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番外編・蒼の王子様

続編…というか番外編です。


ヒロインのキャラが崩壊しますので注意。

「…やあ、ミス・ロジエ。」



優しく囁くような声なのに、少年の灰青色の瞳は冷たさを帯ていた。


その瞳の先には、青空のように澄んだ瞳があった。



月のように淡い白金の髪に、紺青の瞳…まるで、お伽噺話にでてくる月の妖精のような少女に、クラウスは苛立っていた。


真っ直ぐとした言動、嘘偽りのない瞳、その総てがクラウスの世界を脅かすかのように苛烈なのに、今にも消えてしまいそうな儚さがクラウスの感情を掻き乱す。


壊してしまいそうなほどに華奢なうなじから背中までのラインは美しく、ぞくりと背筋が粟立ち、触れてみたいという欲求がうまれたことに、クラウスは自己嫌悪する。


「?…どうしました?。」


「…いや、それで何かな?」



思わず、素を見せてしまった事に彼は内心驚きつつも、今さら撤回できず少女から視線を外した。


彼の名前はクラウス・オースタイン


正式だとクラウス・フォン・リオンドル・オースタイン


フォンは公爵家、リオンドルは王位継承権を与えられた者が名乗るミドルネームである。


そう、彼はこのロクドレイク選定王国国王の甥であった。


ロクドレイク選定王国は、古来建国の一族が治めてきた国であり、代々の賢者と呼ばれる魔導師が建国の一族のなかから王を選んできた。


一族の王位継承権は皆平等にあり、一族の中からもっとも優れた者が賢者によって王となる。


但し、例外もある。それが現国王である。


現国王はクラウスの父の弟で、勉強も、魔法も、容姿も何一つ兄には敵わない平凡な男であった。性格も優柔不断で、挙動不審でいつも落ち着きがなく…一族の中ではもっとも王に相応しくないとさえ言われていた。


