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友達?

 初依頼を達成してからは毎日依頼を受けつつ魔物と戦った。鍛錬にもなるし魔素という確かな力のおかげで自分が強くなっていると実感できたから。

 どちらかと言えば依頼よりも戦うことに夢中になっていた。どこか焦っているかのような、執着していたのかもしれない。


 今は街の外で大猪を仕留めたところだ。昼近い。


 「シオンちゃん最近頑張りすぎじゃないかしら。気持ちは分かるけど無理して怪我したり体壊したりしちゃったら本末転倒じゃない? 少しは休みを取ったほうが良いと思うわ」

 「そうかな? 俺的には全然無理してないつもりなんだけど」

 「自分でも頭がいっぱいで気付かないことってあるのよ。確かにシオンちゃんは普通より丈夫だし昔から鍛えてきたからちょっとやそっとじゃ問題ないんでしょうけど、ずっと戦いっぱなしってのは“心”のほうが疲れるんじゃないかなと思ってね」

 「……それは、あるかも。考えてみたら最近は強くなることだけに目が向いていたかもしれない」

 「そうよね。自分の進む先に繋がる確かなものが掴めた時ってエネルギーにもなるけど視野が狭くなってしまうこともあったりして躓いちゃう人もいるのよ……。シオンちゃんには周りをしっかり見て後悔のない道を歩んで欲しいから」



 ――そう語るメアの瞳は少しだけ暗く、悲しみの色が見えた



 「ごめんなさいね、そんな大げさな話でもないのにこんな真面目でつまらないこと」

 「メア……」

 「ん? どうしたのシオンちゃん、そんな顔して――っ!!」


 普段の明るくておちゃめで、だけど頼りになるお姉さんって感じのメアと今の弱さが垣間見えるメアの姿、二つが重なってしまったら何かを失いそうで訳も分からず抱きしめていた。


 「シオンちゃん……」

 「心配してくれてありがとう。メアも何か不安があるなら俺がいつでも相談に乗るから。いつもメアに助けられて心配かけてばかりじゃなくて、俺だって男なんだから好きな人の力になりたいし」

 「シ、シオンちゃんっ!? す、すすす、好きってそんなっ!! 私なんか……」

 「あっ、いやその、す、好きって言うのは家族としてとか親しい人としてとかそういうやつで……だからその……」

 「そ、そうよねっ!! 私ったら凄い勘違いしちゃって恥ずかしいなぁもー」


 いや焦った。なんでサラッと好きとか言っちゃってたんだろ、俺。恋愛経験皆無な童貞のクセに。なんかすごい恥ずかしいんですけど。よく考えたらハグもしちゃってたな。

 それもこれもメアが急にあんな切なそうな表情するから……。


 「さ、さあシオンちゃん、依頼の条件もクリアしてるみたいだし今日は早めに帰りましょ」

 「そ、そうだね。今日は残りの時間ゆったり観光でもしながら過ごそうか」


 街に向かって二人で歩き出す。ちょっと気恥ずかしいのかお互い微妙に距離を空けているような気がする。





 「シオンちゃんはまだ子供なのに、私なんでこんなにドキドキしちゃってるのかしら。なんだか姿さえ大人ならこのまま好きになっちゃいそうね…………私って変態?」





 「おめでとうございます。Eランクに昇格です」


 あんまり意識していなかったが結構依頼を達成していたらしく今日は昇格試験用の依頼を受けることができた。内容は大猪を一体狩るという内容だったのだが案外楽だったので見事依頼達成してランクが一つ上がった。

 しかし、これでやっと正式に冒険者の仲間入りという感じらしい。


 「やったわね、シオンちゃん」

 「うん。メアもね」


 もちろんメアも一緒に昇格した。


 「あっ!! アンタたちもうEランクに上がったの!?」


 ニーアだ。ギルドに来ると高確率で遭遇する。


 「ふんっ! それなりに実力あるみたいだけど、Eランクなんて誰でもなれるわ。ちなみに私はDランクだから」

 「すごいね、ニーア」

 「そうよ、すごいのよ私は。まだ十四歳なのにDランクなんだから」


 何度も会って学んだことだがニーアは賛同したり褒めたりしておけば機嫌が良くなるので扱いやすい。あからさま過ぎると余計怒っちゃうのがまた難しいとこだけど。


 「けど、アンタも十二歳のわりには頑張ってるみたいだし、昇格祝いってことでランチに付き合ってあげても良いわ」

 「う、うん。じゃあ行こうか……」


 ここで断ったら面倒なことになりそうだし。まぁ、連れていっても面倒そうだけど。


 「いつもニーアが迷惑かけてすみません。彼女もまだ若いのにこんな場所で生き残っていかなければならないので性格がどんどん乱暴になっていってしまって。彼女にも色々と事情があるので嫌いにならないであげてください」


