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第1回公判後編、2回公判

 着替える義務ってなんだ? 傍聴席で隣同士で囁きあい、裁判長が木槌を鳴らした。


「静粛に。検事はもう少し分かりやすい表現をして下さい」


「資料の3ページ目を」


 検事はそう前置きした。


「資料映像を思い出して下さい。黒い太陽の戦闘員達は立ち上がった後、服を脱ぎ黒タイツ姿となった。明らかに黒い太陽の戦闘員です。狼ガッツも民間人には見えない。皆さんは疑問に思いませんか? どうして黒タイツになるのか。黒タイツにならずレッドの油断を突いた方が良いのではないか。その答えがその資料です」


 資料にはハーグ陸戦条約とあった。


「戦闘員は戦闘時に戦闘員と分かる姿をする。一言で言えばそれがハーグ陸戦条約の戦闘員定義です。誤って民間人を巻き添えにしない為の国際ルールです。黒い太陽はそれを厳守し、民間人に被害が及ばないように安全に気をつけながら世界征服を行っているのです。にもかかわらず、ギャラクシーレッドは戦闘形態にならず戦闘を続けました。これは明確な条約違反であり、その結果起こった事故には当然責任が発生するものと考えます」


 傍聴席、陪審員席がざわめく。そのような取り決めがあるならば、着替えられるなら着替えるのは当然ではないか。


「確かにハーグ陸戦条約は国際ルールです。それは厳守すべきでしょう。ですが適用するのは、それこそ戦時のみ。日本は戦時ではありません。よって、ハーグ陸戦条約を守る必要はなく、それによる責任も発生いたしません」


 あ、そうか。と傍聴人、陪審員が頷く。ブルーと蝙蝠ガッツの視線が激しくぶつかった。


「そもそも、黒い太陽は戦闘服を着ていると言いますが、果たして黒タイツは戦闘服なのでしょうか。黒タイツで戦闘が優位になる要素は見当たらず、それを持って黒い太陽は戦闘服を着ているが、ギャラクシーレッドは戦闘服を着なかったとの指摘にはなりません」


「戦闘に有利になるかならないかではありません。戦闘員に見えるかどうかが重要なのです」


「黒タイツなど変な人でしかなく、戦闘員に見えるとは思えません」


「資料の4ページ目を」


 ざっと一斉に資料を捲る音が響く。


「街中で黒タイツ姿を見て、それが黒い太陽の戦闘員と判断するかどうかを1万人を対象に無作為に調査いたしました。その結果、99.8%の人が、黒タイツの人間がいきなり飛び出してくれば黒い太陽の戦闘員だと認識するとの回答がありました」


 傍聴人達がざわめく。0.2%は何と間違うというのか。


「残り0.2%は、無作為のアンケートで遭遇した日本全身タイツ同好会、通称、全タイの皆さんです。彼らはマイノリティー(少数派)であり、一般的な感覚と同一視する事はできず、実質的に100%の人が黒タイツは黒い太陽の戦闘員である。と認識しています」


 全タイは海外メディアでも取り上げられた同好会だ。会員は色とりどりの全身タイツを見に付け集団で町を練り歩いたり、お互い愛撫しあって全身タイツの感触を楽しんでいる。


 その後もブルーと蝙蝠ガッツの攻防は続き、一回目の公判は幕を閉じた。



 二回目の公判に、ブルーは参考人を用意した。ギャラクシー戦隊局局長である。


 定年間際の白髪頭の老人だが、時にギャラクシーシルバーとして戦いに参加するだけあって年齢の割りに体力があるが、やはり見た目は老人である。電車やバスで立っていて学生にシルバーシートを譲られると、わしはそんなに年寄りじゃない! と怒鳴り散らし、善意を台無しにするのだ。


「我がギャラクシー戦隊は公安組織であり、軍隊ではありません。黒い太陽の戦闘員を捕らえようという行為を、便宜上、戦闘と呼ぶ事もありますが、実際は捕縛であり戦闘ではありません」


 検事こと蝙蝠ガッツが反論する。


「ですが、ギャラクシー戦隊と黒い太陽との戦闘では、お互い死者も出ています。それを戦闘ではないとは誰も認めないでしょう」


 確かにギャラクシーイエローは戦闘で亡くなった。カレーが好きだった。


「銃器を持った犯人に警官も拳銃で応戦し、死傷する事もあります。ですがそれにハーグ陸戦条約は適用されません」


「公安組織だから戦闘ではないとは詭弁でしょう。それが通るならば、軍隊を公安組織に属させれば戦時国際ルールを守る必要がなくなります」


「しかし実際、日本は戦争状態ではない。戦争状態でないのならば戦時国際ルールを守る必要はない」


 確かに。と陪審員が頷く。


「戦時国際ルールは、何も戦争にしか適用されるものではありません。内乱状態にも適用されます」


「内乱? いつ日本が内乱状態となったのですか。確かに黒い太陽による政府機関への襲撃、それを守るギャラクシー戦隊との戦闘に、ギャラクシー戦隊そのものを狙った戦闘。それらはあります。ですが、内乱とは程遠い」


「ですが、日本は内乱状態であると訴えたではありませんか」


「誰がですか?」


「貴方が」


 法廷の全ての人間がざわめきギャラクシーシルバーを凝視した。だが、シルバー自身、何を言われているのか分かっていない。


「貴方は去年の国連会議に出席しました。間違いないですね?」


「あ、ああ」


「その時、黒い太陽の脅威を国際社会に訴えたはず。黒い太陽の脅威に人々は恐れおののき不安に外出もできず、経済損失も莫大であり、国際機関は全力を持って日本を支援して欲しいと」


 しまった! 予算が欲しくて、かなり大げさに言ってしまったんだった!


 その後帰国すると、あの演説では日本に他国の軍隊が来てしまうと顔を青くした大臣が待ち受けており、ならば日本単独で黒い太陽を撃退できるようにと予算を強請り上手く行った。本部の全ての部屋にエアコンが設置された。


「国連に日本の混乱を訴え、それで内乱でないとは通りません」


 思いも寄らない指摘にシルバーが返答に窮した。皺だらけの額に汗が浮かぶ。


「内乱だったが、もう収まった」


 認めてどうする! シルバーの失言に、ブルーの視線が憎悪に燃えた。


 やむなく、シルバーは老齢で疲れていると退出させ、時間を残したまま2回公判は閉廷したのだった。

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