プロローグ及び第1部
プロローグ
この世とは少しばかり違う世界のお話…
この世界は今の西暦に直すと2375年であり、この世界の新暦に直すと360年から始まる。ある銀河系の片隅にある「太陽系」と称するところからこの話は始まることになる。錬金術や魔法というものが日常に深く溶け込んでいる星。それがこの話の出発地になる。その惑星は…
太陽系第3惑星、この惑星は大陸が5つある。この宇宙へ進出を果たしたその種族は、他惑星、特に第2惑星と第4惑星に住んでいる「人」ではない種族と明確な区別をつけられていた。第3惑星はすでに開発がほとんどの地域で終了しており、人々は、第4惑星にいるドワーフ達や、第2惑星にいるエルフ達とともにさまざまな場所に進出をしようとしていた。
第1章 生命系を探して
とある暗闇の中。二人の人が森の中を隠れるようにしながら、とある場所へ走っていた。少女のほうはまるで体操服のような服装でありほかには何も見えない。少年のほうは登山するみたいな格好でリュックサックを背負っていた。リュックサックにはよほど荷物があるようだが、そのことを感じさせない走り方だった。
「ねぇ、まだぁ?」
と、少女が言った。
「もうちょっとだから、がんばって」
もう一人が言った。ふと少女が前を見上げると、森の上へ続いてゆく白い光が見えた。少女は立ち止まって少年にたずねた。
「あれは?」
「あれが宇宙ステーションへ続いているエレベータだよ」
「あれが…」
「そう、自分たちが目指している場所だよ」
そのとき後ろから何か物音がし始めた。
「やばい!隠れるぞ!」
「え?」
どうやらまだ少女のほうは物音に気づいていないらしい。そうして隠れた直後に木の枝を折りながら誰かがやってきた。いや、誰かではなく警備のロボットがやってきた。
「ふぅ。ロボットでよかった。この辺りには密猟者がいるからな」
この森にはいろいろな動物たちが生きている。この惑星の法律によれば狩行為自体が禁止されているが、それでも密猟が絶えない訳は、このような豊かな動物種はほかの惑星にはいないからである。ふと、横を見ると少女が腰の辺りを押さえている。
「どうした?」
「隠れるときに腰を強く打っちゃって・・・」
「立てるか?このままここにいてもいいんだぞ?」
「大丈夫だから。先に行こう」
そうして彼らはエレベータの方に向かって歩いていった。
エレベータの管理室ではこの二人の存在に気づいていたが、別の場所で密猟をしているのを発見していたのでそちらに向かっていたのだった。
「こっちにはいないぞ!」
「あっちのほうを探せ!」
そのような声が静かな森の中を響き渡る。そしてついに密猟者を捕まえ、次はこの兄妹の番となった。しかし、すでにこの兄妹はこの建物のすぐ近くまで来ていたのであった。
「ここまでくればもう少しだ」
「その台詞は聞き飽きました」
少しふくれっ面になりながらも楽しそうに話す少女。
「しょうがないじゃないか。こんなに遠いとは思わなかったんだもの」
「最初に道はこの道で行こうって言ったのはどこの誰だっけ?」
「でも今度はほんとに少しだから」
「本当?」
「うん」
元気に話をする少年。確かに最初に見つけたときから相当大きくなってきており、エレベータの駆動音まで聞こえるようになっていた。すると突然森が開けて、目の前に「立ち入り禁止」と赤ペンキでかかれた、コンクリート製の壁が見えた。左右を見てもひたすら壁しか見えない。
「この周りにはこの壁しかないようだからこの壁を乗り越えよう」
「え?この壁を?」
「そうさ!ほかに方法があるかい?」
「……ない」
「だろう?じゃあ、早速登ろう!」
「でも、登るって言ったってこの高さでどうやって登るの?」
「このリュックサックの中にはそんな時用の物が入っているのさ」
「?」
そういって取り出したのは相当長い縄梯子であった。
「これを上に掛ければちゃんと登れるだろう?」
「でもちゃんと登れたとして、降りるときはどうすればいいの?」
「その時は、その時さ」
そう言って少年は縄梯子を勢いよく上に向かって投げ、そのままうまい事向こう側へ落ちた。
「これでよし」
「お兄ちゃんから登ってね」
「なんで?」
「だって、恥ずかしいもの」
「ったく、しょーがないなー」
