別れ
短めですがキリが良いので。
悪魔がいた。
人間より一回りも二回りも体が大きく、筋肉は肥大し全身の皮膚が装甲のように硬そうで漆黒の色をしている。
そして翼、尻尾、角が生えた姿はとても禍々しく邪悪で恐怖を抱かせる。
でも――アレは父だ
何故だか一目見た瞬間にアレが父だと理解した。
父は大量の人の中心にいた。
聖歌隊らしき人たちは倒れていたが、それ以外は変化していない。
何をしてる? そのままでは恰好の的になってしまうぞ。
助けに行かなきゃ……動け、動けよっ!! こういうときの為に今まで特訓してきたんだろっ!!
さっきの後遺症なのか体が思うように動いてくれない。
……恐いのか? 俺は死ぬことを恐れているのか? 一度死んだんだ、もう一度死ぬくらいっ!! 新しい命をくれた父さんを、母さんを、助けるんだっ!!
――優しいシオン。あなたはお母さんの言うことが聞けるわよね? お利口さんだもの――
――母さん。父さんが……――
――大丈夫よ。あなたは後ろを向いて、それから真っ直ぐ走りなさい。何も考えなくて良いの――
――そんなの、そんなこと――
――愛してるわ、シオン。それじゃあメアちゃん、シオンを頼むわね――
メアが俺の手を引っ張りながら走り出した。
俺の体は抵抗できず、少しずつ家から離れていく。
後ろから追ってくる者を父が引き留めている。
やがて剣で貫かれ魔術で焼かれていく。
それでも倒れずに俺を逃がすために……。
家も魔術により崩壊していく。
酷い光景……だけど目を離すことは出来なかった。
この思いは絶対に忘れない。しっかりと脳裏に焼き付いてしまった。
――俺にもっと“力”があれば
それから無我夢中で走り続けた。父と母の思いを無駄にしないために。絶対に生き残るために。
メアと二人、どこまでも走った。
そして一つの街へ辿り着いた。