第14部
兄弟が夢の国をさまよっているうちに、現実世界では、第6惑星のそばを通り過ぎていた。
「この惑星は?」
「はい、この惑星は、密度、0.69g/cm3の軽い惑星です。主成分は、原子質量1〜4ぐらいが大半を占めています」
「水素系列とヘリウムだな。その惑星の大気は燃料として使用可能か?」
「はい、使用は可能ですが、原子質量が4のものを除いた状態で、という、条件がつきますが」
「分かった、ならば帰り道に燃料が無くなったとしても、ここで補給ができると言うことだな」
「そういうことです」
「第6惑星を通過します」
機械的な、ベルの声が響く。真横に惑星が見えてきた。
「美しい…形容しがたいほどに…」
「そうですね…この星の住民は何を考えているか分かりませんが」
「そうだな、この時空については分からない事だらけだ。もしものときには逃げなくてはいけないしな」
そして、船は地球へ向かって進んで行った。
夢の中では、スタディンとクシャトルが、この世界での時の神の化身に会いに、この列について行っていた。
「着きました。ここがこの世界での時の神の化身の家です」
しかし、周りを見渡しても家らしいものは何も無い。崖がずっと左右に広がっていて、目の前に洞窟があるだけだ。
「もしかして、この洞窟の中に?」
「その通りです。この世界での時の神の化身はあなたたちを長い間待っていました。あなたたちはこのすべての宇宙が始まって以来初めて、彼と会って記憶されるヒトとなるのです」
(「本当なのかな〜?」
「分からないけれど、ここは信じるしかないと思う)
兄妹は洞窟の中へ入って行った。
洞窟の中は乾燥しきっていたが、不思議とのどは渇かなかった。
「こちらです。足元に気をつけて下さい」
確かに足元は悪かったが、こけるほど悪くはなかった。だが、洞窟中に響く音で、後ろでこける音が響いた。
「いった〜」
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。皆こっち向いていなかったよね?」
「ああ、皆前を向いて歩いていたよ。立てるか?」
「うん。大丈夫…」
うまく立てずに、再びこけてしまう、クシャトル。
「あ、やっぱり駄目みたい…」
「しょーがないなー、肩貸すから立って歩けよ」
「え〜、おぶってよ〜」
「自分の足で歩きなさい。もしもそれが出来なかったら、おぶってあげるから」
「うん。分かった。約束だよ」
「ああ、約束だ」
「二人とも急いでください。すでに遅れていますよ」
「ほら、立って」
「ぶ〜。よっこいしょ」
「お前実は30代の…いっ!」
つま先を思いっきり踏みつけられた、スタディンは、洞窟中に響くような声で、叫んだ。
「だれが、30歳代だって?」
「い、いいえ。何もありません」
「じゃあ、おぶってくれる?」
「は、はい。いいですよ」
(ここで逆らったら、後が怖いな…)
そして、スタディンは、クシャトルを背負って、この世界での時の神の化身のところへ走って行った。
船の中は、何も起こらず、平和であったが、引っ切り無しに、電波が届いてきた。
「すいません!放送関係特別省のものなんですが、ここ最近の怪事件と課はあなたたちの仕業なのでしょうか?」
「すいません!UFO研究会ですがあなたたちはどれだけの種族がいるのでしょうか?それにここに来るのでしょうか?」
などと言った具合である。結果的に、常時パンク寸前な通信データであったが、臨時の専用回線を、カンルーガン側とつなげていた。
「ほかの状況はどうですか?船長」
「船長は今寝ているよ。やっぱり子供なんだなぁ」
船長代理として、シアトスが、船長席に座っていた。
「感慨にふけっている場合じゃありませんよ。で、そちらの状況はどうなっていますか?船長代理」
「こちらは、地球側からの通信でパンク寸前だよ。こんなにもこの星の住民がその惑星以外の生命体に対して、興味を示すとは思わなかったが、それでもここにいるしかいないしな…」
「そうですね。とりあえずこの地域にとどまる事しか出来ませんし…」
「とにかくあの星に行ってから情報収集をする必要があるな。とりあえずそれが最優先事項だと思う」
「私も同感です。あの星に行かないと燃料自体も確実に少なくなっていますからね。ただ、もしも向こう側にその技術がないと、第6惑星に行ってから、燃料補給をする事になりますからね」
