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第四話 脱獄

前回までのあらすじ。飯を食えたから脱獄計画。


さて、俺は今問題を抱えている。そう……何故今まで気づけなかったんだ……。うずくまり、自分の醜態に頭を抱えたくなって、それでも出来なくて……。俺の敵は身近にいた……そして、すぐそこまで迫っている。これは一刻を争うんだ……! 気づけば……もう……!


くそ……! もっと早く……もっと早く気づければ……! 自分の愚かさに気づいた頃にはもう遅い。自分の危機管理力の低さが恨めしい……!


「腹……が……いてぇ……!!」


一番の敵……便意だ……。


「ほぉぉッ……!!」


やばい……! やべぇやべぇやべぇ! うぉぉぉッ……。一般高校生が見せる、めちゃくちゃ汚くてカッコ悪い所だ。うずくまり、腹を……腹を……抑えて……ッハ……!!


「これじゃ腹を抑え……れねぇじゃねぇか……!」


そうだ、今俺は、ロープで縛られている。つまり、両手が使えないということだ……! 最悪だ……! まじで……! うぉぉぉ……!

そ、そ、そうだ! さっき、アイツに食わせて貰ってからかなり経ってる……! 来るはずだ……! ヤツが……! そう思うこと数分が経ち、ついに待ちわびたヤツがきた。


「メイさんー……えっと……どうしました……?」


ヤツは、俺を見るや否や、不思議そうな顔をしてこちらに駆け寄ってくる。


「とっ……とっ……トイレ行きてぇ……」


震える声で、我慢しながら俺は用件だけを言う。あ、やばい……波が……あうち……!


「っへ?」


未だ理解していないのか、俺の言葉を聞きなおすかのように変な声を漏らしていた。なんで分かんないんだ!? あ、うあ……!


「まじで……! 漏れるって!」


きっと俺は必死の形相で助けを求めているのだろう。鏡なんてないのだが、それだけは容易に想像できる。心に余裕がねえんだって……! ぐぉぉおお……! 腹が……まじで……! 波がきてんだよ!


「お、おトイレ……です……か?」


遅かったものの、聞きなおしてきた。俺はその返事に対してブンブンと頭を縦に振り、懇願していた。


「ああ! 頼む!」


そろそろ尻が浮いてきた。これは、限界に近い証拠だぞ!? まじで!


「わ、分かりました。ロープを一度ほどきますね」


相手は牢屋を開け、俺のロープを外す。ロープが外れた際に即座にとった行動は、腹を抑え、ケツを抑えたという手の動き。絵にするとムチャクチャカッコ悪いし、とても女性の目の前ではしてはいけない体勢だろう。それでも、せざるを得ないほど、今真面目にピンチなのだ。


「な、なぁ……トイレってどどこだ……!?」


つうか、牢屋にトイレねえってどういうことだよ!? なんでさせてくれねえんだ!? 俺は二次元のキャラクターじゃねえっつうの!! そう思った俺は焦りながらトイレの在り処を質問する。その質問に相手は冷静に受け答えしてくる。


「えっと、入り口とは反対方向ですよ」


「分かった!」


嵐の如く、俺はその方向へと走り出した。

まじで、漏れそうだったのだ。


そして、そのトイレを見たとき絶句した……。


「ボットン……便所……?」


うわぁぁ……くせぇ……こんな所……ですんのか……? いや、それよりも用を足すか。


「あー……紙は植物の葉でやれってか」


トイレにあった観葉植物であろうものの、葉っぱを抜いて、それで拭いた。


「ふぅぅ……」


俺の戦いは終わったな……。さて、戻るか。


「……部外者がここで何をしておる!!」


「そ、村長……!」


戻ろうとそう思った時、誰かの怒鳴り声と、ティナの小さな声が聞こえた。俺は嫌な予感を感じて、小走りで元の場所に戻る。みると、二つの影が見えて、一人はティナだと分かり、もう一人は……あの老害だと分かった。


