第二話 圧倒的数字
経験値を数えてる部分で九が抜けていたのを修正。
前回のあらすじ。
世界が……変わった……!?
地図も土地勘も、挙げ句にはコンパスもない中、俺は人里を勘で目指し、歩いていた。
無論、魔物と思われる、機械みたいなやつを避けて。
同レベル帯の魔物が出るところから始められる勇者が、どれほど幸運の持ち主かが分かった気がする。
現実じゃ不可能に近いんだな。
……つか召喚俺をしたの誰だよ。
どーせ国家レベルの魔法使いなんだろ?
ありきたりなんだよ……。
「どーせなら可愛いお姫様とかがいいけどなぁ……」
つうか、今はそんなヤツもいねぇから!
マジで呼んだの誰だよ!
「確かになッ! 異世界にこれてまぁ……面白そうだとは思ったさ! だけども――!」
近くにあった木の後ろへと隠れる。
敵が……機械みたいな奴がいた……。
【機械兵】
【機械兵】
二匹とかなんなん? そんなに俺をイジメたいのか? クソッ! 戦えると分かれば出ても歓迎なんだがな!
木から離れ、ゆっくりと機会兵とは距離を取る。そろりそろりと忍び歩き……幸い、気づかれずに撒けたようだ。
「ったくよー……」
疲れるし、何分、見つかるリスクが高いから走れない。木から木へと忍び足でいくのが限界だ。
その時、グゥゥゥッと腹から音がする。
……腹の虫が鳴って、腹も限界だ……。
「はぁ……」
この際、食えればなんでもいいや……空腹が今は一番の敵だ……もう移動したくねぇー……!
腹を擦りながら、ゆっくり、のそのそ歩いていく。
「腹減ったぁぁ……」
腹の虫が盛大に合唱する。一人合唱とかクオリティたけえな。
……そんなことはどうでもいいんだよ。
「街とか、村とか、最悪民家でもいい。人が……いや、食い物あればいい……」
……そういやこの世界の通貨はなんだろう。あれか? 金貨とか銀貨か?
銅貨か?
「やべぇ……思考回路が定まってねぇ……いや、定まってるのか? 食いもん限定で」
独り言が多いのは突っ込まないでほしい。
喋ってないとストレスが溜まるのだ。
「はぁ……」
溜め息が自然と多くなる。異世界万歳とか言ってた俺に拳を振り下ろしたい。……いや、ここを抜ければなんとかなるか? と思って遠目で見てみる。するとあったんだよ。
森が。
「クソがぁあああああッ!!」
不運だ! 不幸すぎる!
「なぁ! これ行かなきゃ駄目か!?」
独り言が多い。突っ込みをいれるほど多い。でもなぁ、森を抜けろってか?
「嫌だな……てかここもそろそろヤバイな」
魔物がまばらにこちらへと近づいてきてる……ような気がする……てかこんな草原に滞在しても意味はない。それに森の中なら食料があるかもしれない。……てか腹が減りすぎて腹がいがいがする……どんなものでも腹に入れたい。
「……行くか!」
仕方がない。森を抜ければ流石に人里があるハズだ。……多分……あるはずだ。……もしかしたらある……はずだ……。
かなりの不安を募らせながら、俺は忍び足で森へと向かう。時にはほふく前進をして、時には丸まり、時には伸びをして進んでいった。
しばらく、そんな行動をとっているとギギギッと、金属が擦れるような音がして、ビクッとする。聞こえる距離にいるというのが分かるからだ。
……そして、その音が数回くらい聞こえた時、事件が起こる。
「ヒョウテキハッケン……ハイジョ」
とか言いながらオノを振り回してきやがった機械兵がいた。
目の前には巨体のロボット……感じた事もない、恐怖が俺を襲う。
「ちょッ……!?」
大きさは2mくらいあるロボッツにそんな真似をされると、真面目に足がすくみそうになる。いや、まじで。気づくのが早かった為、俺は即座に走る。
「おおっとっと!? ちょっ、ふべッ!?」
……転がりながら顔を地面にぶつけ、擦っていくという新しい転びかたを覚えた。いや、そこじゃない。走った時の速度に驚いた。全力で走ると、下り坂での自転車並のスピードが出るのだ。体感で。でもとてつもなく速い。この世界基準では分からないけれど、速いと断言出来る、元の世界じゃ。ボ○トにさえ、今では勝てるだろう。……もしかしたら、盛ったかもしれない。
「……これなら走っていったほうが早いんじゃね?」
てか最初から気づけばよかった。今までお忍びで森へと近づいてたから、かなりタイムロスしてる。
「流石に全力はキツいかなぁ……」
因みに機械兵はクソ遅い。動作が一つ一つ重いのだ。だからといって攻撃に出るほど馬鹿じゃない。
攻撃にでない理屈は、あれは見た目が堅いから堅い。そして見た目がカッコいいから強いということだ。
……自分でもどんな理屈だと突っ込む。
「軽く、ジョッグ並のスピードで走ろう」
と走ってみる。すると、ジョッグで走りの全力疾走並のスピードが出ていた。これでHP減ってったら嫌だなぁ……HP今69だし。自然回復してねぇなぁ……なんで少し減ってるかって? さっき転けたからだよ!
