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第五話 信頼とそして……

 俺は放浪の旅のついでに、ティナの住まいを探している。だから、別にコイツと仲良くするつもりも理由もないのだ。いや……確かに女性運も友人運もないから、した方がいいのは分かっている。一定の時期は友達とかいたのだが、いつの間にかボッチになってたし。てか、そんな事はどうでもいいんだ。俺はティナに対して信用というか、信頼というか……そういうのが芽生えてこない。芽生えてこないのに……なのに、コイツときたら……。


「メイさんは、どうしてここに来たんですか? 人間は他の種族と仲悪いのに……」


「来たかったから」


「なんで来たかったんですか? よりによって魔人の国なんかに……」


「気分だ気分」


「メイさんのレベルはおいくつなんですか?」


「……少し高い程度」


「具体的には……? 教えてくれませんか?」


「そのうちな……」


「その服はなんですか? とてもヘンテコで……なんと書いてあるのか……」


「私服だ……」


「人間はこんな服着るんですね……学びました」


 ……と、こんな感じだ。警戒心を持たれるよりはまだいい……いや、ヘタしたら警戒心持たれた方がいいな。こんなに話を続けられても、ぶっちゃけどうしたらいいか分からない。……てか、お前もっと大人しかったろ。少なくとも俺が牢屋にいた時期は!


「メイさんおいくつですか?」


「……17」


「私より1つ年下ですね! 私の方がお姉さんですよ!」


「そ……」


「メイさんは料理するんですか?」


「したら世界が滅ぶ」


「……それほどお上手なんですね! 今度戴きたいです!」


 はい、死人一人投入。俺の料理食ったヤツ多分死ぬぞ。半目でそう思いながら、俺はウンザリしている。対して相手はメチャクチャ楽しそうだ。


「死ぬつもりか」


「それほどの腕前なんですね! 楽しみです!」


「……はぁ」


 ある意味当たりだよ。……つか、賑やか過ぎるというかなんというか、やっぱり一人旅の方が気楽でいいな……。相手の言葉に適当に相槌を打っていると、そろそろ面倒にもなってきたので、こいつに指摘してみる。


「……お前、喋り過ぎじゃね?」


「へっ……あっ……」


 ……気づいたか? ……いや、何故頬を染める? 女は分からん。そう思いながら、ティナの方をチラッと見ている。すると、頬を染めて、残念そうな顔をしてティナが謝ってきた。


「ごめんなさい……」


「……はぁ」


 なんで謝った……とため息をつく。別に怒ってはいないのに、なんで謝ったのかが全然分からん。そんな反省したような顔を見せてたのも束の間、ハッと何か思い出したかのように相手が言葉を発してくる。


「……そういえば」


「またか?」


「うっ……」


 俺がビシッと指摘すると、苦い顔をして、項垂れている。……いやいや、どんだけ喋りたいんだよコイツ。俺はため息をつきながら、仕方なくこう言う。


「はぁ……次が最後な……次だけは聞いてやる」


「あ、はい! えっと……何にしようかな」


「お、おう? そんなにあんのか?」


 アイディア詰めすぎだろ……会話に飢えてたのか? 楽しそうに、何を喋ろうかと思っているんだろう。少しだけ楽しそうに考えて、相手がハッとなって言ってくる。


「……ふふ、私……こんなにお喋りだったなんて……」


「自分の事もわかんねぇのはもう末期だぞ」


 頭をかきながら、相手にそう言った。自分のことくらいは分かっておけと言いたい。そうしないと、自分がどうしたいかすら分かんねぇだろうし。


「そう……ですね。私、きっとそうなんだと思います」


「うぐっ……」


 コイツ……俺の嫌味を受け入れやがった。しかもかなり深刻な表情しやがった。流石に美少女の顔立ちでそれをやられると辛い。いやいやと顔を横に振り、こんな考えを振り払う。


「ま、いいか……」


 挙げ句には開き直り、自分は悪くない。そう思うことにした。


「……っへ?」


「なんでも……ん?」


 言葉に出ていたようで、なんでもない。そう言いかけた時だった。ずっと進んでいて、俺は目先にある物にふと気がついた。……建物や、奥には山のような、イビツな形の岩が見える。


「ああ、ここは鉱山の街ですね」


「……知ってるのか?」


 相手が知ってるかのように話していたので、聞いてみることにする。すると、相手は肯定して、この街の事を話してくれた。


「はい、この街の近くに坑道があって鉱石を掘り出してお金を稼いでる街なんです」


「……鉱脈渇れろ」


 半ば冗談のように呟いて、街の方を睨みつける。……つかまた嫌な予感しかしないんだよ。


「な、何を言ってるんですか!?」


「おっと……口が滑った……がいい――――」


 ティナの方を見てやめる。コイツの攻撃力は俺の防御力を上回ってるんだ……なんか逆鱗とかに触れたら、下手したら殺られる……!


