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03 捨てられて拾われました。

評価としては下の下。俺の評価は、勇者達の中では最低ランクなのだそうだ。


曰く、俺の技には派手さが無い。勇者の癖にみみっちい戦い方しかしなかった、勇者天ヶ瀬に比べると地味を通り越して一般兵と同じにしか見えない、とか。


若干腹が立たないでもないのだが、まぁ事実俺の戦い方は、心眼という観測技能を除けば、戦い方自体はこの世界の人間にも十分出来る戦法だろう。それが勇者らしくないと言うのなら、もうどうしようもない。おかげで俺は主流の勇者パーティーからは外れることを余儀なくされてしまった。


というのも、A組のほかの面々に何か言われたと言うわけではなく、早速フラグメーカーである天ヶ瀬にオトされた巫女さんの一人が、俺に直接交渉をしてきたのだ。


曰く、「高い能力の物の群の中に能力の低いものが紛れると、どうしてもその下限に合わせて行動する必要がある」「それでは折角の勇者様たちの能力を生かすことが出来ない」「そこで御澄様は別口でじっくり鍛えてはいかがでしょうか」との事。


要するに「手前は足手まといだから別行動しろ」ということである。


悔しいが実際のところまさにその通り。確かに戦い方を工夫して天ヶ瀬に喰らい付きはしたものの、それは天ヶ瀬の錬度向上でなんとでもなるし、第一俺と同じ戦い方を出来るやつで、俺よりも戦闘経験豊富な人間なんてこの世界には幾らでもいるだろう。つまり、他の代用不可能な能力を持つ勇者に比べれば、俺の能力は十分に代用可能な存在でしかないのだ。


その事を自覚してガックリと項垂れ、その後如何した物かと一人で悩み、どうしようもないのでとりあえず出来る事からやる事にした。





巫女さんに与えられたのは、A組が使っていた修練場とは少しは慣れた場所にある、古くなって現在では使用されていない修練場――旧修練場。A組本隊と分かれた後、俺は此処で身体の動かし方やらオーラの使い方なんかを独学で勉強しているのだ。


一応巫女さんに頼んで教師役の人間もつけてもらったのだが、既に俺は『ハズレ』として認識されてしまっているらしく、教師役の面々にしてもかなり適当に教えてきたのだ。


結局その程度の教導なら意味も無いと判断して、それ以降はありがたくお引取り願うこととなった。

現在の俺の修練方法は、基本的には見取り稽古の形を取り、見て学んだことを旧修練場で自分の肉にするという作業を行なっている。何せ俺には物事を深く観測できる『心眼』の技能があるのだ。コレを使えば効率的な身体捌きやオーラの運用方法などを盗むのは割りと簡単だったりする。


先ず身体の動かし方だが、此方は実に簡単。城下町に下りて、下町で行なわれている自警団の訓練風景を見学させてもらっている。


自警団は民間人で構成された武装集団なのだが、例えば城壁の外へ出かけたが遅くまで戻ってこなかったり、何か急を要する用件の際に国軍が動かない場合などに独自で行動を起すのだが、任務で城壁の外へと出て行くことが多いためか、かなり実践的な戦闘技能を持っているのだ。基本的な剣捌き、間合いの取り方など、戦闘経験がほぼ皆無な俺にとってはかなり有益なものが得られた。


……この国の騎士団? あんなお座敷剣法でチャンバラごっこしてる連中の何を参考にすれば良いのだか。俺の代役くらい幾らでも存在するのは間違いないだろうが、少なくともこの国の騎士団にそれほどの人材がいるのかどうか。城下町で聞いたところ、この国の騎士団は貴族の溜り場なのだとか。治安維持も大半は自警団でこなされているのだとか。そもそも人口の少ない国であるために、それで十分に賄えているのだそうだ。


次に、オーラの扱い方について。こちらに関しては最初にこの国の巫女さんの力を参考にさせてもらっていたのだが、序盤以降は完全に自己流に移らせてもらった。

というのもこの世界、世界観がかなり古臭い感じで、文字こそ存在しているが、数学と言うものが存在していない。数という概念は有るのだが、算数が出来ない人間がかなり多いのだ。故に、力の配分だとかを理屈をつけて説明できる人間と言うのがいなかったのだ。


まぁ魔法なんてそんなものだ、と言われてしまえばそれまでなのだが、その余りにも丼勘定な力の使い方に、これはもう独学でやったほうが良いと判断して、それ以降は心眼で自分の力の流れを観測しつつ、その流れを整えたり、あるいは書籍から知識を得たりしていた。


因みに言語文字に関する知識は、召喚の魔法陣に組み込まれていたとかで、ご都合主義的に理解することが出来た。欠点としては、魔法陣に組み込まれている知識がかなり古いものらしく、言語は別として文字の知識が大分古いものに偏っているのだそうだ。おかげで古い文献を読むのには苦労しないのだが、最新の文献を読むときに読み取れない単語とかが出てきて多少面倒だったりする。







