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第一話 泥棒ごっこ

まだ続きます。

 人類の数が急激に減り始めてから今年で3年が経つ。

 原因は不明。終結方法も不明。何もかもが不明のこの現象に人類は恐怖した。


 最初の1年で10億、2年目で50億、3年目では数える人がいなくなるまで死んでいった。


 現在、人類は絶滅危惧種に認定されるほどその数を減らしている・・・と思う。

 おそらく世界に千人いれば良い方だろう。


 そんな中、僕と彼女は出会った。

 これは幸運だろうか、それとも不運だろうか。

 僕にはわからない。


 今生きている事自体、幸運か不運かわからないのだ。

 

 いずれ食料がなくなれば餓死するし、医者がいないから病気にかかれば病死する。

 どの道、僕らのような生存者と死は隣り合っているんだ。それが早いか遅いかという違いしかない。


 それに、ある人が言っていたが、総死者数の二割は自殺だという。


 この世界に絶望し、自ら命を断つ。 

 ある意味、この世界で生きる上で一番楽な手段かもしれない。

 現実を知り苦しむこともなく、あるはずのない希望に縋ることもない。


 でも、僕はまだ死にたくない。いや、死ねないんだ。


 彼女の寝顔を見ながら、僕はそんな事を思った。


 彼女は自らをレイと名乗った。

 年齢は12歳らしいが、どこか大人びた雰囲気を持つ少女だ。


「はぁ・・・」


 ふと、少し嫌なことを思い出してしまった。

 妹の鈴のことだ。


 まったく、レイと鈴を重ねるなんて・・・。


 鈴は死んだんだ。レイとは違う。

 自分に言い聞かせ、目尻に浮かんだ涙を拭った。


「んぁ・・・」

「あ・・・」


 起こしちゃったか。


 レイはふあぁと欠伸をしながら両腕を頭上へ伸ばした。

 よし、気持ちを切り替えていこう。


「おはよう、よく眠れた?」

「ん・・・」


 レイの寝起きは悪い。機嫌も体調もだ。

 というか、大体昼間はグダーとしている。

 日光に弱いのか、もしくは引き籠もりだったのか。後者ではない事を願う。


「水飲む?それとも着替えようか?」

「・・・水」


 水ね、と呟きながらリュックサックの中から水筒を取り出しレイへ手渡した。

 中身は昨日入れ替えたばかりだから、お腹を壊すことはないだろう。

 

「じゃ、これ着替えね」


 後で着替えておいてと言い残し、僕は寝床にしていたどこかの物置から外へ出た。


 朝霧の立ち込める庭には、ちょっとした家庭菜園が存在していた。

 ここの家主たちか、もしくは僕らのような浮浪者が最近まで使っていたのか、家庭菜園の整理は割とキレイにされてある。


 その中で一番目立っていた赤く色づいたトマトをもぎ取り口へ運ぶ。

 うわぁ、トマトだ・・・。トマト嫌いなんだよなぁ。

 じゃあなんで取ったんだ、僕は。


 ていうか、昨日は暗くてよく見えなかったが、結構広い庭だな、ここ。

 それに立派な一軒家が建っている。富裕層の住居だったのだろう。


「ちょっと、泥棒ごっこでもしてみようかな」


 念のため家の周囲を見回し、人がいないことを確かめた。

 これで人がいたらいろいろ面倒なことになるからね。


 それから足元に転がる手頃な大きさの石を手に取り。


「えい!!」

  

 窓の鍵近くに思いっきり投げ込んだ。

 バリーン!!という軽快な音と共にガラスの破片が飛び散る。

 

 その様子を見届け、リュックサックから取り出したタオルを腕に巻く。

 そして開けた穴に腕を入れ施錠を解く。


 本来ならガムテープとかを使って、音が立たないようにやるんだけどね。

 まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。


「へっ、ちょろいもんだぜ・・・ドヤァ!」

「何やってるの?」


 窓を勢いよく開けて、ドヤ顔でポーズを決めていると、後ろから声をかけられた。

 声の主はジトッとした目をこちらに向けているレイだった。

 着替え終わってたのね・・・。

  

「何やってるの?」

「いや、その・・・泥棒ごっこ?」


 レイが怖い。

 ジト目のままレイは窓と僕を数回見比べ、はぁと溜め息を吐いた。


「食料探すの?」

「・・・そうだよ」

「バック取ってくる?」 

「・・・お願いします」


 年下に気を使われるとは・・・。

 情けない・・・。


 まぁ、気を取り直してゴー!ゴー!


