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第四話 生存者

ふぅ。

続きます。

 蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちだったんだ。勉強になったよ。

 ・・・勉強にはなったけど、冗談じゃないよ! 


「あ、歩?」


 レイがクイッと僕の袖を引いた。

 その声はどこか不安に震えていた。


 よ、よし。ここは僕が落ち着かせてあげなきゃ!


「だだだだだいじょじょびゅなのだよ!」

「・・・落ち着いて」


 ふえぇ、やっぱり怖いよぅ。

 若干涙目になりながらレイに抱きつく。


 本当に本気で無理だよぅ。

 あんなのと対峙するなんて私には無理だよぅ。


 涙で霞む視界に映る奴を捉え、改めて思った。

 動かなきゃ良かったと・・・。




 事の始まりは数分前に遡る。


「・・・そろそろ下ろして」


 野宿することをやめて歩き出してからもうすぐ30分経つ。

 でも、歩けど歩けど建物一つ見当たらない。


 少しだけ歩いてきたことを後悔し始めていた。


 そんな時、レイが突然そう宣言して、僕の背中から飛び降りた。


「え、いいの?」


 いつもなら僕を奴隷のように使うレイが自分から降りるなんて。


 あ、ちなみに僕的にはレイに奴隷のように虐げられるのは大好きだから問題ない。

 今だってむしろもう少しおんぶしてあげたかったぐらいだ。


「ん。・・・なんか、嫌な予感がするから」

「嫌な、予感?」


 統計を取ったり計算したりはしてないが、レイの予感は結構当たる。


 確率で言えば、どのくらいだろう。

 九割九分九厘、99・9%くらいだろうか。

 

 こう言うと洗剤とかの除菌率なみに信用できなくなるね・・・。


「まぁ、気にし過ぎなだけかもしれないけど」

「・・・警戒するに越したことはないよ」


 僕は荷物を背負い直し、小銃をギュッと握った。

 いざとなったらコイツだけが頼りだからね。

 

 あ!もちろんレイも頼りにしてるよ!


 ザワッ。


 僕が当たり前のことを考えていると、国道外の茂みの何処かが微かに揺れた。

 正確な位置までは分からなかったが、だいぶ近くじゃなかった?


「歩、あそこ」


 レイが茂みの一箇所を示す。


 僕は小銃にセットされているライトで示された茂み周辺を照らした。

 ・・・まだ、なにも見えない、けど。


「来るよ・・・」  

「え?」


 レイが言った瞬間、茂みがガサガサと揺れ始める。 

 そして・・・。


 ヒョコ―――――――


「「・・・ヒョコ?」」


 思わず僕とレイの声が合ってしまった。

 いや、そんなことより待って。ヒョコってなに?


 身構えていた体を解き、ライトで照らされた茂みを覗く。


「こぐま、かな?」

「・・・こぐまだね」


 僕とレイは顔を見合わせそう呟いた。

 そして二人で吐息を吐いた。

 

 なぁんだ、こぐまか。心配して損した。あっはっはっは。


 ・・・というわけではない。 

 逆だ。


「母くま・・・いるよね・・・」

「いるね。たぶん、すぐそこに・・・」


 僕がこぐまの上辺りを指差した時だった。


 オオオオォォォォォォ―――――――!!!!


 とてつもない咆哮。

 なんというか、未来への咆哮・・・みたいな。

 

 冗談言ってる場合じゃないね。テヘペロ。


「きゃ・・・ふご!!?」

「叫んじゃだめ・・・!」


 あまりの恐怖に叫びだしそうになった僕の口をレイが塞ぐ。


 確かに叫べばくまを刺激することになる。

 レイの判断は正しいだろう。


 だが・・・。


「く、くるじぃ・・・」

「あ、ごめ・・・」


 口と一緒に鼻まで抑えられ呼吸が困難となる。

 いや、まって、意識が。


 ちょっと、キツくなってきた。

 と思ったところでガクっと膝から崩れてしまった。


 ここでようやく酸素を手に・・・というか肺に入れることができた。


「すぅ、っはぁ・・・」


 空気ってこんなにおいしかったんだ!