そんな感じで、A組から離れて独学に移行して7日。下町の自警団に混ぜてもらうようになり、大分身体捌きも馴染んできた頃のことだった。

俺がいつものように訓練を始めようと旧修練場に足を踏み入れると、いつもは誰もいないその場所に、然し何故かその日は俺以外の人物が一人いた。


紫色のローブを身に纏う、猫背の姿。遠目に見てもその人物が老人であることは理解できたのだが、然し何故こんな所にそんな老人がいるのか理解できず、思わず首を傾げてしまう。


「其処の人、こんなところでなにしてるんだ?」

「おぉ、おったおった。ワシはな、御主を探しておったんじゃよ」

「……俺を?」


なんだろうと首を傾げる俺の前で、突如としてその老人……近付いた事でわかったのだが、女性だった……がその手に持った杖を空に掲げた。急速に杖の先に集まるオーラに咄嗟に身構える。


「何を」

「少し移動するだけじゃ。警戒せんでも良い」


そうは言われても。その杖の先に集まる圧倒的なオーラ。量的に言えば俺や天ヶ瀬のそれには届いていない……筈なのだが、其処から感じられるプレッシャーは如何考えても俺のそれを上回っている。いや……。


「圧縮、かな?」

「ほ、見ただけで解るのかえ。いや、そういう能力なのかの?」


モノに留めておけるオーラの量と言うのはそう簡単には変化しない。当然あの杖に留めておけるオーラの量というのも一定のはずだ。然し、杖に集まっているオーラはどうみても杖の許容量を大幅に上回っているように見える。前提条件が変化するという考えを除外するなら、現在の観測結果から得られる情報を元に推測して、考えられるのはオーラの圧縮というものだろうか。

オーラを圧縮させる事ができる、何て話はまだ聞いたことも無いのだが、そうであるというのならば老婆の放つオーラの威圧感と言うのも理解できる。


警戒しなくても良いとは言われても、あのレベルのオーラをぶつけられればそれだけで俺は木っ端微塵に成るのではないだろうか。とてもではないか気を許せるような状況ではない。

そんな事を考えていると、目の前の老婆の杖が静かに光を輝かせ、その瞬間めまいのようなものを感じて咄嗟に地面にしゃがむ。


「……この感覚は……」


覚えがある。この眩暈と地震と二日酔いのような感覚。規模こそ違うし、それほどたいしたものではなかったが、この世界に召喚されたときのあの不快感にとても似ていた。


「はっ?」


そんな事を考えながら周囲を見回して、思わずそんな声が零れた。

つい先程まで立っていた場所、急訓練場は、周囲を石造りの外壁に囲われた、建物の中庭と言った風体の場所だった。ところが現在俺がたっているのは、如何見ても建物の中ではなく、風にたなびく緑の木々が生える森ど真ん中。唯一開けた場所の中央にぽつんと存在するのが、小洒落たログハウス。


「て、転移ってやつか……?」

「そうじゃ。それで、あれがワシの家じゃ。とりあえずついておいで」


そういって歩き出した老婆。如何した物かと迷った物の、とりあえずは付いていってみるしか無いだろう。……こんなところで放り出されても困る。


「フラウス、今帰ったぞ」

「御帰りバイオラ」


ログハウスに入ったところで、不意に老婆がそんな事を言う。家の中に誰か居るのだろうかと更に警戒していると、何処からともなくそんな声が。視線を走らせて周囲を見回しても、それらしい人影は何処にも無い。――いや、違う。

違和感を感じて視線を上に向ける。其処には、全体的に紫色の色合いをした薄半透明の少女が、プカプカと宙に浮いているのだ。


「ゆ、幽霊!?」

「失礼ね。私をそんなのと一緒にしないでよ」

「ほっほっほ、まぁ異界の人間には区別が付かんのだろうよ」


むっとした顔をする紫色の少女に、そう言う老婆に促され、そのままログハウスのリビングらしき部屋へと案内される。

椅子を勧められて其処腰掛けると、老婆はオーラを纏わせた指を一振り。途端机の沸きに置かれた奇妙な金属器が反応し、ふんわりとした紅茶のような香りが立ち上る。


「……それは?」

「紅茶の事……では無さそうじゃの。これはの、魔導器と言う奴じゃ。オーラを動力として動く機械仕掛け、でわかるかの?」


頷く。そんなモノもあるのか。

差し出された紅茶を受け取る。臭いにへんなところも無いし、多分大丈夫だろうと判断して口を付ける。

……あ、美味しい。


紅茶を頂いて一息つく。ちゃっかり老婆の横に座って紅茶を飲む紫色の少女を眺めて、オバケって食事できるんだな、なんて思っていると、一息ついた老婆が漸く本題に入ってくれたらしい。


