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04 修行?の日常

ババ様の下に弟子入りしてから早七日。この世界に着てから既に12日が経過していた。

その間に師匠――ババ様から教わった事と言えば、基礎の『精錬』と『圧縮』、そして基礎の『魔術』と発展形の『転移術』。

精錬と圧縮は常に続ける必要が有る技術であり、特に精錬は寝ている間すらも常に続けられるように成れとのこと。まるで気合の入ったバトル漫画みたいな事を言う。

幸いな事に俺の心眼は自分に対する観測と言うのも補助してくれるらしく、『力を身体の内側で循環させる事でその質を高める』という精錬は割りと習得するのは早かったと思う。圧縮に関しても、道具にこめるオーラを圧縮することで蓄積オーラ量を水増しし、実質的に質を上げたに等しい効果を得ると言うものなのだが、此方に関しても習得は心眼の補助で何とかなった。

問題は、『魔術』に関する技能だ。

この魔術と言うもの、オーラを込めて杖を振れば良いというものではなく、かなり面倒くさい学問に分類されるのだ。基本はイメージにオーラを通すという作業なのだが、其処に至る為に『空想を補強するための仮説』というのが必要と成り、結構頭を使う必要がある。一応基礎的な火を灯したり、水を出したり、簡単な傷を癒す為の魔術なんかは習得することが出来た。が、流石に空間転移となるとまだ難しい。

ババ様曰く、精錬法を極めて恒常的に質の高いオーラを生成することが出来るようになれば、多少の技術はオーラの質でカバーできるようになる、との事。そういうわけで、精錬術は尚更しっかりと練習している。

「でも、残念だったわね」

「……そうだなぁ」

俺の隣で、作業を眺めているフラウスが呟いた。何が、というと、俺の精霊魔法に関する適性の話だ。

まず精霊魔法とは如何いうものかというと、この世界の運行を司る精霊に対して、オーラを対価として祈祷することでその力を借り受ける、というものだ。

魔術のように理を曲げることは出来ないが、然し世界と言う正しい形からの補助を受けられるために、その効果は魔術を圧倒して莫大な力を得ることが出来る。

例えば空を飛ぶというのは、魔術では先ず不可能と言われるほどの難易度があるのに対して、精霊魔法でならば「風の精霊に頼む」だけで空が飛べるのだ。

そんな精霊魔法。残念ながら俺にはどの属性に対しても適性が無かったらしく、精霊魔法を扱うにしても消費するオーラが多めに成ってしまうのだそうだ。

「私はそんなに相性悪く無さそうだけど、私はバイオラの契約精霊だもの」

「流石に精霊魔法の素人が上位精霊と契約できるとは思ってないよ」

フラウスと呼ばれる彼女。無の精霊である彼女は、精霊の中でも上位に属する存在らしい。というのも、精霊と言うのは基本的に形を持たないのだそうだ。

形を持つ精霊の中でも、小さな動物に化けられるのが中位、人の形を取るのが上位以上の力を持つ精霊なのだそうだ。

つまるところ、このフラウスという精霊は最低でも上位に位置するかなりレアな精霊なのだそうだ。

そんな無の精霊フラウス。残念ながら既に師匠と契約しているために、俺に力を貸してくれるという事は無い。では下位から中位の精霊は如何かと言うと、無の精霊と言う存在そのものがかなりレアなのだとかで、無の精霊には下位精霊というのは存在していないのだそうだ。

ぶっちゃけ、俺が相性の良い精霊と出会える確立はほぼ皆無。

また『ハズレ』かとガックリ肩を落とし、然し魔術の方は問題なく使えるのだからと顔を上げて修練を続けているのだ。


「……ねぇ」

「なんだ?」

「それ、そろそろ飽きない?」

フラウスに言われて、思わず手にこめる力加減が乱れる。慌てずにその加減を調整して、再び機械を廻し続ける。

「まぁ、飽きたか飽きないかで言うなら、当然飽きてる」

「大変ね」

「これも契約の内だよ」

良いながら、カタカタと音を立てて回る『糸車』を廻し続ける。

俺が師匠に魔術を習う対価として求められた彼女の手伝い。それは、この糸車を使って糸を紡ぐというものだ。

が、これは当然であるがただの糸ではない。地の底深くに存在するダンジョンに存在すると言う大蜘蛛。その大蜘蛛が生産する糸を回収したものが、今現在俺が紡いでいる糸の原材料に成っているのだという。

