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俺はいつも思っていた。いつかなんとかなる。俺ならできる…と
だがそんなことはなかった。
自分から何もしなければ神様は微笑んでくれない。
これまでも…これからも…
2024年 7月
「おい九鳳院。ごみだし頼むわ。」
ろくに働いていないくせに、店長という肩書にまで出世した男が俺にそう言った。
「…はい」
「毎回いうけどさ~、もうちょっと声大きくなんないの?
接客業は大きな声と笑顔が重要なんだよ。
ちょっと顔がいいからって、声小さくていいとか思ってんの?」
「…いえ、ごみだしに行ってきます。」
「くそっ!」
ガタンッ!そんな音を立てて俺の目の前のゴミ箱が倒れた。
「お前だって、客の前では声が小さいじゃないか!
自分だって何もできないくせに、人にばっか色々言いやがって!」
落ち着こうと思い、胸ポケットに入っているたばこに火をつけ、口にくわえる。
「ふぅ~。」
自分の吐き出した煙が夜の闇に消えていった。
「どうしてこんなことに…」
スタートは他者に比べて圧倒的に有利だった。
大企業の社長の息子として生まれ、容姿端麗、文武両道といった具合に、自分で言うのもなんだが、完璧だった。
女子からの告白、部活のスカウト。
自分のプライドが高いせいで全て断ったが、とにかくみんなが俺によってきた。
それが災いしてか、俺は自分から何かをせず、次第に自分から何かをするのが怖くなっていった。
あんなに友達になろうと言ってきてくれた子たちも、あんなにあなたの彼女になりたいと言ってきてくれた女子たちも、あんなにお前の運動神経があればうちのエースになれると言ってくれた先輩たちも…
俺はあんなに低俗な奴らとはつるまない、もっとかわいい子が俺の彼女にふさわしい、
あんなくだらないスポーツなんてやれるか。
なんて、くだらなく、これ以上ないほどに低いプライドのせいで、しだいにみんなは俺から離れていった。
自分から話しかけようにも、怖くて怖くて仕方がなかった。
「今さらなんだよ。」
そんなことを言われるんじゃないかと思うだけで、話しかけることなんてできなかった。
ずっと人と話していないと、話しかけられるのも怖くなる。
誰とも関わらない。そんな日々を送っていた。
ここまでならまだ救いようがあったかもしれない。
しかし、気づけば高校3年生になっていた。
もともと、才能には恵まれていたので勉強は授業を聞いているだけで常に成績上位に入っていた。
もしできるならば、過去の自分を殴ってやりたい。
前回の教訓はなんだったのか…と。
俺なら大して勉強せずとも有名大学に受かると、そんなことを思ってしまったのだ。
結果は不合格。
当然だ。
大して勉強せずに受験なんて狂気の沙汰だ。
人生を舐めきってる。
喜劇はこれだけでは終わらない。
俺に浪人は似合わない。
そう思い働くことにした。
「親のコネには頼らない。」
そういって勢いで家を飛び出した。
しかし、今の世の中、高卒を雇ってくれる企業なんて少ない。
自分の理想の企業など当然入れるわけもなく、
「今ではバイトを転々とし、気づけば25歳。
何かを通り越してなんだかおもしろい人生だよな。」
ここ数年間で頭を冷やす時間は十分すぎる程あったので、自分がいかにバカだったかがよく分かる。
「さて、そろそろ戻らないと店長にまたなんか言われるな。」
そういって立ち上がった瞬間、俺は、
意識を無くした。
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