第十五話 茶番の理由
続きます。
果たしてあと一週間で終わるのか・・・?
「・・・なにやってんですか?」
「っは!?」
部屋に入ると不審者がいた。
おまわりさんこっちです!!
と叫びたかったが、ここにはおまわりさんがいない。
だったら自己解決するしかない。
「撃たれたくなかったら早く荷物から離れてください」
「ま、待ってね。私はただ貴方たちの荷物を・・・」
「いいから早く」
不審者はお察しの通りあの女将さんだ。
いやはや、拳銃を携帯しておいて良かった。
この人たちがこんなに早くその頭角を表すとは思わなかった。
「それで、言い訳はないんですか?」
荷物から女将さんを離し、拳銃を向けたまま尋問を開始した。
「だから私はただ荷物の整理を・・・」
「そんなことしなくていいですから」
「いや、仕事だからね」
そういえばあの二人は大丈夫かな。
ふとそんなことを思った。
ここには女将さんしかいないようだけど、最低でも3人は従業員がいる。
人数的にあの二人は不利だ。
まぁ、結城さんがいるから大丈夫だと思うけど。
「はぁ・・・。少々荒業だけどしょうがないわね」
警戒を続ける僕にしびれを切らしたのか、女将さんはそんなことを言った。
荒業ってなんだろう。
まさか格闘戦に持ち込んでくる気なのだろうか?
一応これでも相応の徒手格闘術を習得しているんだ。
きっとなんとかなる。
「亮さん!!」
「りょうさん・・・?」
誰だろうその人。
と考えてる僕の後ろで部屋の窓が割る音がした。
「ちょ!?」
振り返るやいなや腕を取られ拳銃を奪われる。
そのまま反撃に移る前に組み伏せられてしまった。
なにこの早業・・・。
それにこの人窓ガラスを蹴破って入ってきたよね。
こんなダイナミックな入室方法を取るのはSITみたいな警察の特殊部隊か、自衛隊とかの軍事組織だけだろう。
あぁ、そういう人だったらあの早業にも納得がいく。
・・・納得してる場合じゃないか。
「離してください!」
「亮さん、手加減してくださいよ?お客さんなんですから」
亮さん・・・ねぇ。
なんかザクとかジムみたいなイメージが沸くね。
強さ的にゲルググかな?
例えがちょっとオヤジ臭いかな・・・。
「いいから離して!!」
「・・・」
ジタバタ暴れてみると亮さんの気が触れてしまったのか、音もなく何かを撃ち込まれてしまった。
おそらく麻酔銃的な何かだろう。
ていうかなんか喋ろうよ・・・。
そう思いながら瞼を閉じた。
と思ったら今度は叩き起こされた。
「歩ちゃん、そろそろ食べないと不味くなりますよ?」
「ふぇ?」
目覚めたと共に飛び込んできた光景に思わず困惑した。
「え、待ってください。なんでそんなフレンドリーに?」
「それは歩ちゃんが勝手に勘違いしたから」
え・・・?
勘違いって。
一体どこから勘違いしていたんだろうか。
「えっと、ここの旅館って五人でやってるみたいなんだ」
「・・・」
「それで、俺たちが大浴場に向かってる時に急ピッチで料理を作ってたらしい」
結城さんの話をまとめるとこうだ。
久しぶりのお客さん、つまり僕たちが来たから豪華な料理でもてなそうと従業員のほとんどが料理をしていた。
それで僕たちが温泉でキャッキャウフフしてる時に料理を部屋へ運び、ついでに部屋の点検を行った。
そして鏡花さんが倒れた時に僕たちに報告するため部屋を出ようとしたが、出しっぱなしだった着替えやその他もろもろが気になり片付けた。
最後に女将さんが最終チェックをしてるところで警戒心バリバリの僕と鉢合わせ。
で、この結果というわけだ。
つまり僕が深く考えすぎたんだろう。
あの従業員に名前で呼ばれたとき『そう言えば僕名乗ってないのになんで名前知ってるんだろう?』って思ったのが決定的だった。
パッと考えついたのが『部屋を荒らされてるのでは!?』という結論で、まぁ奇跡的にそう見えることを女将さんがやっていた。
言い方が悪いが、事の顛末はそういうことだった。
「ごちそうさまでした・・・」
結構気まずかったが、女将さんにそう告げ食事を終了した。
美味しかったです。嘘です。
気まずすぎて味しませんでした。
ごめんなさい。
なんやかんやあって忙しかった今日という日にも終わりが近づいてきた。
時刻は11時30分を回り、長針はラスト半周で今日の仕事を終える。
ただし直ぐに明日の仕事が始まる。
・・・なにそれ超ブラック企業じゃん。休みないの?
「・・・トイレ行こ」
瞼を閉じて数分も経たないうちに起きてしまった。
原因は尿意だ。
僕は年寄りか!
疲れが溜まっていたのか結城さんと鏡花さんは既に熟睡中だ。
ちなみにベッドなのが僕と鏡花さんで、結城さんは畳に布団を敷いて寝ている。
二人を起こさないように動き、トイレの入口に立った。
「お姉ちゃん」
「・・・タイミング悪すぎない?」
このタイミングという言葉には、トイレに行きたいという意味もあるが、静まり返った夜という意味も含んでいる。
怖かったよ。
びっくりしたよ。
漏らすかと思ったよ。
流石にこの歳で漏らしたくはない。
それこそ「お年寄りか!」ってツッコミを貰ってしまう。
あ、でも見せつけるのは好きかもしれない。
って何の話だよ!
「ん?」
「死神になっても空気の読まなさは変わらないのか・・・」
空気は読むものではなく、吸い込むなんだ。
みたいな感じなのだろうか?
なんかそういうの青春18きっぷにあったような・・・。
いい言葉だけど多少読んでください、僕に痴態を晒せと仰るのでしょうか。
・・・もしかして見たいの?
「そんなわけないじゃん・・・。早くすればいいでしょ?」
「え、今声に出してた?」
「出てたよ、思いっきり」
うわぁ、恥ずかしい。
しかも断られたから余計に恥ずかしい。
「それで、どうしたの?なにかよ・・・」
またこれを言うと末期カップルみたいなやりとりになるのでは?
「どうしたの?」
「緊急回避もいいところだね。ほとんど言っちゃってるじゃん」
トイレのドア越しにそんな会話をした。
なんとも平和な姉妹どうしの会話だ。
しかし、次に鈴の放つ言葉を聞いた瞬間、そんなことを考えられなくなってしまった。
「・・・神が動き始めた」
「・・・え?」
おおよそ、普通の姉妹どうしでは交わされないはず会話が始まった。




