第六話 レイの姿
若干胸糞・グロ注意。
「お、起きたみたいだな」
女性、名前は遊佐というらしい、と話していると、いかにもヤンキーという感じの男が倉庫に入ってきた。
遊佐さんとの会話でいろいろ分かったことがある。
この集団は三年前、人類が死滅の道を歩み始めるよりも前に、高校の部活で一緒だった人たちで構成されているらしい。
なんでも、その高校というのは僕の地元にあったということだ。
「あ、あの・・・」
「あ?」
ユサさんが男へ話しかける。
男は一応返事をしたが、その視線は僕に固定している。
なんだろう、鳥肌が立つ。
「この子、まだ目が覚めたばかりだから・・・」
「俺には関係ないね」
何の話だろうか。
なんとなくこうだろうな、という予想ができてしまうが。
「俺は昨日自重したんだぜ?今日くらいいいだろ」
「だったら私が!」
「お前には飽きたんだよ」
昨日・・・。
昨日、僕は何かされたんだろうか。
思い出せない。
けど、なんか気持ち悪くなってきた。
「どけって!」
「きゃ」
男は思い切り遊佐さんを蹴り飛ばした。
そして、舌舐めずりしながら僕に近づいてきた。
今ならまだ逃げられる。
行くなら今しかない。
そう思った時、男は僕を見下ろし言い放った。
「まー、もう処女ではないが、まだ新品もいいところだろう」
「しょ・・・!?」
体が硬直し、動かなくなる。
湧き上がる吐き気を必死に押さえつけ、フラッシュバックする昨日の記憶を整理する。
処女ではない・・・か。
「くぅっ・・・」
「ん?思い出したか?」
そうだ、思い出した・・・。
昨日の夜の出来事を。
頭の中をよぎるのは、気持ち悪い・・・死んだほうがマシだとも思える光景だった。
「ふっ。これからは毎日やってもらうんだからな。これくらい慣れておけよ」
言いながら、男は僕が着ているワンピースの肩紐を下ろしていく。
また、やられちゃうのか。
胸が苦しい・・・。
目を固く閉じ、胸の前で両手を組んだ。
どうして僕がこんな目にあわなきゃならないんだ。
くそぉ、こいつらが死んでしまえば。
死んでしまえばいいのに!!
「あ・・・れぇ?」
ふと、男の素っ頓狂な声が聞こえた。
目を開けると、今までニヤニヤと笑っていた男の顔が、ぐにゃりと歪みながら膨張していっていた。
そして、限界点を超えるほど肥大した顔は、風船の如く破裂した。
男の汚い血が頭に降りかかる。
世界で一番最悪なシャワーと言えるだろう。
「な、何をしたの!?」
遊佐さんは訳がわからないというふうに、取り乱しながら僕に聞いてきた。
そんなこと聞かれても僕だってわからないよ。
と、答えようと思ったが、やめた。
というより、言っても無駄だと思った。
次は遊佐さんの顔が歪み、巨大化し始めたのだ。
「ぐっ・・・い、いやああぁぁぁ!!!」
絶叫と血液シャワーのダブルコンボをくらったが、今の僕にはどうとも感じなかった。
なんというんだろう、この気持ちは。
そう、そうだ。あれだ。
「快感、っていうのかな」
我ながらだいぶ危ない快感だなぁ。
別に殺人鬼ってわけじゃないけどさ。
「まぁ、いっか」
そう呟きながら、僕はベッドから降りて倉庫の出口へと向かった。
歩きつつ乱れたワンピースを整える。
なんでもいいからはやく着替えたいな。
「そうだ、使えるもの、ないかな?」
男と遊佐さんだったものを見て、そんなことを考えた。
そして、躊躇いなく男だったものを手探りで調べた。
特に役だちそうなものはなかったが、取り敢えず拳銃だけは回収しておいた。
遊佐さんは・・・多分何も持ってないよね。
強いて言うならその豊満な胸が欲しかった。冗談だけど。
今の胸で満足してるしね。
倉庫の出口近くで振り返り、もう一度二人だったモノを見つめた。
二人ともあの時のくま以上に無残な姿だ。
できれば男は地獄、遊佐さんは天国に行っていることを祈る。でもよく考えたら今の天国・地獄って人間だらけなんじゃないの?
そう思いつつ、鉄臭さが充満し始めた倉庫から外へ出た。
「歩」
倉庫から出ると、そこには一人の、夢で見た少女が立っていた。
「レイ」
僕とレイの関係が、少しずつ変わり始めたのは、この時からだったのかもしれない。