当然、クラウスの父自身も、一族もみなクラウスの父が王に選定されると疑っていなかった。


だが、選ばれたのは他でもない弟の現国王であった。


当然、一族はみなこぞって現賢者に詰めよって問い質した。何かの間違いだ。選び直せと。


だが、現賢者サイラスはこう言った。


《私は民のための王を選んだのだ》と


その一言に、クラウスの父の人生は狂った。


クラウスの父とて、民のための王として不足していいない。むしろ、民のための王になるために努力をかさねてきたのだ。



なのに、自分より劣る弟が王になったのだ…やりきれないだろう。


酒に溺れ、女に溺れ、家族をボロボロにして、自壊した父をみて育ったクラウスは、周りの同情も、嘲笑や侮蔑も笑顔で受け止めてきた。


守ってくれる大人が誰ひとりとしていなかったから、彼は笑顔で自身を守るしかなかったのだ。


世渡りをしり、処世術で受け流す。人とは深くかかわらず、見えない境界線をひく事によって彼は生きてこられたのだ。



皮肉にも、クラウスは自分の父を狂わせた賢者の候補となった。


父を殺した賢者が師として、彼に賢者の道をとく。


滑稽を通り越して殺意すら覚える。


その殺意も、憤怒の感情も総て圧し殺して、彼は学院で賢者になるために学び続けてきた。


理由は簡単だ。現賢者サイラスの名を末梢するためだ。


賢者として選ばれた者は代々、賢者録という賢者の名を連ねた名簿を管理する。その名簿に自分の名前が乗るのが賢者にとってもっとも栄誉の事だった。


クラウスは、かつて父の栄誉が奪われたように、サイラスの栄誉を未来永劫奪い去ることを考えたのだ。


叔父を王にするのは別にいい。


確かに叔父は平凡だが、穏やかな治世を築いていた。


サイラスは間違った選択はしていない。


でも、父の努力を総て無駄にしたあの一言には、報復せねば気がすまない。



そのために、もっとも嫌う賢者になることをクラウスは決心した。



そんな時、クラウスはひとりの少女と出会う。



名はルナ・ロジエ


蒼魔導士のクラスにおいて精霊魔法に特化した能力を持つ、優秀な少女。



それだけなら、ここまで苦い思いをしない。



「はい、今日はラバイユの日ですから…これ、よろしければ召し上がってください…」


ラバイユの日とは、建国記念日である。


友人に飴を配る日で、初代国王と賢者が戦場で麦飴(ラバイユ)を分けあった故事から、人々は親しい友人に飴を贈る


差し出された一粒の飴を見ながら、ああと納得する。


そう言えば、朝から飴をやたらと貰ったな。


「…忘れてたよ。もうそんな時期か…」


「ええ、甘いのはお嫌いですか?」


「どうだろう?君はどっちだと思う?」


「ふふ。これは麦飴ですから、甘さは控えめですよ。」


「…そう、ありがたいな。」



クラウスは苦笑する彼女の手から粉砂糖がまぶされた飴玉をつまみ上げると、そのままルナの口に飴を入れる。


ラバイユの飴を贈った本人に返すのは失礼なのだが、クラウスは飴を食べる気がまったくなかった。


甘いものが嫌いなのもあったし、なにより彼女に友人だと思われるのが嫌だったのだ。


「!?」


「美味しいかい?」



クラウスは彼女の柔らかい唇についた粉砂糖を指先で拭うと、ぺろりと粉砂糖がついた指先を舐める。


「ん、甘いな。」


「なっ…な、っ!?」



ほのかな柔らかい甘味に、目を細めて改めてルナへと視線を向けると、クラウスは内心驚いた。





「……え。」



(………なんて顔…するんだろう)


目を潤ませ、顔を真っ赤にするルナ。普段優等生とした清ました顔はなく、慌てふためく極々普通の女の子がいた。


普段は凛とした少女が、動揺した姿は無防備で

クラウスは目を疑うほどに、優等生の仮面が崩れたルナは可愛かった。


彼女からふわりと香る優しい花の薫りが、クラウスの理性をぐらつかせる。


こんなにも、女の子が可愛いと素直に思ったのは、初めてだった。



(…これは、彼女の素かな…以外と免疫がない?)



それをみた時、クラウスは先程までの苛立ちがなくなり、不覚にも、もう一度、彼女の唇に触れてみたいと思ってしまった自分を抑え込む。



(……柔らかかったな、)



背が低い彼女は、やや顔をうつむかせ唇に手を当てている。


その頼りない姿は、捕食者を駆り立てる事を、自覚しているのだろうか?


「…無防備だね、君は。今の君の顔、どうぞ襲ってくださいって言ってるようなものだ。」


「っ…え、う…な、何を」


「…さあ、日が明るいうちにお帰り。本当は僕が寮に送ってあげたいところだが、これからサイラス師の授業なんだ。気をつけて帰るんだよ?」


「っ…私は子供じゃないわ」



「ふふ、そう言う事をいうから子供なんだよ。君も、そして…僕も」




目の前の少女を今、翻弄しているのが自分だと思うと楽しくて仕方ない。



ああ、苛立っていたのはそう言うことか。



彼女の反応が面白いと感じる自分が、なんだか酷く子供ようで可笑しい。


そう、自覚すると、クラウスは口元を釣り上げる。


この感覚は不思議と不快ではないが、ずっと浸っていたら抜け出せなくなりそうだ。


理性が動く内に、彼女にはお引き取り願おう。



(…さて、困ったものだ。僕もラッセルを笑えなくなってしまったな。)



そう、内心ぼやくクラウスだったが、その表情はどこか楽しそうな少年そのものだった。




**********




(い、今の何!?)



▼ルナ・ロジエはこんらんている。


(こんなときにド〇クエ脳してる場合!?落ち着け!)



「ラファレルシア」の主人公として転生した少女・ルナは盛大に混乱していた。



彼女の名前はルナ・ロジエ。前世は上原琉南という「ラファレルシア」にドハマリしてた女子高生だった。


「ラファレルシア」通称ラファレは琉南の母の世代交代に流行った乙女ゲームで、それがリメイクされて発売され、再び話題になった作品であった。


豊富なスチルに、ストーリー。一部声優が変わってしまったが、隠しキャラルートや逆ハーレムルート、ライバルキャラの登場に、さらに物語に厚みを帯びたラファレにお母さん世代もはまるという現象がおきていた。