 いつもの受付の人が申し訳なさそうに話しかけてきた。初めてギルドに来たとき対応してくれた少しキツイ印象の女性だ。話し方はクールだけど優しさが滲み出ている。


 「いえ、ニーアは裏表がないですから一緒にいて楽しいですよ。元気すぎて疲れますけど」

「そうですか、良かったです。彼女ああ見えて歳の近いシオンさんがギルドに通うようになってから元気になりましたから」

 「そうなんですか? 初めて会ったとき既にすごい元気だったような……」


 「なにしてんのよシオンっ!! 早く行くわよー!!」


 「あ、呼ばれてますね。それじゃ失礼します」

 「はい。行ってらっしゃいませ」





 俺、メア、ニーアの三人で普段より少し高めの食堂に入った。

 最近の依頼報酬と素材による収入で所持金は10000Gを超えたので一般人からしたらちょっとした小金もちだ。一応祝いの席なんだし少しぐらいの贅沢は良いだろう。


 「アンタなかなか見る目あるじゃない。ここは私も自分へのご褒美の時に利用してるわ」

 「なら味は心配ないね」

 「当たり前よ。この私の舌を納得させる味なんだから」

 「あら。ニーアちゃんがそこまで言うなんて楽しみね」

 「ちゃん付けするのやめてっていつも言ってるでしょ!! まったく」

 「いいじゃない、可愛らしくて。ね、ニーアちゃん」

 「あームズムズするー!! この女は侮れないわね」


 何をそんな事で熱くなってるんだか……。


 「おーい、お前ら! こっち来いよー」

 「あ、ケイさん」


 短めに切られた無造作な茶髪とアゴヒゲの生えた人の良さそうな二十後半の剣士。俺やメアに対しても気味悪がったりせずに接してくれる冒険者としての先輩ケイさんが一人で食事していた。


 「なによ、ケイ。アンタまた一人で食べてるわけ? 寂しいわねー……ぷっ」

 「うっせー。お前だって普段はほとんど一人だろうが」

 「ふんっ私は寂しくないから良いのよ。アンタは顔に一人で寂しー、彼女ほひーって書いてあるの」

 「んな訳あるかっ!! お子ちゃまには一人の素晴らしさが理解できないようだな」

 「なら一人で食べてれば良いじゃない」

 「なんだと!! この…………」


ガミガミガミガミ


 賑やかだなー。


 ケイさんはここの常連らしい。冒険者は一定の力さえあれば結構稼げるので「一人身だから贅沢し放題なんだよ」って言ってた。

 うん……分かるよ。


 「シオンもメアもEランクに昇格か、随分早いな」

 「普通よ普通。ケイがしょっぼいからそう思うだけよ」

 「こいつはまーた突っかかってくる。少しはシオンを見習え」

 「なによ、シオンは暗いだけでしょ」

 「うっ……」

 「かー、素直さが足りないよお前は」

 「よしよし、良い子ねーシオンちゃん」





 なんだかんだで二時間も居座ってしまった。ランチどころじゃない。

 けど……すごく楽しかった。今までとは少し違う幸せを体験できた気がする。


 「それでなんだけどさー。今大物の依頼があって挑戦したいんだけど一人だと大変……じゃなくて、私が今度戦い方を指導してあげるからアンタたちも一緒に来なさいよ」

 「えっ!? い、一緒に?」

 「何よ、私と一緒なのが嫌なわけっ!? シオンのクセに」


 「えーと……どうしようメア」

 「そうね。一緒だと魔人だってバレる可能性は高いわね。私も剣の姿になれないだろうし。でも断ったら怖そうよね」


 「何二人でコソコソ話してんのよっ!! 明後日の朝ギルドに集合だからちゃんと来なさいよ。ケイも」

 「げっ!! 俺も!?」

 「そうよ。Dランク以上が二人は必要だって受諾条件に書いてあったんだから仕方ないでしょ」

 「ったく、我が儘な子だねーお前は」

 「もっと上を目指したいのよ」


 別れ際に一方的な約束を取り付けられてしまった。


 「ま、まあ大丈夫よ。明日はバレない為の対策を練りましょ」

 「そうだね」



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