「ふぅ……ふぅ……はぁ……はぁ……」
数分間走るだけで息切れ。いや……確かに、この世界に飛ばされる前は……はぁ……はぁ……運動……んなしてなかったけど……はぁ……。
「づがれ……すぎだろ……ぜぇ……すぅ……はぁ……ぜぇ……」
こりゃあ……あれだな。もうスタミナはレベル関係なさそうだな。うん。これから毎日運動しよう。そうすれば長い距離を走れる……! 俺の勘では!
「……つかやっと森の前なんだな」
遠目で見れば見える距離を、こんな疲れながら……あー……折角なら城があってくれよ。そんなら勇者ーとかいって世界を守れーとかなるから。……やっぱ駄目。その後の処理が大変だ。
そういえば次のレベルまでの経験値、ちゃんと数えてなかったな……次のレベルまで一、十、百、千、万、十万……おい、兆いったぞ。千兆の次は……京か? ……いや、まてこら。こんな桁数日常じゃあ出てこねぇよ!! ふざけんな! 数百万でもうキツいんだぞ!? なんだよ京って!!
……因みに記憶を振り絞って数えた。
九溝九千九百九十九穣九千九百九十九じょ九千九百九十九垓九千九百九十九京九千九百九十九億九千九百九十九万九千九百九十九ポイント。
レベル上がらんやん。嘘だろ……何、溝って……初めて使ったわ。
「約十溝ってよ……」
はぁ……異世界ライフ……憂鬱になりそうだ。
「つかこのままじゃ、ただ素早い野郎じゃねぇか」
最悪だ……そんな事を口走りながら、俺は森の中へと入っていった。森……かぁ……進めど進めど、緑、緑……それに薄暗い……。
「あーあ……やっぱ入るんじゃ無かったかね……」
今更言っても仕方ない事を言う。ま、どーせあんな草原にいても餓死してただろうな。つーか! 腹減ったッ!
「なんで異世界来てよ、食料不足に陥ってんだ……!」
駄目だ……腹減っててイライラし始めてきてる……クソッ……! あー! もう!
「やめよう……今は人里を探すことを優先だ……」
腹を満たしたら……後のことは考えればいい。何事も……と思っていた。
「いい加減森を抜けさせてくれよ!!」
何千歩歩いたんだ!? なんで着かないかねぇ! クソッ!!
「あーッ! イライラが押し寄せてくるッ! ……あーあ……あんときカップラーメン食えりゃあなぁ……」
少しはマシだったろうなと愚痴を溢す。みっともないのは許してほしい。空腹がイライラという仲間を呼んでくるのだ。
「はぁ……」
何度目の溜め息だ? ったくよ……!
まだまだ時が過ぎる。
唯一幸運なのは、魔物と出会わない事だろう。森とかならエンカウント率が高いからな。……ゲームじゃねぇはずなんだけど。
「腹……いや、これ以上言うのはやめよう……ああ腹減った……」
ロクな事がない。異世界ってこういうとこだっけか? 黙れない俺は、しばらくブツブツと喋っていると、気になるもの……影のようなものを見つけた。
……ん? ガサガサと何かを探しているような行動をとっている……魔物か? それとも人か……? そう思い、ジリジリと近づいてみるとすぐに姿をあらわした。人……!? 女性……か? なんだが、おかしいぞ? 頭にツノが生えてる? ……飾り物にしちゃ、不自然に皮膚に密着しているな。しかも……尻尾まで生えてるのか? なんなんだ? あれか? 悪魔的な?