「な……なんですか? 今度は」


 ジッと相手を見ていると、ティナが不思議そうに聞いてくる。こんな考えしてると知られたら何されるか分からん……。とりあえず、


「……いや、そういや綺麗な容姿してるなと」


 分かりやすいお世辞を言い放つ。


「へっ、へぇっ!? そっそんなっ……そんなこと言われたの初めてで……その……!」


「あー……」


 お世辞だっつってんだろ。くそ、本気にされた。これはこれで面倒臭いんだよなぁ……。


「あっ、あの……本当です……か?」


 見てみると頬を染め……ティナが顔を近付けてくる。いや、近い近い……

 ……

「……」

「な、なんで黙ってるんですか!」

「い、いやな……」

「……!馬鹿ッ!」

「なんでッ!?」


 叩かれたっ!?


「むぅぅ……」

「理不尽……過ぎね?」


 うわー……

 女ってわかんねぇわぁ……


「理不尽じゃ……ないですよ……」


 ……いや、理不尽だろ。



 こんなやり取りの中、俺らは街の中へと入っていった。


「ほー……日本では見られねぇ光景だなぁ」


 よく外国で見る、石造りの道や建物。

 流石、異世界か。


「日本……?メイさんの故郷ですか?」

「あ……ああ」


 大丈夫だろう……

 こう……

 なんつうんだ?

 うん、大丈夫だ。

 日本って単語は知らねぇだろうから。


「……思った。持ち合わせがねぇ」

「へ?」

「いや……な。まじで……無一文……なんだ」

「…………あっ……良かった……400シルドありました……」


 おや、シルドか。

 通過単位はシルドというらしいな。


「これで二人、確か……二日くらい泊まれますよ」

「お、まじか」


 良かったな。

 なんせ異世界に来てからというもの、まともに寝た試しが……

 いや、牢屋で熟睡してたのを忘れてたな。


「じゃあ、宿屋を探すか。余った金で飯でも食おう」

「あ、はい!」

「……の前に、お前だけで泊まりたいか?」

「……は?」

「飯は取りたいから奢って貰いたいが、お前の金だろ?俺が宿に泊まっていいのか?」

「勿論ですよ?」


 ……やっぱ変なヤツだよな……


「お、おう」

「なんでそんな事を聞くんですか?」

「……いや、興味本意だから」


 会話しながら、宿屋を探す。



「そういや……魔物か……」


 魔物といっても戦った事なかったな。

 あんな機械がうじゃうじゃするところに単独で送り込まれるとかあり得ねぇしな。

 ……あり得たから送り込まれたのか。


「あっ!パーティ組みませんか!?」

「……は?」

「経験値が分配されますし、これからの事を考えると……」

「……ここに住むんじゃないのか?」


 俺は冷静にそう言った。

 お前の住まい探してんだぞ。

 なのに、パーティ組むとか……


「……で、でも!」

「あーはいはいはい、取り合えず、信用出来るようになってからな」

「……信じるしかないって……いって下さったのに……」

「それはそれ、これはこれ。それより宿屋探すぞ」

「…………はい」


 すげぇしょんぼりしてるが、仕方ない。

 まだ全面的に信用したわけじゃねぇよ。

 人はこういうときでも平気で裏切るからな。


「……あっ……ここですね」

「……ここなのか」


 相変わらず読めん。

 ローマ字でもねぇし。

 てか根本的に文字じゃねぇんだよなぁ

 にょろにょろの文字だったり記号だったり。

 バラバラだ。

 俺らは宿屋に入った。


「いらっ……しゃい」


 角の生えた男性がいきなり喧嘩腰に身構えてる。


「取り合えず、一泊したいんだが」

「魔人一人100シルド。人間一人10000シルドだ。嫌なら出てけ」

「なっ……!そんな……!」


 ティナは動揺してるが、俺はまぁ、当たり前だと思った。

 初めの村であんな目で見られたなら、他の村や街でも扱いは同じの可能性が高いしな。


「俺はいい。邪魔したな」

「め、メイさん!?」

「あっちも商売だ。仕方ねぇよ」


 そう言って軽く手を振り、俺は宿屋を出る。


「……結局野宿か」


 ティナは宿だし、俺は村の中で寝るか。

 外で寝るとか魔物に襲われにいくようなもんだからな。

 どこかベンチみたいなとこがあればな……


「うわぁぁ!!人間だぁッ!」

「きゃぁあッ!」

「逃げろッ!殺されるぞッ!」


 ……通行人がいなくなった。

 すげぇな。

 ……あっ……

 もう夕方か……

 気づかなかった。


「腹減ったな……だが」


 これじゃあ、食えるかも怪しいな。

 足元を絶対見られるだろ。

 そうなると300シルドじゃ絶対足りねぇ。

 てかそもそも貸してくれる保証もねぇ。

 結局は狩りになるか?


