五円
宙に浮かんだジジイは目をカッと見開くと、薄汚い袋を水原達に目がけて振りかざした。中からは無数の石が出てきて、彼女達を襲った。石はジャラジャラと音を立てていて、流れる勢いは止まらなかった。よく見るとそれは五円玉だった。
水原達は大量の五円玉の応酬を受け、金きり声をあげながら、ただ悶えていた。ジジイは表情一つ変えることなく攻撃を止めない。しばらくの間、私はその様子を眺めていたが、今がチャンスと考えた私は、放り出されていた自分の財布と、鞄を取り返した。
そしてクロックスを履き直したときには、ジジイの袋からは、すっかり五円玉が出尽くしたようであり、辺り一面は無数の五円玉で埋め尽くされていた。水原達は頭を抱えて呻き声をあげながら、その場にしゃがみこんでいた。私がジジイの方に目をやると、目が合った。
たまらず私が何かを口に出そうとした時、ジジイは私に向けて紙切れを一枚放り込んだ。紙切れはゆっくりと宙を舞って、静かに地面に着地した。再び私がジジイの方を見ると、既にジジイは遠くの方へと飛び立っていた。私が紙切れを拾い上げると、それは五百円札だった。
五百円札に描かれている岩倉具視はクシャクシャになっており、すっかり汚れていたそれには達筆で「御縁アリ」と書かれていた。
やがて水原達が頭を摩りながら、起き上がろうとしていた。それを確認するや否や、私は五百円札を握りしめ、走って逃げた。その途中で依然として倒れていた前髪を上げた女を踏んづけてしまったのは偶然である。
私は無我夢中で走った。次々と曲がり角を曲がり、気が付けば全く知らない所にいた。尚も走ることを止めなかった私は、懲りずにクロックスにつまずいて転びそうになった。そして私は偶然にも曲がり角を曲がった男性に衝突した。ラブコメの王道展開そのものだった。男性は私をしっかりと支えてくれた。
「大丈夫?」
彼は優しそうな声だった。私は慌てながらも、何とか返事をした。見ると彼は私と同じ高校の制服を着ていた。私が気付くと同時に彼もそれに気付いたようだった。しばらく、私たちは黙って見つめ合っていた。
御縁アリ。