「土足ですけどお邪魔しまーす」


 割れたガラスを踏みつけガチャガチャと音を立てるが、家の主たちからの非難や苦情はない。


 主を無くした家には埃が積もり、ある意味幻想的で儚い絨毯が出来上がっている。

 もっと簡単に言えば、軽く雪が降り積もったような感じだ。


「さてさて、なにかないかなぁ」

「歩、キモい」


 歩というのは僕の名前だ。ちなみに読み方はあゆ、あゆむじゃないよ。


「もー、レイってなに、僕のこと嫌いなの?」


 冗談っぽくそんなことを言ってみた。


 確かに僕はキモいかもしれない。厳密に言えば今の僕の表情は。

 いや、本来の僕は超プリティーでキュアキュアだから!!一昔まえだったら、日曜朝8:30にお呼ばれしちゃうくらいだから!!


「そんなことない」


 え、もしかして脈アリ?

 こんなこと考えちゃうからキモいのか・・・。いや、きっと違うね。うん。


「じゃあキモいって言わないでよぉー」


 すぐ後ろを付いてくるレイに思い切り抱きつく。

 ・・・これは自分でもキモいと思う。うわぁ、レイってこんな気持ちだったのか。


「・・・やめて」

「うん、やめる。恥ずかしいし」


 レイが恥ずかしそうに顔を赤く染め懇願する(ように見えた)ので、今度は勢いよく飛び退く。

 実際にそんなレイの姿を見たらキュンキュンしちゃう。どこがとは言わないけど。 


「あ」

「ん?」


 僕が離れたとたんにレイが声を上げた。

 なにかが視界に入ったのだろう。

 

 レイはその場にしゃがみこみ、棚と床の隙間から何かを抜き出した。

 どうやら紙切れかなにかのようだ。


「これ、写真」

「写真?」


 レイから写真を受け取り、そこに映る人たちを見てみる。

  

「家族写真・・・?」

「ん。そうみたい」


 なるほどねぇ。こんな人たちが住んでたのか。

 

 なんというか、おデブちゃんな感じ?

 いいもの食べてたんだろうね。


「いかにもお金持ち!って感じの家族だね」


 まぁ、じゃなかったらこんな家に住まないよね。


「お手伝いさんもいるみたいだしね」

「なんでわかるの?」

「え?」


 なんでお手伝いさんがいるってわかったの、ってことかな。


 まぁ理由はいろいろあるよね。


 家族写真ってことは父母子供みんな映るだろうから、この写真を撮ったのは家族以外の人だろうし、それに写真屋さんが写すんだったらお手伝いさんも写真に入れると思う。入れないかもしれないけど。


 そもそもお金持ちの人が自分から家を掃除したり、庭の手入れをするわけがない。これは偏見だけど。


 というように説明し「あと一番の理由はこれ」と付け加えた。


「ここの窓ガラスに反射して写ってるよ。よく見なきゃわかんないけど」

「あ、ホントだ」


 僕ったら探偵向きかもー、と笑ってみたが、それに対するレイの反応はとてつもなく冷たかった。


「ほとんど理由になってなかった」

「だよね・・・」

 

 しかし、まさに正論だった。 

 探偵が“かもしれない”とか“偏見だけど”とか言っちゃ推理が破綻しちゃうからね。


 まぁいいや。どうせ探偵なんてなれないしね。


「取り敢えず、食料とかいろいろ見つけなきゃ。レイ、手伝って」

「ん」


 僕たちの泥棒ごっこは続く。

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