第八話 少年との遭遇
続きます。
僕が連れてこられた倉庫の周辺には、小さいながら商店街が広がっており、ある程度商品も残っていた。
そこから服や食料など必要最低限の物を確保し、先ほど探し当てた僕の荷物とまとめた。
「あとは・・・」
「武器だね。何かあればいいけど」
鈴の呟きにそう返答しつつ、うーんと少し悩んだ。
最初にあいつらが来たとき、確か対物ライフルを使っていたはずだ。
そんなものを持っているのだから、僕が使えそうな武器の一つや二つあってもいいだろう。
ただ、どこに隠しているのかがまったく検討がつかなかった。
「・・・やっぱりあそこかなぁ」
「あそこ?」
僕はいまいち行く気になれないが、このエリアで探していないのはあそこだけだ。
というか、あそこは本来こういうのを目的として造られているでしょ。
そんな慰安所みたいな使い方をする場所ではない、たぶん。
「もしかして、倉庫?」
「うん。そこになかったら武器は諦めるしかないよ」
たぶんあると思うけど。
付け足しながら僕たちは倉庫に向けて歩き始めた。
ここにいた人たちは全部で10人だった。
その10人の死体はすでに一箇所に集めておいている。
正直きつかった。特に見た目が。
まぁ、悪者といえどもみんな仲良く昇天したいはず。
そう思ったから集めたんだ。僕ったらもはや女神だね。
せっかく女神になったんだから、同じ神さまが始めたこの馬鹿げた劇をさっさと止めたいところだよ。
「うーん、それっぽいものは、特にないみたいだね」
やはり倉庫の中にはあのベッドもどきくらいしかない。
隠し部屋でもあればいいんだけど。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「え」
レイにお姉ちゃんと呼ばれ、思わず困惑してしまう。
いや、レイは鈴でもあるからいいんだけど、なんだかなぁ。
「慣れない?」
「慣れないね」
長年歩、歩と呼ばれてきたからね。
鈴だと気づいてもやっぱり違和感は拭えない。
「そっか、お姉ちゃん」
鈴はニコっと悪戯っぽく笑いながらそう言った。
「・・・歩に直してくれる、とかじゃないんだ」
「だって困ってるお姉ちゃんが可愛いから」
おぅ。
何この子、やけにグイグイ来るね。
なんか、はっちゃけたというか・・・やけくそ気味にも感じられるけど。
「ところで、なんだっけ?」
「そうそう。あそこ、なんか怪しいと思うんだけど」
あそこって、え・・・あの白いカーテンで区切られたところ?
・・・確かに怪しい。
そういえば遊佐さんもあそこに入っていった気がする。
「なんで気づかなかったんだろう」
「さぁ?」
ともかく、いざ突入!!
「おぉ、見るからに怪しい扉が」
白いカーテンを取り払ってみると、立ち入り禁止と書かれた鉄製の扉が出現した。
これは、きっとありますね。
「開くかな?」
扉は結構錆び付いており、触るのも躊躇いたくなるくらいベトベトしていた。
「じゃあせーので開ける?」
「そうしよう。じゃ、いくよ」
一瞬目線で合図し、助走するスペースを軽く開ける。
そして。
「「せーの!」」
二人が同時に体当たりすると、がこっという音と共に扉は開いた。
というか、既に開いていた。古すぎてきちんと閉まっていなかったようだ。
となると、勢い余った僕たちは思い切り前のめりになり。
「ぐふっ・・・」
「あ、お姉ちゃん大丈夫!?」
先に着地した僕の上に鈴が降ってきた。
もちろん飛行石なんてないからフルパワー全開で。
背中の脇腹側に肘が入りすごく痛い。
でもなんか一応一緒に女の子的な成長も感じられた。
「そっか、三年経ってるんだもんね」
「え、何の話?」
「こっちの話」
背中に受けた痛烈な痛みと微かな柔らかみを僕は決して忘れない。
「って・・・」
顔を上げると、なにかとてつもないものが目に入った。
確かに、あっても不思議ではなかったけど。
「バイク?」
「や、まぁ確かにバイクだけど・・・」
このバイクはただのバイクではない。
KLX250。
自衛隊で正式採用されているオートバイだ。
オフロードにも特化していて、運転手の技量もあるが大体どこでも走れる。
あと何がすごいって、最初から無線機用ラックに荷物を置けるってところだよね。
ちょっと荷物がかさばりそうだったからちょうど良かった。
「ちなみに、運転できるの?」
「え?一応免許は取れるよ」
一応これでも17歳だから。
「で、運転したことは?免許証は?」
「・・・どっちもないね」
鈴は溜息を吐き、やれやれというふうに首を振った。
ごめんね!なんかごめんね!
「ま、まぁ乗ってるうちに慣れるよ。きっと」
「そんなこと言ってたら慣れる前に事故るよ」
それは最悪なフラグだよ・・・。
「取り敢えずこれとそこにあるヘルメットは持っていこ?」
「・・・せめて練習はしてから乗ってね」
「・・・うん」
なんで移動手段を手に入れたのに気分を沈めないといけないんだろう。
・・・免許取っておけば良かったかな。
KLXを手で押し倉庫の外へ出る。
ふぅ、空気がおいしい。
あの中ってよっぽど汚れた空気だったんだね。
「待って・・・」
ふと、鈴が私の腕を取った。
「え、なに?」
急に足を止められると、ちょっと困る。
このバイクを倒したら大変だからね。たぶん私だけでは起こせないと思う。
「荷物のところに誰かいる」
「・・・まじで?」
僕たちの場所から民家を曲がってすぐのところに荷物はおいてある。
ただ、ちょっと民家の塀が邪魔で荷物は見えないけど。
「どうするの?」
バイクのスタンドを立て両手を空ける。
僕は一応拳銃を持っているが、万が一の時に当てられる気がしない。
相手が銃を持っていたらとても厄介だ。
「私が殺してもいいけど・・・」
「それはダメだよ」
「だよね」
あくまで僕たちの目標は残りの人間の生存だ。
こんなところで一人失うのは辛い。
「僕が行ってみるよ」
「・・・ん、気を付けて」
鈴の言葉を聞き、覚悟を決めた。
パッと民家の影から飛び出し拳銃を荷物のところにいた誰か、おそらく高校生くらいの男に向ける。
「動かないで!」
「なっ!?」
僕と男の間を一陣の風が流れた。