第二十話 勇気
(時間的に)長期連載になりそうです。
どうかお付き合いください。
「な、なんなんですか・・・これ・・・」
鏡花さんが今にも泣き出してしまいそうな顔で聞いてきた。
この光景は慣れていない人にはショックが強すぎるだろう。
朝食が約束の時間に来なかったため、何かあったのかと心配になりロビーまで降りてきたが、まさかこんなことになっていたとは。
女将さんたちだったであろう肉片が散らばったロビーには、血液独特の鉄臭い匂いが充満していた。
「一体誰が・・・」
結城さんが漏らす。
「そんなの・・・決まってます」
そう。
既にその問いの答えは出ている。
こんな光景を作り出せるのは一人しかいない。
・・・神だ。
「っく。一体その神はなにがしたいんだ!?」
「・・・おそらく、私たちを駒としたゲームです」
「ゲーム?」
私は軽く頷いた。
昨日話したのは私とお姉ちゃんの過去だけ。
つまり、死神の役割や神の本質については話していない。
心の何処かで神の許可なく話すことを躊躇ってしまったからだ。
でも、今なら話せる。
話しておいたほうがきっといい。
「その前に、少し場所を移りましょう。結城さん、鏡花さんを頼みます」
確かにこんな場所に長居するわけにはいかない。
今すぐ立ち去ったほうがいいだろう。
でも、お姉ちゃんはこの状況でよくそんな事に気づけたね。
普通ならパニックを起こしてもおかしくない惨状だ。
お姉ちゃんはそんな中ですぐに判断できた。
これはすごいことだと思う。
「私と鈴で荷物を持ってきます」
「あぁ、任せた」
そういって私たちと結城さんたちは一旦別れた。
「鈴、大丈夫・・・?」
二人きりになってすぐにお姉ちゃんは私の心配をしてきた。
ふふっ、私のことにも気づいてくれるなんて、さすがお姉ちゃんだね。
「ごめんね。私、やっぱり怖い」
自分の事を話したら、今度こそ本当に離れ離れになってしまうんじゃないか。
神の事を話したら、自分たちの運命を知って自暴自棄になってしまうんじゃないか。
そんな不安がどっと溢れてくる。
話すべきなのはわかってる。
でも、話しても大丈夫なのか、とても不安になってしまうのだ。
お姉ちゃんは私の震える手を取り、優しく語りかけてくれた。
「大丈夫。結城さんも鏡花さんもわかってくれる」
「・・・本当?」
「うん。それに、お姉ちゃんはずっと味方だからね」
「・・・ありがと」
お姉ちゃんに頭を撫でられすこし安心できた。
そうだよね。
今の私は一人じゃないんだ。
そう思うと、手の震えも段々と収まってくれた。
不安は拭えない。
でも、勇気は湧いた。
「私、ちゃんと話すよ」
「うん、頑張って」
お姉ちゃんはニコリと笑い、もう一度頭を撫でてくれた。
やっぱり私はお姉ちゃんに依存しているんだな。
そんなことを思いつつ、お姉ちゃんの手を強く握った。