絹よりも軟らかく、静かな輝きを見せる糸。確かにとんでもない高級品であると言うのは理解できる。が、ババ様は更にコレを加工し、魔道具とするのだ。

俺に割り振られた仕事と言うのは、この糸の精製。蜘蛛の糸を紙縒り紡ぐというもの。ただ、紡ぐ際に高圧のオーラを添付する、という過程が組み込まれるがのだ。

このオーラを添付すると言う作業がまた辛い。蜘蛛の糸は一度加工してしまうと、それ以降は普通の糸と同じくオーラを通すだけの極普通の(ただし高級品)素材になってしまう。然し、この加工の際にオーラを付加する事で、オーラに反応して強度を増す特殊な性質を得ることが出来るのだ。

俺がやっているのは、糸に特殊な性質を仕込ませると言うかなり重要な作業。ババ様が俺にこの仕事を任せたのが理解できる程、凄まじくオーラを消耗していた。

ただ、この意図の精製、一つ問題があり、封入するオーラの量が不安定になると、糸同士の強度差でぷっつりと糸が途切れてしまうのだ。

素材だけで、一握りでかなりの価値があると聞いてから、正直冷や汗ものだ。

「でも、大分上達したじゃない」

「精錬法が上達したからな。そっちのおかげだと思う」

そう。この糸の精製にしても、精錬法が上達するに従って、次第に高品質な糸を安定して生成できるようになっていた。

最近になって気付いたのだが、この糸を生成するという作業、実は修行の一環なのだと思う。

前にオーラを使い始めた直後、天ヶ瀬との模擬戦で、鉄甲にオーラをこめすぎて、肝心の時に鉄甲を自壊させてしまったことがある。この糸にオーラを練りこむという作業は、モノに籠められるオーラの見極めというのも入っているのでは、と最近気付いたのだ。

更に糸の生成には、オーラの扱い、常に精錬法を使うと言う修行に、負荷を掛けると言う意味、集中力の鍛錬など、様々な面からみてメリットがあるのだ。

「……まぁ、だからと言って飽きないか、と言われればそりゃ飽きるんだけど」

「あ、切れた」

「あっ」

ぷちん、と音を立てて途切れた糸。ちくせうと呟きながら、糸を繋ぎなおし、再び糸の精製を続けるのだった。






精錬法の基礎はオーラの精製。オーラの生成とは、オーラを練り上げる事を指している。

オーラと言うエネルギーは、肉体や道具などの『器』から離れてしまうと、時間経過により徐々に減衰していく。勇者の特殊能力――天ヶ瀬の『光燐』とか――などの例外は存在するが、基本的にはこの法則は絶対だ。

そしてオーラにはもう一つ性質が有り、肉体の中で循環させることでその質を向上させることが出来るのだと言う。

但しコレは中々に危険な技で、内側に溜め込んだオーラの質を上手く高められなかった場合、生成されるオーラが過剰供給になり、結果オーラが暴走してしまう、という可能性も孕んでいるのだ。またオーラと言うものは常に一定量排出されているのが普通であり、例えば身体の一部だけオーラの循環が成されないままそのオーラを溜め込んでしまうと、淀んだオーラが身体に悪影響を与える可能性もあるのだとか。

そんな危険性のあるオーラだが、俺の心眼という技能とはかなり相性が良い。

細かい挙動なんかを細かく捕らえる事のできる心眼。然しこのスキルはそれだけではなく、例えば有視界範囲の相手なら、注意して観察すれば、その体内のオーラの流れまで観測できてしまうと言うものだ。