琉南は、そのなかでもクラウスが大好きだった。



好きになったきっかけは…笑顔のスチル、そこには

主人公に向けた嘘、偽りもない少年の笑顔があった。



ノーマルスチルに琉南は「ああ、私はこの笑顔に弱いなあ。」と心底惚れ込んでしまったのだ。



候補生ルートとくにクラウスルートは、もっとも難しいルートで、選択肢を間違えると騎士団ルートに移行してしまうルートだった。


だから、何回もロードして、選択肢を慎重に選び、好感度をあげていく。途中バットエンドや、ライバルイベントがおきたときは凹んだものだ。


クラウスのルートはまず、教養、精霊魔法、品性のステータスを上げねばならなかった。


そして、三回ある学年末試験でライバルキャラより良い成績をとらねばならない。


結構、めんどくさいキャラである。




序盤の、受け流すようなクラウスの笑顔はそう、例えるなら剣のような美しい笑顔だった。


彼は自分を攻撃する刃を笑顔という刃で受け流し、形勢を調え、自分のペースに持ち込んでいく。


彼にとって笑顔は武器であり、そこには感情がひと欠片も籠っていない。だけど、琉南は彼の生い立ちを考えると余計にその笑顔が悲しいものに見えてしまう。



(私は、彼に心から笑ってほしい。)


いつしか、主人公の気持ちと同調してしまい、攻略後半になると、号泣してしまった。



それほど、感情移入していた頃に、運悪く交通事故で命を落とし、そして、感情移入していた主人公ルナ・ロジエとして転生することになる。



転生後、ルナはゲームと同じようにパラメータ画面が見える事がわかり、必死に勉強して、ステータス強化に頑張った。ラファレルシアに入学した時から、ずっと、クラウスを見つめつづけ、ライバルのお嬢様に負けない品性や、教養、精霊魔法も身につけた。


ラバイユの日の飴も、好感度あげる…サブイベントにしか考えていなかった。



本来のイベントは「ああ、ありがとう。甘さ控えめにしてくれたんだね。」で終わるはずなのに、先程のあれはいったいなんなんだろう。


イベントを告げる画面がでなかったと言うことは、ゲームにはなかった展開だと言うことだ。


唇に触れられた瞬間、ゲームヒロインの顔が一気に崩れ、素の自分をだしてしまった事が恥ずかしくてならない。


なにより恥ずかしいのは、あのクラウスの言動だ。


(ゆ、指なめた!!うわあああっ!)


前世はリアル男子に免疫がなかった少女だ。今世でも、免疫があるわけがない。


たぶん、間接キスでもわたわたする。



(これが、リアルか!)


某紅い彗星のような台詞を頭に浮かべつつ、ルナは頭を抱え込む。



(…私…心臓がもたないかも…!)


考えてみたら、クラウスは社交界で女性のあしらいかたを覚えた百戦錬磨の兵だ。


そんな強者に、男性に対して免疫がないオタク少女が攻略を挑むのは…かなりの冒険である。


相手は、若干腹黒いが、見た目は金髪碧眼の理想の王子様だ。声も甘く、ささやかれたら最後、復活の呪文を唱えなければ復活できないほど悶えてしまう。



だから、ルナは主人公になりきることで、あのイケメンオーラに耐えてきたが…そろそろ限界に近い。



(しばらく、ステータス上げとこ!)


と、現実逃避を開始したが、その翌日からクラウスによる逆攻略が始まろうとしていることにルナは気づかず、「よし!」と気合いを入れ直したのであった。




因みに、クラウスのライバルキャラは、カーリア・オシュテン侯爵令嬢…銀髪が美しい美少女で…はっきりいうと、聖女の皮を被った女豹。



勘違いするひとがいるだろうから、付け加えるが、カーリアはべつに性格が悪いわけではない。


カーリアの父は早くに亡くなり、カーリアが幼い弟のかわりに仮相続人になったため、カーリアは公爵でもあり、叔父を国王にもつクラウスと婚約することで後ろ盾を得ようとする。


サバサバした現実主義者で、利用できるものは利用しよう!という…華奢な外見のわりにタフな人である。


だから、原作だとまさに好敵手ってキャラで、クラウスが主人公とくっつくと、きっぱりあきらめて別のイケメン有力貴族と捕まえて結婚するという潔い肉食系女子。


たぶん、本編にはでない

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