「折角の人間を……憎しみの根源を捕まえたというのにッ! それを貴様はッ!!」


「で、でも……おトイレへ行きたいって……」


「そんなもの逃げるための口実であろうが!! それになんだ! その食べ物はッ!!」


「こ、これは……」


おいおい、白熱してんなあ……。なんとか弁明しようとしているティナは、言葉を探して目を泳がせている。ティナが持っている食事を睨みつけながら、老害は拳を握っている。


「こんなものッ!」


「ぁっ……」


俺は見た……美味しそうに湯気のたつスープが溢されたのを。それを見て、俺の中でドクンと何かが動き出すのを感じた。これはきっと……憤り。


「そ……んな……」


「セレスティナッ! 貴様! 飯も与えておったのか! 愚か者ッ! 部外者であるお前が何故この村にいれると思っておるのだ!! 恩を仇で返すとはッ!」


「きゃッ……!」


バチンと、高い音が聞こえた。おいおい……! 無抵抗の女を叩くとかSかよ。


「……お腹を……空かせてるのに……!」

「それで良かったのじゃ! それを貴様はぁぁあああッ!!」


またバチンと叩く。飯も無駄になってしまい、挙げ句にあんなに叩きやがって……俺は走る。老害とティナの間へ。数秒でつき、老害に嫌味をぶっかけた。


「よぉ、ハゲ頭。イカれてる頭はまだイカれたままのようだな」


「な……! ノコノコと帰ってきおったか! これは好都合ッ!」


「……はぁ」


俺は老害の態度にため息をつきながら、座り込んでるティナの元へと寄る。こうなったからには逃げるのが得策なんだろう。だから、助けてもらった恩も一応あるわけだし……とティナに話し掛ける。


「ま、なんでこんな選択肢が出るのかと疑問に思うだろうな。だけども、答えろよ」


内心やりたくない気持ちでいっぱいなんだ……誰が好き好んで人を助けるってぇの……ま、コイツの選択くらいは聞こう。


「へっ……?」


「こんな村から出るか、みすみす俺を逃がした罪でひっ捕らわれるか」


「ええと……」


小声でやり取りしている為、幸い俺たちのやり取りは老人には聞こえていないようだ。しかし、俺たちが何かしようとしてるのは分かっているハズ。


「兵士よ! 人間とその逃亡を手助けする、セレスティナ・エルローゼを捕まえろッ!」


「……はぁ」


ため息をついてしまった。用意周到過ぎんだろこの老害は……また牢に入れられるのは、ハッキリ言ってごめんだし、さて、お暇する時間だ。


「お前はどうする? 俺は逃げるが、牢屋で死ぬまで過ごすか?」


ニヤニヤと嫌味ったらしく俺は言う。俺はどっちでも構わないんだ。ただ助けてもらった礼と、気が向いただけって話なんだから。


「い……嫌です……! たすけ……たすけて……!」


「……まぁ……そうなるよな」


コイツも連れてくとなると……ちょっとばかし荷が重い気もするが……まぁ、ここだけは一緒に切り抜けるか。手を引いてくなんて危なっかしい事は出来ねぇし……あれしかねぇよな。


「背中に乗れ」


「でも……」


「安心しろ。一回は一回だ。俺はお前の甘さに助けられたからな」


ちょっと気恥しい思いもしてる。だけど、命を繋いで貰ったのは事実だしな。俺はしゃがみ込みながら、ティナが乗るのをまだかまだかと待ちわびてる。


「……」


「迷ってんなら置いてくぞッ!」


「は、はい!」


そう返事すると、俺の体にコイツの全体重が乗る。おっ……おも……!