「あの星は燃料としては、相当な粗悪品に分類されるからな。その事態だけは避けたいな…」
「その通りですね。何かありましたらこちらからも連絡しますので」
「了解した。交信終了」
「このまま地球と言う惑星に下りる事になるのでしょうか。ただ、位相がずれているからと言って、違う惑星とは思いませんし、それにあの伝説がありますからね」
「あの伝説って?なんだそれは?」
「シアトスさん知らないんですか?有名な伝説ですよ」
「知らんものは知らん!第一そんな伝説は聞いた事もないが?」
「その伝説によれば、昔、船が1船行方不明になったそうです。その際に送られてきた電信文によると、地球のニホンと言う場所にいる、そして消息は絶たれました。それ以後見つかっていないと言う伝説です」
「…その船が、この船だと?そんな訳無いじゃないか!」
「そ、そうですよね。ハハハ」
だが、この船が無事にもとの空間に戻れる確証は無いのだ。もしかしたら伝説どおりになるかもしれない。乗員全員がそのような感覚を持っていた。
一方、この世界での時の神の化身へ謁見するために洞窟の奥深くまで入ったスタディンとシャトルは、無事に本隊と合流できた。
「はぁ、はぁ、やっと、追いついた〜。ほら、降りろよ」
「やだよ〜。このほうが楽だもん」
「降りろって、こっちは皆に追いつくためにどれだけ走ってきたか…」
「静かに!これから、この世界での時の神の化身が出て来られる。謁見を申し出るものは、今のところ三人と聞いているが、間違いないのか!」
「間違いありません!」
みんなは、彼の神官に対して、同時に話した。洞窟の空気の振動が感じられるほど大きい声だった。
「では、これより謁見を許される者の名を発表する!イフニ兄妹!そして、われらの王の兄弟であらせられる、夢の王様!」
自分たちの名前が言われると同時に、謁見の間の扉が開かれた。そして、皆が移動して、二人が通れる通路を作った。ただし、クシャトルは背負われたままだったが。その道をスタディンが、一歩一歩、確実に前へ向かって歩き出した。
目の前には、時計の模様がかかれていたが、何か不思議な感じがした。すると、後ろから、クシャトルが、
(「この時計、針が無い」)
と、言った。そしてまじまじと確認すると、確かに針が両方とも無かった。
(「きっとこれからはいる部屋には時間という概念が、元々存在していないんだよ。この世界もそうだろう?夢の世界だが、この世界自体に時間なんて物があるかどうか…」)
その時、横で神官が再び空気を揺るがすような声を上げた。
「開門!」
同時に、夢の王も入ってきた。
「私たちだけではないようだね」
「うん」
部屋に完全に入った時点で、後ろの扉が完全に閉じた。
(この部屋も、同じか…)
この世界の謁見の間は、どれもこれも神秘的な雰囲気を高めるようにされているらしい。まるで写真の現像の部屋のように、とても暗かった。足元からのわずかな光が、頼りだった。しかし、そのような兄妹の横を、何事も無いように、夢の王が歩いて行った。
「あの人すごい…」
「きっと、ここに何度も来ているから道を覚えているのだろう。彼について行けば道が分かるかもしれない。ついていってみようか?」
「そうだね、お兄ちゃん」
「って、言うか。自分から降りろよ。今までずっと背負っているから、疲れてきているんだよ」
「そうだね、腰の調子もよくなってきたし〜」
そして、何事も無かったかのように、走って行った。
「ほら、お兄ちゃん早く〜」
「おまえな〜。今までお前を背負っていたのはどこの誰だと思っているんだ?」
「誰だろう〜。私知らな〜い」
そして、夢の王の後を追いかけて行った。
音がまったく無い静寂の空間。何も行動が出来なくなるような虚脱感。そして、妹の後を追って走り出したときの爽快感。全てが初めての経験だった。
すぐに、クシャトルの元へたどり着いた。
「捕まえた!」
「あっ、もう追いついたの?もっと遠くへ行けばよかった〜」
「後悔先に立たず。これからすればいいよ」
ふと見ると、クシャトルが、じっとこっちを見ていた。
「どうしたの?顔が赤いよ?」
「なんでもないってば!さあ、さっさと行くぞ」
「変なの〜。いつものお兄ちゃんじゃないみたい〜」
それだけ言うと、クシャトルは先に行った。