 ちょっと、マイナスイオンとかあるんじゃないの?へ、ないの?


 おっと、ちょっと意識が危ない方へ行くところだった。


 正気を取り戻すのに少々時間がかかったが、取り敢えず大丈夫だろう。

 ・・・なにが大丈夫なんだ。状況はより厳しくなっちゃったぞ。


 ぐるるるる・・・。


 近い、近いよくまさん!

 

 蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちだったんだ。勉強になったよ。

 ・・・勉強にはなったけど、冗談じゃないよ! 


「あ、歩?」


 レイがクイッと僕の袖を引いた。

 その声はどこか不安に震えていた。


 よ、よし。ここは僕が落ち着かせてあげなきゃ!


「だだだだだいじょじょびゅなのだよ!」

「・・・落ち着いて」


 ふえぇ、やっぱり怖いよぅ。

 若干涙目になりながらレイに抱きつく。


 本当に本気で無理だよぅ。

 あんなのと対峙するなんて私には無理だよぅ。


 涙で霞む視界に映る奴を捉え、改めて思った。

 動かなきゃ良かったと・・・。


 後悔後先に立たず。

 悔やんでもしょうがない。

 

「やってみる・・・」

「え・・・」


 小銃の安全装置を外し、3点バーストで母くまを狙う。

 ぶっちゃけやれる気がしない。

 だから。


「撃ったら走って逃げて。できる限り引きつけとくから」


 僕がおとりになるしかない。

 

「い、いや」

「レイ・・・!」


 嫌がるレイをなだめ、なんとか逃がそうと説得するが・・・。


「歩と一緒がいい!」


 ダメっぽいね。


 じゃあどうすれば。

 イチかバチか賭けようか。


「撃ったら走るよ。怯んでるうちにできるだけ遠くまで」


 無理な気がするけど。

 

 くまの最高速度は4~50kmくらいだったっけ。

 なんにせよ生身の人間が走って逃げれるくらいのヤワな相手じゃない。


「3つ数えるから、ゼロでダッシュして」

「うん」


 よし。行くか。

 レイだけでも生かせてあげよう。


「3」


 小銃のサイトをくまの鼻に合わせる。

 くまは鼻が弱点だと聞いたことがあるからだ。


「2」


 覚悟を決めろ。

 やるしかないんだ。


「1」

 

 オオオオォォォォォォ!!!!


「っ・・・!?」

「きゃ!!」


 カウントダウンの途中で、母くまの方がが先に動いた。

 やばい、やられる。


 振り上げた腕を見て、ふとそう思った。

 その瞬間だった。


 ッダアァン!!ッダアァン!!ッダアァン!!


「銃声!?対物ライフル!?」


 くまの咆哮と同等か、それ以上の強さで空気が震える。

 

「あ、くまが」


 レイがくまのいた茂みを指差す。

 そこにはくまが、いや、くまだったものが転がっていた。


「すごい、ヘッドショットだ・・・」


 対物ライフルの12・7mm弾で打ち砕かれたくまの頭は、見るも無残な姿へと変貌していた。


 というか、三頭もいたのか。見えなかった。


「レイ、大丈夫?」

「ん」


 念のため聞いておいたが、レイもこんな光景に慣れてきたようだ。

 慣れて欲しくはなかったけど。


「大丈夫か!?」


 ん、声が聞こえる。

 

「女の子だ!!」

「生きてるぞ!!」


 人間・・・。

 人間?

 まだ、生きてる人がいたんだ・・・。


 その事を確認した瞬間、言いようのない安堵と疲労がドッと溢れてきた。

 ちょっと、眠りたいかな。


「お、おい!!」


 僕の意識はそこで深い闇の中に沈んだ。

遅れてすいません。

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