プロローグ
お久しぶりです。
春休みで時間に余裕があったので書きました。
できるだけぐだらないうちに完結させたいです
人のいなくなった街を歩いていると、時折思うことがある。
ここにいた人々はどのような生活をしていたのだろうか。
ここにいた人々はどのような人達だったのだろうか。
あの崩れかけたビルでは、何人の社員が働いていたのか。
あの荒れた一軒家では、家族の団欒はあったのだろうか。
でも、人のいない、野良猫すらいないこの街に、これらはもはや関係のないことなんだとも思う。
無人の街に団欒を求めるのは間違いだからね。
肩からずり落ちそうだった小銃を掛け直し、すぐ隣を歩く少女、レイの手をぎゅっと握った。
「・・・なに?」
すると、心の芯から凍りつくような冷たい声が帰ってきた。
おまけにキッと鋭い目で睨みつけてきた。怖・・・。
「そんな嫌そうにしないで。傷つくから」
苦笑しながら言うと、レイは鼻を鳴らしそっぽを向いてしまった。
まぁ、本気で嫌なら手を繋いだ瞬間に手首から切り落とすくらいするだろう。いやマジで。
だから手は離さない。
まったく、この娘ったらツンデレなんだから。ニヤニヤ。
「キモい」
唐突にそんな辛辣な言葉が剛速球の如く飛来してきた。これはもはや球じゃなくて弾、狙撃レベル。
「え?なにが?」
聞き返すと、レイはこちらを、僕の顔を指差し言った。
「顔、歪んでる」
・・・ちょっと、それ早く眼科にでも行ってきたほうがいいですよ。
まぁ開いてる眼科があればの話ですけど。
僕の顔は女神が嫉妬するほど美しいはずですしね。
前者は冗談だが、どうやら本気でニヤニヤした顔になっていたらしい。
両頬を軽くたたき、うにうにと頬を解して表情を作り直す。
一応手鏡を取り出し本当に顔が歪んでいないか確かめる。
あら・・・誰かしら、この美少女は?あ、僕か。
自分でも惚れ惚れするくらい美しい造形だね。
と、自画自賛していると、ふとあることに気付いた。
レイとつないでいた手を離してしまっていたのだ。
あぁ、なんでこんな重要なことに気づかなかったんだろう!
僕はもう死んだほうがマシだ!
「・・・ん」
軽く後悔していると、レイがスッと手を差し出してきた。
握れ、ということだろうか?うん、きっとそういう事だろう。
あぁ、後悔して損した。
「レイってやっぱりツンデレだよね」
そう笑いながら言い、もう一度レイと手を繋いだ。
「いだだだだ!!ごめん、ごめんって!!」
瞬間、思い切り捻り上げられてしまった。
ギリギリと腕が悲鳴を上げ、ミシミシと骨が断末魔を放つ。
「待って、腕が、腕が折れるぅ!!」
絶叫しつつレイの肩を空いてる方の手でバンバン叩く。
そこでようやく気が収まったのか、レイは溜息を吐きつつ手を放してくれた。
「もう・・・」
レイは腕を組み、頬を膨らませた。
ごめんね、一言多くて。
しかし、手加減してくれたのか、骨が折れることはなかった。
まったく可愛い奴め。
ていうか、なんで折れなかったんだろう。滅茶苦茶痛かったのに。
人間って意外と頑丈にできてるものなんだね。
身をもって学習したわ。
「さ、ふざけてないでそろそろ行こうか」
まだ痛みを発する腕をさすり、レイに促しながら歩き始めた。
「ん」
短い返事の後、レイは僕の手をソっと握った。
・・・まったく、可愛いやつめ。
「キモい」
「・・・?今はニヤニヤしてないよ?」
「間違った」
間違いで人を罵るのか・・・。
僕が困惑していると、レイはフッと微かに笑みを浮かべた。
「僕っ娘め」
「な!?」
今までのお返しだ!というように、レイは笑いながら言った。
どこか、懐かしさを感じる笑顔だった。
「いいでしょ!僕が一人称でも!」
「ふふっ」
僕がギャーギャー騒ぐのをレイは楽しそうに見つめていた。
空が夕日に染まり、すぐそこまで闇が迫っていた。
早めに今日の寝床を決めないといけない。
でも、もう少しこの、懐かしいやり取りを続けても罰は当たらないよね。
ボロボロのアスファルトを踏みしめ、無人の街を進む。
かつて人々が行き交った道を、今は二人でゆっくり歩く。
強く握った手が、微かに熱を発し始めた。