(やれやれ、勘が鋭い妹を持つと苦労するよ)
兄も妹の後を追って走り出した。
この世界での時の神の化身は、夢の王と一緒に、すでに話していた。
「彼らがそうなのか?」
「そうだと思われる。彼らこそ選ばれし者達だ」
(「選ばれし者達?どういうこと?」
「たぶん、何かあるんだろうね。この世界についての伝説とかが」)
そして、二人の王はこちらを向き、この世界での時の神の化身が、話し始めた。
「君達はとても珍しい名前を持っている。その、イフニという、単語について、聞いた事はないかな?」
「いいえ、実は何も聞いた事が無いのです。親に聞こうとしてもはぐらかすばかりだったので…」
スタディンが話す。
「私たちも何故このような名前がついたか分からないのです。もしよければ…」
「教えてほしいと、いうことだね」
「えっ、何故分かったのです?」
「私はこの世界での時の神の化身だ。この宇宙すべての事について知らない事はないよ。君たちの名前の秘密も知っている」
「本当ですか?」
「本当だ。君たちが本当に知りたいのであれば教えよう。あの奥の部屋で、この四人で」
(「どう思う?」
「行くっきゃないでしょう!」)
やはり、好奇心が旺盛な14歳の少女なのであった。
「そもそも君たちの名前は、神の名前に由来する」
「神、ですか」
「そうだ」
静かな部屋の中に、外から聞こえてくる、そよ風の音。丸いテーブルの上には入れたての紅茶が置いてあった。そのテーブルを囲むように4脚のいすがおいてあり、それ以外何も無い部屋であった。
「昔、何人かの神がいた。詳しい人数は、すでに、この時の神の化身ですら知らないほどの昔に忘れ去られている。彼らは、それぞれの遺伝子を、それぞれに分けた。その中に、イフニと言う名前の神がいるのだ」
「その神の子孫が、自分たちと言うのですか?」
「その通りだ。その神の子孫は我々を超える力を誇ると言われる。君たちは神の子孫として生まれてきたのだ。その神は今どこにいるのか分からぬ。ただし、その神自身いなくても、そなたたちは立派に生きていける。そなた達がその証明となるのだ」
「自分達が神の子孫…」
(「そんなことはありえるの?」
「分からない…でも事実とも思えないし…」)
「すいませんがその日記を見せてもらえませんか?」
スタディンはたずねた。しかし、この世界での時の神の化身は、こちらを見つめているばかりだった。
「船長、船長」
部屋のスピーカーから、声が聞こえる。
「船長、起きていますか?着きましたよ」
「分かった、今起きる…」
寝ぼけた船長がベットから這い出てきた。
「今行くから、今の状況を報告してくれ」
言いながら着替えをはじめる。隣のベットでは、クシャトルがまだ寝ていた。
「おい、起きろよ。着いたぞ」
「え?ついた?」
「地球にだよ。地球」
「あ、ああ」
それだけ言って、またベットの中へ帰ろうとする妹を無理やり引きずり出す。
「起きろって、今報告を受けているところだ」
「………と、いうことで、今地球と称する惑星の、衛星の近くまで来ました。あちらの方から出迎えてくれるようです。とにかく私達の第3惑星とよく似た大気成分なので、呼吸する事に関しては、なんら問題はありません」
「そうか。分かった。地球側から何か言ってきているか?」
「公式な発言は、まだありませんが、いろいろな研究会から連絡が入っています。中には、興味本位で連絡しようとしたり、ダイレクトメールすら送りつけています。この星では、水素がこの星の単位で、2.60$だそうです。我々の通貨に直すと、約260銀河平均通貨(GAC)ですね」
部屋から出て、廊下をエレベータの方へ歩きながら、言った。
「そうか。では詳しくは指揮室で受ける。それと、カンルーガンは、どうすると答えている?」
「彼らは、この軌道上に残るそうです」
「そうか。交信終了」
音が無くなった。エレベータの前で、クシャトルが突然話しだした。
「あの夢の内容信じられる?」
「自分達が神の子孫だって言う事?信じるかどうかは、元の世界へ戻って、両親に聞いたりしないといけないだろうな」
「そうだね。でもここからどうやって戻れるのだろうね」
その時エレベータが来た。中には、白衣を着た人が入っていた。
「どうぞ入ってください。船長」
二人ともエレベータの中へ入った。