「それじゃ、先ず自己紹介かの。ワシの名はバイオラ・バルバロッサ。皆からはババ様と呼ばれておるよ。で、此方がワシの契約精霊で、無の精霊フラウスじゃ」

「幽霊じゃないわよ」

「俺は御澄海斗。カイトが名前でミスミが姓だ。……この世界、精霊っているんだな」


然し、無の精霊? その単語が少し気になる。のだが、まぁそれを聞くのは後回しだろう。


「先ず最初に、ババ様、でしたっけ。何で俺を此処に連れてきたんです?」

「うむ。簡単に言うと、ワシの元で修行してみぬか、という誘いじゃな」

「修行?」


確かに俺の実力は他のA組の面々に比べると低い。異能のスペック差というのが大きすぎて、比較するのもおこがましいと言うほどだ。

この差を埋める必要と言うのは余り無い。何せ俺はもう勇者をする心算がないのだ。


「うむ。ワシも勇者をやれとは言わんよ」

「なら、なんで修行を? いえ、ありがたいのはありがたいんですが……それに、鍛えるなら俺よりも素質に溢れるほかの連中を鍛えたほうが良いんじゃ?」

「うむ、先ず理由じゃが、一つに気に入ったと言うのがある。あの模擬戦はワシも見て追ったのじゃがな、中々面白かった」

「見られていたんですか……」


確かにあの時、観客として城の中に居た貴族が試合を見ていたというのは聞いていたが。


「もう一つの大きな理由が、ヌシが城の連中からは気にも留められておらんと言うのが大きいの」

「なんでそれが理由に?」

「ワシもあまり権力に関わりとう無くての。これでも昔は名の売れた魔導師じゃったから、下手に関わると面倒ごとに巻き込まれそうでの」


その言葉に取り敢えずは納得しておく。影響力がある人間と言うのは、良くも悪くもハプニングに巻き込まれる。その程度に違いは有れども、俺も確かにそういう経験はある。


「で、他の勇者らを鍛えん理由じゃが、一つは権力に関わりとう無いと言うのがあるが、もう一つがわしが教える必要が無い、というのが大きいの」

「……あぁ、確かに。小技を教える必要なんて無さそうだしなぁ」


A組の連中は、俺を除いてその全員がかなりの大技な特殊能力を得ている。雷雲だったり台風だったり炎だったり、当れば勝てるような大技に目覚めている連中だ。一々力の運用なんて面倒な部分に手を出す必要も無いのだろう。


「教えようと思った理由はの、少し手伝いをして欲しいんじゃ」

「手伝い?」

「うむ。ワシはの、ちょっとした礼装を作って折るのじゃが、これがまた作るのにオーラを馬鹿の様に喰う代物での」


そこで手伝いを探しているところに、前述の条件をクリアする俺と言う存在を見つけたのだと言う。

確かに俺は特殊能力こそハズレではあったが、保有するオーラの総量はA組トップクラスの連中に比肩する。電池として使うのはありかも知れない。


「その手伝いの対価に、オーラの扱い方を教えてくれる、と?」

「そうじゃの。そう悪い取引ではないと思うが?」


確かに。今得ている情報だけでも、この老婆はオーラの圧縮に転移と、見ただけで凄いとわかる技術を二つ見せている。

俺の『心眼』で見て盗むというのも有りだが、やはり明確な指導が有るのと無いのとでは大きく違うだろう。


……まぁ、これが罠と言う可能性が皆無と言うわけではない。まぁ俺なんかを罠に嵌めた所でどんな利益が得られるのかは知らないが。


「……解りました。それじゃ、指導を頼んでも宜しいですか?」

「うむ、それではこれから宜しくの」


そういって手を差し出してくる老婆。そのシワシワの手と握手をして、ついでにフラウス、無の精霊と名乗った少女にも手を差し出してみる。


「そっちも、宜しく」

「ふん、精々宜しくしてあげるわ」


……何このツンデレ。思わずときめいてしまったじゃないか。


余りにもテンプレなツンデレを見せられて、思わず崩れてしまいそうな顔面に力を入れていると、ババ様が不意に「さてと」と声を掛けて椅子から立ち上がった。


「そでは、弟子入りに際して、先ず最初に一つ、カイトに教える技を見せてやろうかの」


そう言って杖を突いて移動するババ様。早速名前呼びか、なんて考えつつ、まぁ世界によってはそんなものかと納得し、ババ様の後について移動する。

玄関を出てたどり着いた、家の前の広場。俺と付いてきていたフラウスをログハウスの前で待たせると、ババ様は其処から少し離れた場所で杖を構えて仁王立ちになった。


「今から見せるのは、先程の『圧縮』から発展して開発された業で、『精錬』という。圧縮はオーラの量をつかって質を上げる技じゃったが、この精錬はオーラそのものに手を加える事でその質を向上させる。利点は圧縮と違い、オーラの消耗が増えることは無い。欠点はワシくらいの年から精錬を覚えても、身体にかかる負荷であまり長時間使えんという点かの」


そういうとババ様は、杖を構えて静かに瞑目して数秒。ゆっくりとババ様の身体からあふれ出したオーラと威圧感に思わず目をむく。

それは確かに、先程の圧縮されたオーラに近い『濃い』オーラ、いわば質の高いオーラだ。

模擬戦の時に戦った天ヶ瀬の激しい戦意を孕んだオーラに比べて余りにも静かな、然し内包する威圧感は桁違いに大きなオーラ。


その凄まじいまでの迫力に、これは『当り』かもしれないと、そう考えて思わず口元に引き攣りながらも笑みを浮かべてしまったのだった。



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