コレを使えば相手の技術を模倣することも出来るし、戦闘の際に相手の攻撃ので出しを察知する事もできる。そんな、中々便利な技能なのだ。

……まぁ、A組の他の連中の技能に比べれば『地味』なのだが。

常にオーラを循環させる精錬法を行なうことで、精錬法の齎す負荷に慣れ、更に普段からこの状態を保つことで、精錬法の『入り』の隙をなくし、尚且つオーラに負荷を掛けることでその精製速度の成長を促すことが出来るのだ。

「そうそう、こう、真ん中からバッサリ行くのよ」

「うぇ……」

そんな精錬法を使いながら現在、師匠の住んでいる森の中で、サバイバル技術に関するところをフラウスから学んでいた。

なんでもフラウスは、師匠が若かった頃共に旅をしていたとかで、サバイバルに関する基礎的なことは一通り知っているのだとか。

師匠が俺の生成した糸を使って布を編んでいる間、必要になるだろうからとフラウスに誘われて森の中に出てきたのだ。

「皮はちゃんと残しておきなさい。綺麗にはぎ取れればお店で売れるわよ」

「……うっぷ」

そんなわけで森の中に出てきた俺達だが、キャンプ地点の選び方やら食料の調理方法をフラウスから学んでいると、不意に俺の心眼が何かが近付いてくるのを捉えた。

一体何だと振り向くと、其処に居たのは巨大な熊。明らかに此方を獲物を見る目で見つめてる、グリズリーという奴だった。

「折角だし倒してみなさい」

「ちょっ、ええっ!?」

「アンタも勇者の端くれでしょ? 今のアンタなら大丈夫よ」

そういうフラウスに促されるまま、俺はそのグリズリーと殴り合いをする羽目に成ってしまったのだ。

で、結果から言うと圧勝。確かにグリズリーの一撃は大木をも砕く凄まじいもであったが、速度で言えば大振りかつスロウリー。見てから回避余裕と言う奴だ。

まぁ比較対象がA組の勇者の中でも最初からトップクラスにいる天ヶ瀬だ。比較するのが間違いか。

そういうわけで余裕を持ってグリズリーを殴り倒したのだが、この次こそが俺にとっての天敵となった。

「それじゃ、解体しましょうか」

「……え゛っ」

この世界に置いて、魔物や野生動物と言うのは貴重な資源なのだそうだ。魔物を倒した冒険者は、その魔物を解体し、素材になる部分を回収することで自らの資金にするのだという。

そしてこのグリズリーも、素材にしてもよし、食料にしてもよしの良い獲物なのだそうだ。

流石に幾らなんでも生物の解体は……と拒む俺に、「命は無駄にしちゃいけません」と至極正論を告げるフラウス。更にこんなことは旅に出れば絶対にやらなければいけなくなるのだ、と俺を諭し、結果俺はグリズリーの解体に初挑戦するハメになったのだ。

「内蔵は捨てて良いわ。その辺に置いておけば狼が持っていくわ」

「肉は美味しいわよ。臭みがあるけど、ハーブと一緒に調理すると美味しいのよ」

「皮は売っても良いし加工しても良いわ。良い値段に成るのよ」

「骨は要らないね。爪とか牙は売れるかも」

「頭は……どうする? 脳が珍味って話だけど」

――うっぷ。喰わねーよ。

グリズリーの解体に用いるのは、ログハウスに残されていた錆び錆びのナイフ。ナイフとは言っても包丁並みにでっかい奴だ。一応砥石を借りて錆びは落としたのだが、切れ味は殆ど皆無。とてもではないが物を斬るということは出来そうに無かった。

……が、考えるまでも無く現在の俺にはオーラと言う力が在る。この不思議パワーをナイフに籠めて刃を立ててみたところ、これが見事に正解。グリズリーの硬い毛皮にさっくりと刃が入っていったのだ。

だが、あえて其処までをよしとするなら、其処からは地獄だった。

グリズリーの解体。真っ赤に染まる視界の中で精神的には一杯一杯なのに、更に精錬法を維持するために集中する必要があり、だというのに所々でフラウスが詳しいコメントを入れてくるのだ。

