第三話 夜道を往く
続きます。
「・・・完全に道に迷ったねぇ」
辺りは既に夕日に染まり、木々の間には闇が広がっている。
道に迷ったというか、ほぼ遭難と言ってもいいと思う。
あの後、取り敢えず歩くことにした僕たちは、方角すらあやふやなまま街を離れ、国道に沿って山道を進むこととなった。
しかし、それが大きな間違いであったことを今更になって実感した。
「せめて地図があれば良かったのにね」
「方角すらわからないのに?」
そうですね。コンパスから必要ですね。
とは言っても既に後の祭り。
たぬき型ロボットでもないと取り出せないだろう。
「もうすぐ日が沈みそう」
「えぇっと、かなりやばいね」
日が沈めば野生動物との遭遇率、遭難率も格段に上がってしまう。
いや、もう遭難してるようなものだけど・・・。
それよりも怖いのが野生動物だ。
人類が衰退し始めてからというもの、野生動物たちはその生存圏を拡大させていった。
「野宿する?」
「うーん、この時期だから凍死することはないだろうけど・・・」
ヒグマの繁殖期なんだよねぇ。
今僕はかなり呑気に言ったけど、実際に子連れ母くまに出くわしたら死を覚悟しないといけないレベルで危険だからね。みなさんも6~7月に山に入る際は気を付けてください。
「最悪コレを使うけど」
そう言いつつ小銃を掲げてみせる。
が・・・。
「ぶっちゃけ素人だから使ってもくまに勝てないと思うよ?」
僕的にくま狩りは熟年の猟師がライフルを使ってやるものだと思ってる。
少なくとも素人が小銃持ってやるものじゃない。
「その時は、歩をおいて逃げる」
「え、やめて。お願いだから運命を共にして」
「いや」
レイにびっくりするほどあっさり見捨てられた。悲しい!!
「ほら、もう真っ暗だよ?」
あらら、本格的にやばくなってきた。
国道はまだまだ続きそうだし、なんか遠くで動物が鳴いてるし。
野宿するにするか、このまま進むのか、早く決めないと。
「どっちがいいと思う?」
「進んだほうがいいと思う」
だよね。
少なくとも国道沿いに進めば何処かにはたどり着く。
運がよければ建物が見つかるかもしれない。
進んでも止まっても危険は危険だしね。
「でも疲れた」
「・・・はい?」
レイはスッと両腕を伸ばした。
・・・僕が抱いて歩けと?
「あのね。僕はレイを抱きしめるのは好きだけど、それで歩くのは流石に疲れるよ」
「なに言ってるの?」
「え?違うの?」
「おんぶじゃないの?」
おんぶなの?おんぶですか・・・。
まぁ抱っこよりはマシかな。両腕あくし。
・・・でも結局疲れるじゃん!!
山の中で体力を失うのはきついんだよね。
でも僕とレイとでは権力の差が大きすぎる。
僕は黙って従うしかない。
「さ、進もう」
「・・・イエスサー」
「私はサーじゃない」
あ、イエスマムか・・・。
って、どうでもいいよ!!いや、やっぱり良くないね・・・。
「サーは男性に、マムは女性に使うんだよ」
「ごめんね!知ってるから!」
「むぅ・・・」
どうでもいい知識は結構持ってるんだよね。これでも。
そんなことよりレイが知っていたってことに驚きだよ。
「じゃ、ちゃんと掴まっててね。あと首は絞めないでよ?」
「え?」
「え?」
この子、絞めるつもりだったの・・・。
「・・・冗談」
本当に冗談なんですかねぇ?
疑問というか、警戒心を抱きつつ、夜の国道をひた歩く。