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第1回公判前編

 ギャラクシー戦隊は、日本政府の公安機関に属するれっきとした国家組織だ。その主な任務は、黒い太陽を名乗り世界征服を掲げる秘密結社と戦う事である。


 武器の研究、供給を考えれば自衛隊に属した方が効率が良いのだが、市街地でのギャラクシー戦隊の武器使用を自衛隊にも適用し、自衛隊の武器使用の前例を作る陰謀なのだ! と五月蝿いとある野党に配慮した結果だった。


 そしてギャラクシー戦隊の活躍により、黒い太陽のアジア攻略の足がかりとした日本侵略は遅々として進まなかった。では、アジア以外の地域はどうなっているかといえば、特に活動していない。中東が混乱していると聞き、その混乱に乗じようと中東進出を目論んだこともあるという話だったが、そのまま立ち消えている。噂では、中東に行っては見たものの、マジ過ぎる。と言って引き揚げたという。


 こうして日本限定で黒い太陽とギャラクシー戦隊との戦いは日々続けられていたのである。そして、その巻き添えで早乙女数馬(21)さんが死亡したのである。


 世論は黒い太陽を非難し、黒い太陽は日本支部長ティラノガッツと狼ガッツの上司である白熊ガッツが早乙女数馬さんのご両親宅に見舞いの品と共に謝罪に行き、賠償も約束した。報道陣も駆けつけ、日本支部長の巨体が苦労しながら小さな一軒家の玄関を通る姿は日本全国に放送されたのである。


 早乙女数馬さんのご両親は、その誠意ある対応に謝罪を受け入れ、息子は運が悪かったのだ。あれは事故だったのだと述べた。そして被害者の遺族が謝罪を受け入れた以上世論も収まって行った。だsが、本当に運が悪かっただけなのだろうか。この悲劇は避けられなかったのだろうか。


 市民団体は徹底的に調査し、そしてギャラクシーレッドこと山田正平の告訴に辿り着いたのである。


 検察による追求が続いていた。


「ギャラクシー戦隊と黒い太陽との戦いはこれが初めてではありません。戦いは日々行われ、パニックにならず冷静に判断できたはずです。にもかかわらず、その判断を誤ったのは責任を問うに十分と考えます」


 裁判長が頷き、次に被告側の発言を促した。進み出た黒いスーツをきっちりと着こなし、視線に鋭さと知性を宿すこの弁護士は、実はギャラクシーブルーでもある。


「冷静に判断できれば事故は防げたはずと言いますが、それは結果論というものです。現場では、その状況で知りえる情報だけで行動するしかありません。ましてや早乙女数馬さんを殺害したのは走って逃げていた被告ではなく、その後ろに続く狼ガッツです。それを被告に罪を問うのは、交差点を通り過ぎた後、その後続車の事故責任を問うようなもの。被告には責任はないと考えます」


 陪審員達は頷き、ブルーは手ごたえを感じた。後ろに回した手で、レッドに向かって親指を立てる。レッドは頷き、笑みを浮かべる先は婚約者のギャラクシーピンクである。祈るようにして被告席に立つフィアンセを見守っている。


 元々ピンクはブルーと恋人同士だった。だが、レッドの荒々しい中に潜む優しさに次第に惹かれ、しかしブルーは裏切れない。その葛藤に苦しむ彼女を解放したのは、ほかでもないブルーだった。


「僕は君を愛している。だからこそ君には幸せになって欲しい。君の幸せがレッドと共にあるのなら、僕は身を引くよ」


 ブルーは素晴らしい人だ。それはそれとしてレッドと付き合い始めたピンクだった。


 交際は順調に進み、ピンクはレッドを警視総監である父親に彼を紹介したが父は怒鳴った。


「なぜレッドなんだ! ブルーじゃないのか!」


 レッドはその身体能力を買われギャラクシー戦隊の一員となっていたが他に職はなく、ピンクパパは、弁護士と兼任のブルーを気に入っていたのだ。


「レッドの何がいけないの!」


 そういうピンクはまだ学生だが、国家公務員上級甲種試験を受ける予定であり、合格間違いなしと言われていた。父と同じく警察機構の上級職を目指している。レッドを愛しているが、父も尊敬しているのだ。


