クライン 1
少女は歩いていた。どこに向かうのかもわからずに。
少女は歩いていた。真っ白な景色に、透明なガラスのようなものでできた、緩やかな階段をひたすら上っていた。疲れなどない。というよりも、ほとんど何も感じないのだ。踏みつける足の感覚はあれども、永遠に続いているのではと思うほど続く階段は見えども、それ以外はなにも感じないのだ。
少女は歩いていた。自分が何者かもわからずにいた。ただわかるのは、自分の名前がヒミネということだけ。
少女は歩いていた。白いワンピースのような服を纏って、なびかせていた。
ここは夢の中なのだろうか。それならばいつ覚めるのだろうか。寂しさや心細さはもう、とうの昔に消え去っていた。今あるのは疑問だけ。次々と浮かんでくる疑問のどれにも、答えを見出すことができずにいた。
「あ・・・」
もうすでに声など無くしてしまっていたかのように思っていた。しかしその心配も、永遠に続くのではと思われた景色の変化によって杞憂に終わった。
自分の肌の色以外、全て白一色だった世界に突然、色が芽吹いた。階段の続く先には、小さな草地が見えた。人が3人もいればもう立てるところがないくらい小さな草地に、少女は足をつけた。その先に階段は見えず、長い旅路の果てにたどり着いた。
ゴール地点にしては何とも細やかすぎたために、ヒミネは少しガッカリした。他に行く場所などないし、することもないため、ヒミネは今まで歩いてきたガラスの足場を再び戻ろうかと振り向いた。しかし、今まで歩いてきた足場はきれいさっぱり消え去っていた。
驚きはあったが、すぐに平静を取り戻す。すでにこの場所自体が特異な場所だから、今更何が起こっても不思議ではない。
その時、何か違和感を感じた。その違和感は次第に明確になっていく。真っ白に包まれた空間に暗闇・・・というより黒が差し込んできているのだ。
ふと上空を見上げると、そこには真っ黒に輝く黒い太陽が昇っていた。
瞬間
存在していた草木の足場は消滅し、少女は空に放り出される。黒い太陽以外、何もない空間をただ落下する。どこまでも、どこまでも。
着地する地面など見当たらず、その落下は永遠に続くかのように思えた。ただその時を迎えることはできない。
少女は、徐々に気を失っていった・・・・・・――――――――