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02 模擬戦になりました。

「それでは、始めっ!!」


巫女さんのそんな掛け声と共に開始された模擬戦。始まっていきなり駆け出してきた天ヶ瀬、その姿が放つ威圧感に、思わず度肝を抜かれた。


合図と共に駆け出した天ヶ瀬の速度は、何処ぞのスプリンターもかくやと言わんばかりの猛スピードで、咄嗟に鉄甲でガードする。が、その天ヶ瀬のオーラが放つあまりの衝撃に、ガード越しに巨漢にハンマーでぶん殴られたような圧力を受けて、そのまま俺の躯は真後ろに向って勢いよく吹き飛んでしまった。


なんとか後回りに受身を取るが、その時点で既に背中にべったりと冷たい感覚が走っていた。

……これは単純な威力だけじゃない。たぶんあの光燐とかいう特殊能力、攻撃に外付けで威力を足すだけじゃなくて、天ヶ瀬の筋力なんかに対してもブーストを掛けているのだろう。


俺だって効率化を高めたオーラによる簡易ブーストを掛けているのだ。未熟とは言ってもそれは相手も同じ。寧ろ効率化を掛けている分オーラの運用に関しては俺の方がただただオーラを噴出させている天ヶ瀬よりは上だろう。オーラ総量に関してならそう差は無い筈の俺と天ヶ瀬だというのに、スキル一つでこうまで差が出るとは。だからこその勇者、ということなのだろうが。


チラリと天ヶ瀬の剣を受け止めた左腕の鉄甲に視線を向ける。腕自体はオーラで強化した上に鉄甲に守られたおかげで無事だったが、鉄甲にはまるで熱した刃を当てたかのような一本筋の亀裂が走っている。

……これ、もし生身で受けたら、刃が潰されていようが問答無用で骨ごと両断されるよな。


「審判、すとっ」

「いくぞ御澄ぃっ!!」

「っく、とまれ猪バカ!!」


再び爆音と共に飛び出してきた天ヶ瀬。幸いにして心眼の効果で天ヶ瀬の挙動はしっかりと確認できている。光燐には視界を阻害するような効果もあるみたいなのだが、その点は俺のスキルもすてた物ではない。まぁ、見えていることと対処できるか如何かは別の話なのだが。

相手の一直線上から飛び退き天ヶ瀬の背後に回りこむ。剣を振り下ろして無防備になったその背中に、渾身の力を込めて右の一撃を放つ!


――ぶわっ!!


……は?


オーラを確りと纏って放ったその一撃は、然し天ヶ瀬を包み込む白い光によって阻まれてしまう。まるで風で膨らんだカーテンを殴ったかのような軽い感触に一瞬気を取られて、直ぐ視線の先で剣を横薙ぎに構える天ヶ瀬の姿に咄嗟にその場から一歩飛び退く。


ゴバッという、如何聞いても空気を斬る音ではなく、寧ろ空気の壁を無理矢理引き千切ったかのような轟音。

距離を置いて鉄甲を構えると、なんとなくお腹の辺りがスースーする。バッサリ斬られたというよりは、重機に巻き込まれたかのようにビリビリになっているシャツの裾に更に冷や汗が噴出す。


……これ、どうしようか。


いきなりだが勝ち目は一切無い。が、だからといって簡単に降参するのも許されないだろう。……天ヶ瀬を見る審判約の巫女さんの目。あれは既にオチてる。くそっ、フラグメーカーめ。多分今降参を申し出たところで、あの巫女さんが許可しないだろう。天ヶ瀬の良い所がまだ見れてない、とかそんなノリで。


だが、だからといってバカ正直に天ヶ瀬の良い所を見せるために俺が痛い目に逢うなんてのも馬鹿らしい。というかそんなの絶対に嫌だ。

勝てないのは確実。だが、俺だって男だ。せめて一矢報いたい。


「行くぞ御澄ぃ!!」


再び突っ込んでくる天ヶ瀬。これを直接受け止めるのは、現在の俺では不可能だろう。コレを回避して、再び死角に回り込んで天ヶ瀬を殴りつけるが、相変わらず膨らんだカーテンを殴るような手応えの無さに違和感を感じる。


再び追撃が来るのはわかっているので距離をとるのだが、今度は少し様子が違った。

天ヶ瀬の剣に集まった光燐。天ヶ瀬が剣を振るのにあわせるように、その剣先に集った光の粒が、勢いよく此方目掛けて飛んできたのだ。


「ぬぐっ!」


……これが噂の『飛ぶ斬撃』というやつか。剣筋を結ぶ光。弧月状の光の放つ強烈なプレッシャー、心眼を通して見ても、当ったら痛いでは済まなさそうだ。本当に漫画みたいな技を使いやがって!

