第七話 救うという決意
またごちゃっとしてきたかも。
悪い癖ですね。
鈴。
僕の妹。
鈴は頭こそ良くなかったけど、スポーツ万能で元気な子だった。
自分で言うのもなんだけど、お姉ちゃん子でいつも一緒にいた。
僕もシスコン気味で友人から引かれるほど妹にベタベタしていた。
ある意味で相思相愛。
年が離れていたせいもあるけど、僕は妹を愛していたんだと思う。
というか、鈴は誰からも愛されていた。
見ているだけでも面白いし、話していれば時間を忘れられる。
そんな可愛い可愛い妹だったんだ。
あの日が来るまでは。
「歩・・・」
そんな鈴と、今目の前にいるレイは、同一の人物だった。
よく考えれば、レイと出会った時のことを僕は覚えていない。
そう、気付いたらいたのだ。
タイミングも理由もわからないけど、気付いたら僕とレイは一緒に旅をしていた。
ただ、レイの存在が現れたとき、すでに鈴はいなかった。
正しくは鈴がレイとなった。
そこまでは理解した。
理解できた。
けど・・・。
「ごめん、ちょっと整理させて。今の僕には理解できないよ・・・」
けど、一つだけわからないことがある。
それは。
「レイが、人類を消し始めたなんて・・・」
レイ、すなわち鈴がこの現象のトリガーなのだ。
あの倉庫で見せた殺戮劇は、倉庫の外でも繰り広げられていた。
僕が『死んでしまえばいい』と思った時、レイは僕のすぐそばにいたという。
そして、僕の願いを叶えてあげようと思い、あんなことをしたと・・・。
「そうだね。あの日も僕は・・・私は願っちゃったね」
「・・・」
あの日。
あの日、私と鈴は喧嘩をした。
『なんでこんなことをしたの!?』
あの日、鈴は私の作っていたジグソーパズルを壊してしまった。
3000ピースの大作で、しかも完成まであと僅かだったパズルを。
『だって、お手伝いしたかったんだもん・・・』
『だからって・・・』
この時の鈴はまだ小学校低学年。
パズルを壊してしまうのも仕方のないことだと、私が割り切れていれば何も起こらなかったのに。
『まぁまぁ、お姉ちゃん。そこまでにしておきなさい』
『そうよ。鈴だって悪気があったわけじゃないのよ?』
両親も私を宥めてくれていた。
でも、私にはそれが逆効果だった。
『二人とも鈴の味方するの!?』
ただ宥めているだけの言葉だったのに、この時の私には叱られているように感じたんだ。
『もういいよ!!』
激昂した私は、言ってはならない一言を言ってしまう。
『皆死んじゃえ!!!』
この時の両親の困惑顔、鈴の泣き顔を私は一生忘れられないと思う。
まず家から飛び出したのは鈴だった。
私のすぐ隣を走っていった。
この時鈴を無理やりにでも捕まえていれば、こうはならなかっただろう。
次に飛び出したのは私、そしてすぐに両親だった。
時間差があまりなかったため、私は飛び出した途端両親に捕まった。
でも、鈴は違った。
鈴はすぐ近くの神社へ行ったらしい。
そこで願った。
『お姉ちゃんに許してもらえるように殺してください』
それで、鈴は神と契約し一度殺された。
ここら辺は詳しく教えてもらっていないが、鈴はそれからすぐにレイとして私の前に現れた。
妹としてではなく、“死神”としてだ。
「レイ・・・鈴」
「なに?」
「今まで、本当にごめんね」
僕は鈴に抱きつき、子供のように泣いた。
辛い思いをさせてしまってごめんね。
こんなことをさせてしまってごめんね。
あの時にあんなことを言ってしまってごめんね。
謝って許されることではない。
それはわかっているけど、僕には鈴に償うだけの力がない。
鈴は神と契約し、死神となった。
死神と一言に言っても、目的を果たせば力尽きる。
目的とは、皆を殺すこと。つまり、僕以外の人類を殺してしまうことだ。
これは既に決められた運命であり、覆すことは不可能だと鈴は言う。
殺されるにも順番があり、まずは僕に直接『死んじゃえ』と言われた鈴と両親、その次からは僕と親くない人順に死んでいくらしい。
つまり、親友・恩人と呼べる人が後まで生き残り、嫌いだと思っている人や他人であるほど先に死ぬということだ。
「あと、何人生き残っているの?」
「あとは、大体500人くらい」
500人・・・。
もうそんなに進んでいたのか・・・。
「・・・止めよう。残りの人だけでも助け出したい!」
「それは・・・」
無理かもしれない。
でも、やってみないとわからない。
どうせ何もしないで待つくらいなら、なにかして終わりたい。
そんな決意を胸に、僕は鈴の手を取った。