そう言ってそのまま登り始めた。そして二人が登り始めたとき、警報が鳴り響いた。
「やべ!」
「どうするの!?」
壁の上でおろおろしている間に回りは警備員でいっぱいになっていた。二人は捕まってしまった。
連れて行かれたのは、このエレベータの所長室だった。目の前には、椅子に座った少々太り気味の所長と対面していた。
「どうしてこんなことをしたんだ?」
「このエレベータに乗って宇宙ステーションにいる両親に会いに行きたかったんです」
「本当か?」
「本当です!」
「お前たちの名前は?」
「自分はイフニ・スタディン。妹の名前はイフニ・クシャトル」
「ふーん、スタディンとクシャトルか」
そう言ってこの人は、すばやくこの上の宇宙ステーションと連絡を取った。
「たしかにイフニと言う苗字を持つ人がいるな」
「所長、こいつらをどうします?上に送り届けるとしても…」
「俺の権限でいい。こいつらを宇宙ステーションまで届けてくれ」
「え?しかし上層部が黙っては…」
「上層部の石頭どもはこんなに親切なことは許さないだろうが、それでも俺はやる。次のエレベータはいつ出発する?」
「あと、2時間39分後です」
「そいつは空いているか?」
「この時間帯は基本的に空いていますよ」
そういって、予約リストに目を通した。ここに兄妹を入れるようだ。
「いいんですか?」
「いいんだよ。このぐらいしなければ俺の心が泣くからな」
「あ、ありがとうございます」
「ハハハ。そんなに硬くならなくてもいいんだよ」
その後、エレベータに乗るためにいろいろな事務的手続きをしている間に、あっという間に2時間は過ぎ、乗る時間となった。
「いいか?宇宙とこの第3惑星をつないでいるのは世界に10基しかないこのエレベータだけだ。俺もこれには乗ることになっているから一緒に乗り組むからな」
「はい…」
そうしてエレベータの扉は閉まった。
宇宙ステーションに着いた直後に、所長はいなくなっていた。
「ほとんど外を見ている暇はなかったね」
「うん。でもあの所長さんからお話がたくさん聞けたね。ただ、重量が一気に変わるようなことは勘弁してほしかったな…」
そのようなことを話しながら、両親との待ち合わせ場所に向かっている兄妹。待ち合わせ場所は、この宇宙ステーションの中で、人々が住んでいる居住区の中央公園の前であった。そこへ向かってくる人影が4人。みんなに会えるのが待ちきれないのだ。
「ママ!パパ!」
と、クシャトルが最初に声を出した。
「お前たちがこっちに来ると知ってとてもびっくりしたよ」
お父さんが話し出した。
「しかし、なぜに急にこっちにくることにしたのだ?」
「それにはいろいろと事情があるんだ」
何か恥ずかしげに語るスタディン。
「まぁ良い。こうして無事にこちらにこれたのだから」
こうして親子4人で今までのいきさつを、語りだしながら帰る家族であった。
家について。
「わぁ〜!お星様が綺麗〜!」
クシャトルは窓を覗き込みながら言った。
「ここは宇宙空間だからな。惑星上とは違って大気の邪魔をされないようになっているからな」
お父さんがすかさず説明をする。
「ねぇ、お父さん。この宇宙ステーションは、地表からどれくらい離れているの?」
「うん、そうだな。だいたい1000?位かな?」
「そんなに離れているの!でも、どうして惑星に落ちないの?」
「うん、それはだね。この太陽系の太陽から出てくる風を利用しているんだよ。その風を太陽風と言うんだけれどもね、その風の性質を利用しているんだ」
「どんな性質?」
「うん、それは、磁力を帯びていてね、磁石の反発しあうようにして地表から離れていこうとするんだよ。でもね、この惑星の重力によって引っ張られていくからね、それがちょうどつりあうのがこの距離だったんだよ。」
「そういえば、お父さんはどんな仕事をしているの?」
スタディンは訪ねてみた。
「うん、それはだね、この宇宙ステーションがこの宇宙空間で、快適に過ごせるような環境を作っているんだよ」
「ふーん」
急に興味がなくなったように、スタディンは立ち上がり、
「じゃ、勉強しに戻るから」
そう言い残し、この部屋から出て行った。
「それじゃ、私も〜」
クシャトルも兄の後を追うようにして、出て行った。