じゃあ天使もいんのかよ。
髪は……なげぇなぁ……色は銀か。顔は……美人だな。たぶん。胸もまぁ、それなりにあるんじゃないか? と、容姿を観察していると、女がこっちに気づきやがった。
「だ、誰ですか……?」
いや、気づかれてない……!
そうだ……俺は木だ。ここの……松の木だ! どうみても松の木ではない現物と、真似をして、その場で佇む。
「あの……丸見えですよ」
「……まじかよ」
素直に俺は格好を戻した……ん? そういえば話が通じてるぞ!? うっし! 無意識にガッツポーズをとり、俺は心無しか嬉しい気持ちになった。
「……ぁ」
瞬間、女の顔が青ざめる。……その顔を見て、さっきまで嬉しかった気持ちもどこかへ消えてしまう。
うっぜぇな……人を顔面だけで判断すんなよ……! 俺は会ったばかりのこの女の評価を最低にまで下げた。現在……何位だ? わからん。
最低まで下げた理由は、青ざめた表情とかを、学校の女子によくやられていたのだ。決まってこう言われる。
『生きてて恥ずかしくないの?』
「くそがぁぁぁああああッ!!」
「ひ……! にん……げん……!?」
「人間だわ! 誰がエイリアンみてぇな顔だ! こちとら人生のエディット画面をスキップさせられてこんな顔になったんだわッ!」
俺は言ってる意味が分からないのに、憤り、言い放った。クソッ! 馬鹿にしやがって! 何が容姿おまかせ設定だ! 外見くらい自分で決めさせてくれよ!
「ひっ……!」
……ところでなんで腰抜かしているんだ? 俺、別に襲うとかしねぇぞ? いやいや、流石に人道は外れてるけど、異性を襲うのは男として駄目だろ。あっ……そうだ、いいこと思い付いた。
「なぁ、アンタ、食べ物恵んで貰えないか?」
食べ物をくれたら評価を上げてやろう。もう何位とか分かんないけども。いや、評価とかはぶっちゃけどうでもいいんだが。
「た……助けて……!」
「助けてほしいのはこっちだぞー。こちとら空腹なんだっつうの」
俺は無意識に半目になり、女に言う。それでも、その女は俺の話を聞こうとはしない。
「誰か……! 誰かぁッ!」
「人の話を聞け……」
なんなのこの女……話通じねぇ……容姿はいいのにこれは酷い。初めて会った異世界人がこれはちょっと酷い。これが男だったら尚更酷い。
「なぁ……聞いてるか?」
「ひっ……」
「……個人の偏見でいつまでも他人を見やがって……」
襲うつもりはない。ましてや殺そうだなんて思ってもねぇ。こんなオープン(笑)なのにどんだけ怖がってんだ。確かに顔は悪いけどよ……でも人は顔じゃねぇだろ。中身だよ中身。容姿で人を判断しちゃいけません。
……言ってて少し虚しくなる。自覚してるもんで……。
「だからな、容姿や主に顔で人を判断すんなよ」
俺は何故か説教モードに入ってた。自身の持つ正しいと思っていることを口から出任せも含めていい放つモードだ。……自分で言ってて何言ってんだコイツと思ったのは内緒だ。
「大体、とって食おうってワケじゃねぇから。いや、腹減ってるけどさ」
「……嘘ッ!人間は……人間は……嘘つきなんだッ!!」
女はそういい放ち、体を起こして走り去った。
「あの女……なんだったんだ……」
まぁ、今更何言われても傷つきはしねぇ。反論はするけどよ。頬をぽりぽりと掻きながら、女の走っていったほうをずっと見ていた。
「ついでに俺はまだ嘘ついてねぇぞ」
ポツリとこぼした独り言は、誰も聞くとはなかったけども。