放たれた光の斬撃を、オーラを込めた鉄甲で思い切り殴る事でその軌道を弾き飛ばす。結構な出力のオーラを纏った鉄甲だったが、鉄甲が纏うオーラの守りを貫通されたらしく、飛ぶ斬撃を弾いた鉄甲の寸鉄部分には、まるで焼けたナイフで抉られたような傷が出来ていた。


「おおおおっ!!」


そんな飛ぶ斬撃を殴り弾いた所為で体勢を崩すその最中、再び爆音を放って切りかかってくる天ヶ瀬。この体勢では横への回避は出来ない。咄嗟にどうするか考えて、ふとアイディアが一つ浮かぶ。相手が漫画技で来るのならば、こちらも漫画っぽい行動をしてみたらどうか、と。


思いついたが即座に実行。崩れた体勢のまま思い切り地面をけりつける。オーラによって強化されていた俺の肉体は、通常では到底不可能な軌道を描き、斜め前方へと飛び上がる。途端にふわりと飛び上がった俺の躯は、くるりと一回転しながら、突進してきた天ヶ瀬の肩を足場にして、その後へと飛び降りる。

トン、と軽い音を立てる着地音。振り返り、先ほどまで俺が建っていた場所に振り下ろされる天ヶ瀬の剣を見つつ、なんとか成功したことに少し安心する。とはいえこんな曲芸紛いの回避、二度は通じないだろう。


「くっ、さすが御澄。あの連携まで回避するとは」

「なにその変な信頼。今の何て完全にまぐれだぞ?」

「謙遜しやがって……だからこそ倒し甲斐がある!」


なにその妙な意気込みっ!? なんでそんなに天ヶ瀬に目を付けられているのかは知らないが、更に気合が入ったらしい天ヶ瀬の威圧感に早々に逃げ出したくなってきた。湧き上がる虚脱感を気合でねじ伏せ、拳を構えてそのまま更に思考を重ねる。


問題は此方の攻撃が通用しない、効果を成していないという点だ。攻撃を通用させるには、一つに此方の攻撃力を上げること、二つ目が相手の防御力を下げること。

一つ目の方法は…………例えばオーラの量を増やすとか? でもオーラの総量を下手に変えるのは……。

そう考えて、ふと思いついた光景。それは先程の飛ぶ斬撃。あれはオーラを剣に溜めて放っていたんだよな?


あれは光燐という形にしたから出来たのかもしれないが、とりあえず思いついたら即行動。全身から消耗されるオーラを少しずつ集め、それを右の拳に溜めていく。


……いけそうかな?


試しにそのままオーラを鉄甲に移動させてみると、拳とオーラの二つにオーラを留めておくことができそうで、更に威力の向上を狙えそうだ。

天ヶ瀬の突進を回避しながら、試しに牽制に混ぜて一撃入れてみたところ、先程よりも大きく撓む光燐の防御幕。全く無かった手応えに比べれば、確かに進歩はしている。が、残念ながら防御幕を貫けなかったのも事実。


後、今出来得る対応策としては、天ヶ瀬の防御能力を下げる、というモノなのだが……あのオートガードをどうやって機能低下させる? あの防御幕の性能はとんでもない。多分だが他のA組クラスメイトの異能でも突破は不可能なのではないだろうか。それほどの物を感じる。


……正に触ることも不可能な……ん?

触る事も不可能、と言う言葉にふと違和感を感じた。


……俺、さっきの回避のとき、アイツの肩を踏み台にしたよな?


飛ぶ斬撃の後の追撃を回避するとき、不安定な姿勢からの跳躍で助走が足りず、天ヶ瀬の肩を足場にしてその頭上を飛び越えたのだ。

回避できた事に集中していて、その肩を足場に出来たという事実を見落としていた。

ということは、あの瞬間間違いなくアイツは防御できていなかった、もしくはその防御力が低くなっていたという事なのではないか。

可能性としては何がある? あの時天ヶ瀬は何をしていた? 剣に力を溜めて此方に切りかかってきていた。と成ると可能性は……もしかして、オーラ総量か?