「おま……重いな……!」


「え……!? そ、そんな!?」


狼狽えるティナを俺はおぶって、立ち上がり、足を踏み込む。なんとか走れそうだな。


「掴まってろよ……!」


「……へっ!?」


全力疾走! 老害の横を素早く駆け抜け、階段から降りてきた兵士らを横目に俺らは通り過ぎる。どうも素早さだけは高いからな。目で見れても追い付けないのだろう。しっかし、逃げる時には便利だなこれ。


「な、なんだ!?」


「あいつだ!」


「追いかけろッ!」


そんな兵士の言葉を耳にして、俺は村の外まで走っていった。止まったのは俺が疲れきった頃だった。


「はぁ……はぁ……こんな……もんだろ……」


俺はティナを降ろし、座り込んだ。めっちゃくちゃキツいな……人を背に乗せて走るとか。


「は、速いんですね……」


少しだけボーッとしていたティナが言った。まぁ、レベル1にしては速いだろうな。息を整えてる為、俺は返事はしない。


「もしかして、レベル30とかいってたりして……」


小声で呟いたのを俺は聞いた。いや、1だけど。とは言わない。言ったらめんどくさい気がする。絶対なんか言われる。


「……ふぅ……で、お前はこれからどうするんだ?」


「村には帰れそうもありませんね……どうしよう……」


俺の質問に対してティナは困ってるような表情をして言った。どうしようって言われても……なぁ……。


「……はぁ」


これ作った原因は俺だよな……どう考えても……。コイツが追われてんのも、住まいを無くしたのも。俺がなんか食いもんをくれって言ったからだしな……だけども、別に悪いとは思っていない……ハズなんだ俺は……。


「どうします? メイさん?」


「……お前は……どうしたい?」


何故か俺に聞いてくる。いや知らねぇよ……ほぼほぼ他人みたいな関係なのになんで俺の意見を聞くんだ……。


「……どうしたら……」


「…」


あーあ……なんだっつうんだよな。これなら俺のせいだと罵倒された方がマシだっつうの。昔から言われてて慣れっこなんだし……こういう状況のほうが戸惑うわ……。仕方ない……か……落胆しながら俺はティナに提案する。


「……目的はない、放浪の旅……」


「……?」


いきなりの俺の言葉に相手は首を傾げる。


「その……ついでにお前の住まい、探してやるよ……殆ど俺のせいだしな」


償いっつう、面倒くせぇ事を考えてんな俺は……つか、本当はこんな性格じゃねーんだ。俺は。助けられちまったからなぁ……それにどう応えりゃいいのかわかんねぇんだよ。しかも、相手は自己犠牲っぽくなって帰るとこ無くなっちまったしな。


「……私の?」


「ついでだついで……!」


どのみち、今の俺は何処かの街や村に、たどり着かなければならない。だったら、ここらへんのどこぞの街や村に、コイツを置いていく事にしよう。その方が手っ取り早いし、楽だ。


「いいんですか……?」


「来るなら来いで嫌なら自分で探せよ」


「嫌だなんて……言いませんよ! あの……よろしくお願いします。メイさん!」


「……ああ」


素っ気なく返事をして、俺は頷く。こういうのは慣れない……こういう性格だから友達が離れていく訳だが仕方ない。


「こっちか!?」


「遠くへはいってないハズだ! 捜せッ!」


「俺はこっちを捜すッ!」


兵士の叫ぶ声が聞こえる。ここももう見つかるリスクが高い。森の奥に行けばきっと見つからないハズだ。


「おっと……とりあえず、ここからもう少し離れるか」


「は……はい!」


前途多難な異世界生活。俺は一人の少女と行動を共にする事になった。本当は一人で旅をしたかったが……贅沢は言うまい。それに文字も読めないし、同行者はいたほうがいいか。


「そういや、俺は人間なんだが?」


走りながら、ティナに意地の悪い言葉を放つ。そして、ティナは笑いながら言った。


「メイさんなら、大丈夫ですよ!」


「……変なヤツ」


俺はそう言って前を向く。本当に変な奴だな。初めは拒絶したのに……。

こんないきなりで理不尽な召喚から、俺の異世界ライフは始まった……!

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