「どうしてお父さんはレッドを認めてくれないの……」


 どちらとも離れる事が出来ずピンクは涙した。その姿にレッドが苦悩する。父を捨てて俺に付いてきてくれ! それが言えればどんなに楽か。


 ブルーは親身になってレッドの相談に乗った。だが、解決策は見出せずレッドもテンパりだす。


「ブルーとレッドを変わってくれないか」

「……それでは解決しないだろ」


 ブルーになだめられ、結局ずるすると交際が進み、ピンクパパが諦めるという形で何とか問題は収拾したのだった。そして、婚約し結婚式場選びを始めた途端にこの事件が発生したのだった。


 ブルーの弁護に検察が反論する。


「後続車の事故は無関係と言いますが、その後続車はレッドという車を追っていた。それはレッドも認識していたのです。レッドが止まれば後続車も止まっていたのです。必然的に後続車の事故も発生しません。レッドがすぐに戦闘形態に変わってその場で戦っていれば防げた事故だったのです。責任がないとはいえません」


 検事はずり落ちても居ないメガネを人差し指でくいっと上げた。実は彼は蝙蝠ガッツである。改造手術を受ければ容姿が大きく変わるはずだが、彼の手術は失敗し、背中に小さな羽根が生えているだけだった。銭湯や温泉に入れない以外は、生活に支障はない。


 思いの外手強い検事にブルーの視線が鋭さを増した。


「レッドは黒タイツの戦闘員や狼ガッツの攻撃により、戦闘隊形に変わることが出来なかった。一旦逃げて戦闘員達を引き離し、戦闘隊形をとる時間を稼ぐ必要があった。そうさせたのは黒い太陽であり、レッドに責任はないと考えます」


 だが、ブルーの答えを予測していた検事は余裕の笑みだ。


「では、前もって皆さんにお渡しした資料の2ページ目をご覧下さい」


 裁判長、陪審員、傍聴席の人々の資料をめくる音が収まるのを待って検事が話を再開する。


「そこに記載されているように、戦闘形態になる瞬着にかかる時間は、0.002コンマ秒です。瞬きする間もありません。そしてその下に記述しているのが、狼ガッツや黒タイツがレッドを襲っていない時間です。まず戦闘開始、戦闘員が着ていた服を脱ぎ、襲い掛かるまで。ここで3秒、時間があります。次に3人目の戦闘員を倒して4人目がレッドに襲い掛かるまでに2秒。次に――」


 検事は次々と、戦途中の’間’を読み上げていく。


「以上、レッドが逃げ出し早乙女数馬さんを身代わりにするまでに、18回の瞬着の機会がありました」


「裁判長。身代わりという表現は陪審員への印象操作です」


「認めます。検事は表現を変更するように」


「早乙女数馬さんとすれ違うまでに、18回の瞬着の機会がありました」


 裁判長は頷くがブルーは苦い表情だ。いくら訂正しても、一度耳にした記憶が消えるわけがない。だが、ブルーも負けてはいない。


「瞬着、とは、つまり戦闘形態に着替えるという事です。確かに18回’着替える’機会はありました。ですが、お前が着替えなかったから人が死んだんだ。このような主張が認められるのでしょうか。そのような主張が認められるならば、この世は犯罪者だらけです」


「確かに、着替える着替えないは個人の自由。それに犯罪を結びつけるのは、その自由を侵害するものです」


 ブルーの主張を認める検事の発言に、傍聴席がざわめく。ピンクも戸惑い、ブルーは裏に何かあるのかと眉間に皺がよる。状況が分からないレッドの目が泳いだ。


「ですが、当時のレッドに着替えない自由はなく、着替える義務があったと考えられます」

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