プロローグ
幅5メートルほどのスクリーンにある映像が映っていた。
ジャンバーとジーンズというありふれた姿の若者がカフェで珈琲を飲んでいると、突然、彼の周りに座っていた客達が突然立ち上がり、自らの肩に手を置く。次の瞬間、着ていた服を引きちぎり、その下から黒い全身タイツが姿を現した。
「キーッ!」
叫び若者に襲い掛かった。若者が応戦する。黒タイツはビルの陰からも続々と現れ、若者が薙ぎ払う。力量の差は歴然だ。後ろから襲い掛かった黒タイツに、若者は余裕の笑みを浮かべる。背負い投げで地面に叩き付けた。黒タイツはビクンと痙攣し動かない。
「どけい!」
獣のような雄叫びと共に現れたのはまさに獣。二本足の狼。武器なのか肩には斜めに鎖がまきつく。黒タイツ達と比べ物にならない威圧感。若者の顔から余裕が消える。
「食らえ!」
肩の鎖を振り回し若者を襲う。間一髪、横っ飛びに避け、回転して起き上がる。鎖が届かぬところまで距離を置こうと駆け出した。二本足の狼が鎖を振り回し追いかけ、黒タイツも続く。
若者が角を曲がり、狼男が追う。かと思われた瞬間、曲がったはずの若者が姿を現した。狼男は反射的に鎖を放ち若者の脳天が打ち砕かれた。脳漿をぶちまけ倒れる。
「貴様!」
狼男と黒タイツの視線の先に、怒れる若者がいた。殺されたのは似た服装の別人だった。間違われ巻き添えを食らったのだ。
「瞬着!」
若者が叫び光を放った。気付けば黒い皮つなぎに赤いアメフトのような防具を身に付け戦闘形態だ。頭は昆虫の複眼に、必要性が怪しい角が何本も生えていた。
変身した若者は強かった。狼男に多少苦戦したものの、装備した武器を駆使し黒タイツを含め1人で倒してのけたのである。そして映像が終わった。暗かった部屋にも明かりが付く。
黒い法衣の老人が眩しそうに顔を歪ませた。さらに検事、弁護士、陪審員、傍聴人、そして被告。裁判に必要な人々が一通り揃っていた。そう、ここは裁判所である。
法衣を纏った裁判長に促され黒縁メガネの検事が進み出た。
「見て頂いたのが、秘密結社、黒い太陽が撮影した記録映像です。ですが、この映像には不可解な点がいくつかあります」
検事は傍聴人、陪審員が言葉の意味を飲み込むのを十分待つと先を続ける。
「変身したギャラクシーレッドは、黒い太陽のリーダー職にある狼ガッツとその部下である黒タイツの戦闘員を1人で倒してのけました。間違いないですね?」
陪審員と傍聴人が頷く。
「では、なぜ初めから変身して戦わなかったのか。初めから変身して戦えば、あの若者は死ななくて済んだのではないか。戦っていた場所は見渡しの悪い市街でした。そこを逃げ回れば市民が巻き添えにあう危険は十分予測できたのではないか。ギャラクシーレッドこと山田正平に、被害者である早乙女数馬さん死亡について、業務上過失致死傷を求めます」
行儀よく直立不動で検事を睨むレッドから歯軋りが漏れた。