「……狩っても調理できねぇな……」


 くそ……

 人並みになりてぇ……



 ちょうど、ベンチのような物を見つけたので、俺はそこに座った。

 ……遊具らしきものがあるから、公園だなここは。

 魔人の子供は俺の事など気にも止めず、遊んでいるが、親が強引に連れていってしまう。

 ……不愉快だな……

 慣れてるけど。


「……メイさん、見つけました」

「……ティナか。どうした」

「はい。買ってきました」


 手には肉まんのような物を持って、俺に手渡してきた。

 そして俺が座っているベンチに腰をかける。


「……」


 やっぱ、コイツ変なヤツだな。


「ど、どうしました?気にいりませんか?」

「いや……なんでお前は……俺に飯をくれるのかとな」

「……お腹が空くのは……苦しい事だから……」


 ……やっぱり甘いな。

 でも……

 なんだかんだで助けられすぎたな。


「その……感謝する……お前は宿屋で食ってこいよ。俺は一人でいい」

「いえ大丈夫ですよ」

「……お前も目をつけられんぞ」

「いいんです。それに宿はとってませんし」


 ……本当に……

 甘い……な


「そうかよ……勝手にしろ」

「ふふ、お友達とこうやって食べるの、久しぶりです」

「なっ……友達ッ!?」

「ち、違いましたか……?」


 ……友達になった覚えなんて無いんだがな……

 でも……まぁ……

 いいか……


「お前、ここに住むのか?」

「いいえ?私、住まいは後ででいいと思ってますから」

「……そう……か」


 ……

 おもむろにステータスと念じ、魔法やスキルといったもののさらに下へと意識を集中させる。

 選んだのは


 パーティ勧誘


「へっ……!?」

「……お人好し過ぎるからな……少しだけ……信頼してやるよ」


 上からではいけないと思ってる。

 が、接し方を忘れた。

 年上、友達。

 その接し方を。


「ありがとう……嬉しい……です」



 パーティ

 メイ モトシマ

 セレスティナ・エルローゼ


 経験値分配

 メイ モトシマ 0%

 セレスティナ・エルローゼ 100%


 ……経験値分配があってよかった。

 俺に入れても確実にレベルは上がらない。


「……えっ……?」

「……ん?」

「レベル…………1……?」

「……まさか……!」


 俺はパーティメニューの、セレスティナ・エルローゼに意識を集中させる。



 セレスティナ・エルローゼ

 レベル 8

 HP79

 MP32

 攻撃力16

 防御力24

 魔法攻撃力24

 魔法防御力16

 素早さ32



「な……なんなんですか……?この……ステータスは……!?」

「……っちぃッ!」


 俺はすぐさま解散をする。

 迂闊だった。

 パーティを組むということは自身の内を晒すということだったのか。

 クソッ……


「へっ!?メイさん!?」

「……やめだ……コイツも……いらねぇ……!」


 俺は肉まんみたいなものを……

 捨てた。

 そして、踏みつける。


「何が……信頼出来るだ……俺の能力が見たかっただけだろ……?」

「なっ……!違います!私は……!」

「ッケ……真っ先に見たヤツがよく言うぜ……」


 コイツは俺の秘密を知りたいのか?

 なんでいきなりステータスを見やがった……!

 クソ……

 不愉快だ……ッ!


「ここで別れようぜ。あんたは信用出来ない」

「まっ……待って……」

「待たない。……本当……俺が馬鹿だった」


 クソッ……

 俺は早足で女と離れる。

 友達……?

 関係ねぇ……!


「私……メイさんに見離されたら……ッ!私ッ!」

「っへ!てめぇは魔人様だろ?人間には住みにくいんでね!こんな所ッ!」


 追いかけてきやがって!

 来んなよクソ野郎ッ!


「ついてくんなよッ!おいッ!」

「メイ……さん……」

「絶対に……来るんじゃねぇ……」


 クソッ……!

 俺の言葉に女は止まる。

 やっと止まったか。


「……私…………どうしたら……」

「ケッ!」


 俺はこの場を逃げ出した。

 それに地味に人だかりが出来ていたから、丁度いい……

 この街とは……

 あの女とはもう……!

 おさらばだッ!

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