王子のお妃
北の国の王子の決めたお妃は、どこか違っていた。
この作品は「第三回・文章×絵企画」参加作品です。
出受 遠々様のイラストに文章をつけさせていただきました。
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王子のお妃
北に位置した森の国では、王子のお妃選びが行われていた。
集まること、連れてくること。
ドレスは着ているが、マタニティ・ドレスの娘まで大広間に集まった。
「王子様がいらっしゃいます」
執事の言葉に皆、その王子に視線を集める。
大広間の着飾った娘たちを順に「品定め」をする王子の足は止まらない。
王子が通り過ぎる後には、ため息さえ聞こえた。
「これで終わりか?」
王子の落胆の声が大広間に響いた。
「遅れて、申し訳ござません……」
息を切らせて入って来たのは、森の奥に住む村人たち。
急ごしらえの「輿」に乗った娘を見て、一度は静まりかえる。
「なんと、美しい姫であろうか……」
「森の奥に、かような姫がおったとは……」
執事も知らなかったのだ。
もちろん王子の花嫁はその場で決定した。
しかし……。
姫は何も喋らない、薄眼を開けて眠ったままだ。
しかし王子はお構いなしに、姫を結婚式までそっとしておいた。
式は椅子に座ったまま、それでも無事に終わった。
「恥ずかしがり屋なのだろう、妃としては慎ましくて申し分ない」
王も女王もそう言って、さっさと二人きりにしてやった。
その夜のこと。
誰に教わるまでもなく、王子は妃にキスをした。
「なんといい匂いがする」
嗅いだことのない香りがたちこめる、王子は服の上から妃の体をそっと撫でた。
まだ少し硬さの残る肌は、それでも滑るように王子の手のひらを受け止めた。
しかし、妃の目は「瞬き」ひとつすらすることはなかったのである。
これにはさすがに立腹した王子は、森の奥に向けて兵士を連れ押しかけた。
森に続く山道は、久しく来ないうちに凹凸もなく草も生えていない。
「うむ、勤勉な者達だ。これは皆も見習うべきである」
早速「娘の輿」を担いで来た者が王子の前に引き立てられる。
娘は屋敷の中で「眠って」いたのだ。
「早速そこへ、案内せよ」
さらに山道を進んだ先に娘の屋敷があるという。
途中、道の両脇には執事さえ初めて見るモノが並んでいた。
「なんと軽い布、なんと奇妙な箱、あの花など根も無いのに咲いている」
「やはり、立派な屋敷の娘であったか」
王子は、少し傾いた屋敷の中に執事と入って行く。
「誰か、おらぬか。王子様がご挨拶に来られたぞ」
「………」
「誰か……」
「チュウ」
鳴き声と同時に王子の身の丈を超える「どぶネズミ」が慌てて飛び出した。
驚きもせず、執事は王子に言った。
「この部屋には誰もいないようです。上にも部屋があると聞いています」
階段横の壁にはところどころに大きな亀裂が走っている。
上の部屋の痛みはさらに激しく、物音もしない。
「もういい、十分だ。妃は酷く心を痛め、あんなことになったのだろう」
屋敷から出て来た王子と執事を、兵士たちが安堵の面持ちで迎えた。
「妃を、わしは大切にしてやろう」
そう言って、王子がもう一度屋敷を振り返る。
グリーンの屋根は半分程欠け、白い壁にはツタがこびり付いていた。
付近がまた静けさを取り戻す、カラスが一声鳴いた。
その「コロポックル」たちを見送るのは、カラスの巣に運ばれた「塗装の剥げかけた王子」だった。
私としては、難しかった。