フラウスの注釈はかなり実践的で、精霊の癖に物凄く人間の生活事情に詳しいため、聞き逃すのは勿体無い。そのため、真っ赤な視界の中でパニックを抑えながら解体し、精錬法を維持し、尚且つフラウスの言葉に耳を傾けるという三つを同時にこなす必要があった。

これを喋っているのが師匠なら、間違いなく意図的に俺に負荷を掛けてきているのだと判断できる。が、やってるのはフラウス。この一週間ばかりでわかったのだが、この精霊はツンデレで耳年魔かつ天然だ。もしかしたら意図的なのかもしれないが、正直判断が付かない。

「漸く終わったわね」

「……疲れた」

「何言ってるのよ。旅に出るにしろ出ないにしろ、貴族でも無い限りは必須技能よ」

言うフラウス。彼女にしてみれば、肉を加工するのもグリズリーを解体するのも一緒なのだろう。終わった直後など、獣臭いわ血なまぐさいわで、俺一人だったらきっと半泣きになっていただろう。

……とはいえこの世界の中では、加工肉を調理する事はできてグリズリーを解体することが出来ない俺と言う存在のほうが、ある意味では歪なのかもしれない。

映像にするならモザイクを掛けなければいけないような、グリズリーの内蔵物を置いて、それ以外の利用価値の高そうな部位を毛皮で包んで立ち上がる。

何となくだが森の周囲から生物の気配が近寄ってきているのを感じている。コレも心眼の効果なのだろうか。

そんな事を考えながら歩き出し、チラリとは以後を振り返る。と、狼の子供らしい小さいのが、捨て置いたグリズリーの内臓をくわえて、引き摺るようにして森の中へ引き返していくのが見えた。

「……そうだよなー」

「ん? 何か言った?」

「いや、なんでもない」

あんな小さい狼でも必死に生きてるんだ。俺なんて考えてみればかなり優遇されているほうだろう。折角なのだ、もう少し頑張ってみるのも良いかもしれない。

内心で少しだけ、小さく新たに決意をして。その日はそのままログハウスへと引き上げた。





「おや、今夜は熊鍋かね」

「そうよ。カイトが一人で仕留めて捌いたのよ」

何でか少し自慢げに言うフラウス。仕留めたのは俺だからな? なんていいつつ、仕留めた熊を調理した鍋から具材を拾う。

「今日も我等が糧となった命に感謝を」

そういって手を組むババ様。なんでもコレが食事の前のマナーなのだとか。俺も合わせたほうが良いかと聞いたのだが、自分の作法があるならそれで良いとのこと。なので俺は、両手を合わせて「いただきます」の挨拶と共にフォークを伸ばした。

「……美味い」

「ふふん、当然よ」

胸を張るフラウス。フラウスの姿は、紫色の半透明で、緩いウェーブの掛かった16~17歳くらい。俺の認識で言えば高校生くらいの姿をしている。そんな姿の彼女が、つんと胸を張っているのだ。正直微笑ましい。

因みにこの熊鍋はフラウスの調理したものだ。口だけではなく本当に調理できるとか。

しかもフラウス、さり気無く自分も食卓に座り、俺達と一緒に熊鍋を突っつき始めた。……精霊って肉とか食って良いの? もっとこう、御坊さんみたいに生肉禁止というか。

「別に無いわよ?」

何かキョトンとした表情のフラウス。……なんだか俺が変な事をを聞いたみたいな気分になってくる。

そんな俺達の会話を見てか、身体を揺らして笑う師匠。

そんな三人で熊鍋を突っつきつつ、その日は暮れていったのだった。




ふへへへへ、一日更新……。

え、プラス365日? 知らんなぁ。


とりあえず生きてます。

最近リアルが忙しすぎてまともに執筆活動できてません。これもカキダメを発掘して手入れしただけの物だったりします。

その内余裕が出来たら、また何か書きたいと思ってますので、宜しくお願いします。

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