肉体の内側に溜めておけるオーラと言うのは100%が上限。それ以上を扱おうと思えば、例えば体外に放出しておくとか、今やっているように武器にオーラを溜めるとか。もしかすると、あの光燐のオーラ許容量にも上限があって、それは攻撃と防御を同時に行なうには十分とはいえないのかもしれない。攻撃と防御、常に両方を完璧に維持することが出来ず、普段は防御重視に、けれども攻撃の瞬間はその力を攻撃に廻す為に防御が疎かになってしまうのだとすれば……。マニュアル操作のスキルなら意図的にカバーできるかもしれないが、あの特殊能力は、例えるなら『体外に自動操縦の装備(オーラの器)を作る』というものなのだ。主であるオーラ操作とは別口である自動操縦であるが故に、それほど多くのリソースを割けないのだと考えると、仮定が事実である可能性は十分。あの時は確かに攻撃モーションに入っている最中だったし、もしかするとこの予想は当りかもしれない。


となれば、奴の防御を貫く方法は只一つ。相手の攻撃のタイミングにあわせたカウンターだ。


――でも、だが然しだ。


再び此方に向けて突っ込んでくるイノシシ……もとい、天ヶ瀬を見る。身体から溢れ出すオーラの噴射で、ロケットの如く凄まじい勢いで飛んでくる天ヶ瀬。その勢いは間違いなくスピードを出して車くらい……下手すると80キロ毎時くらいは出ている可能性がある。俺が現在天ヶ瀬の突進を回避できているのは、あくまでもオーラによる身体強化と、心眼による見極めの成せる技でしかないのだ。


――ぶっちゃけ滅茶苦茶恐い。


言ってしまえば正面から突っ込んでくるトラック相手にチキンレースを連発しているようなものだ。俺のチキンハートはよく持っている。


「当ったら、痛いんだろうなぁ」


けれども、此処で逃げるのは男が廃る。別に男を見せたい相手がいるわけでは無い。どうしても男を貫かなきゃ成らない理由があるわけでもない。


――でも、逃げるのは何か違う。それは違うのだと俺の胸が叫ぶのだ。


「今度こそきめるぞ、御澄ぃッッ!!!」

「――ふぅ」


息を吐いてリラックス。それと同時に斬撃を飛ばしてくる天ヶ瀬。その一撃をオーラを溜めた左手で弾き飛ばす。先程とは違い、オーラを籠めた事で重くなった拳の一撃。辛うじて威力が拮抗、いや此方の攻撃が上回ったらしく、殆ど体勢を乱すことは無かった。

その事に驚きの表情を浮かべつつも、そのまま突っ込んで来る天ヶ瀬。その姿を集中して観察する。


……確かに、剣に集まるオーラと光燐に目を取られて気付きにくいが、光燐の方は防御体勢時に比べるとその密度はかなり薄い。この状態なら、渾身の一撃は通じるかもしれない。


「食らええええええ!!!」

「――――っっ!!」


その瞬間。歯を食いしばって、一気に前へと踏み込む。集中し、振り下ろされる刃の内側へもぐりこみ、翔ける勢いのまま右腕を振りぬく。

左腕を引き、肩を梃子のようにして突き出す右拳。交叉する刃と鉄甲が火花を散らしながらすれ違う。


「当れええええ!!」


咆えながら拳を突き出す。オーラを噴出しながら、まるで小さなロケットのように突き進む拳。その一撃は天ヶ瀬の剣を置き去りに、予想通り薄くなっていた光燐の領域に突き刺さる。


――いける!!


そう確信し、唸るその一撃が天ヶ瀬に直撃しようとしたところで――鉄甲が音を立てて砕け散った。


「なっ!?」


その瞬間、右こぶしに集まったオーラの総量がガクッとさがる。拳と鉄甲というキャパシタの内、鉄甲が砕け散ってしまったのだ。その時点で使えるオーラは右拳にある分だけ。

それでもと右拳を振りぬくのだが、威力が落ちた分光燐による防御を抜くペースが落ちてしまう。そして、その落ちたペースこそが命取りとなった。


「クッッ!! ブレイク!!」


ドカンッ!!!、という音と共に身体が吹き飛ばされる。何が起こったのかわからない。どさっと言う音と共に身体が何かにたたきつけられる感触。痛覚は殆どダウン。視界も濁っている。

せめて何をされたのか確認しようとして、視界に映ったのはその身体を覆う光燐が激減している天ヶ瀬の姿。


……成程。光燐を爆発させたのか。


所謂理リアクティブアーマー。相手の攻撃を、装甲を爆発させることで威力を減衰させるというモノで、一部では戦車などに利用されていた技術。

多分だが天ヶ瀬は、俺に光燐を抜かれそうになった時点で、咄嗟に光燐を爆発、その勢いで俺を吹き飛ばしたのだろう。俺と言う砲弾を、自爆に近い防御方で。


……くっそ、同じ攻撃ばっかりしてたから、それ以外の可能性を見落としていた。

これは見事なまでに俺の負けだな、なんて考えたところで、ついに意識を保っていることが出来なくなったらしい。

ふっと息を吐くと、力が抜けるのを感じると同時に、視界が真っ暗に染まって行ったのだった。



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