているから)
スタディンはそう考えながら、揺れに身を任していた。車は走り続けた。揺れに翻弄されながらも、ただ、途中で止まり、それきり動かなくなった。その時だった。さらに激しい揺れが車を襲った。