狩り
遠くから爆発音のようなものが聞こえてくる。これは本格的にヤバい。
「なんで……どうしてっ!!」
走りながらそんな言葉が零れてくる。
そう言いながらも何となく理解できてしまう。何故こんなことになっているのか。
――魔物の、魔物と関わるものの宿命
そんな風に考えたくはないが世界を否定したところで何も変わらない。
恐らく魔物全てを忌避する、悪だと決めつける人間が俺たち家族を狙って来たんだ。
しかし、父は強い。魔物ということだけではなく戦士として尊敬に値する人だ。そして母も魔術師としての腕は確かだ。何も心配することはない……無事でいてくれっ!!
俺の予想は外れた……悪い方に。
大量の、辺り一面を埋め尽くす騎士や魔術師らしき者たちによって家が囲まれていた。
炎が上がっている。
父さんっ!! 母さんっ!! そう叫ぼうとした。
しかしその口は人の姿に戻っていたメアの手によって塞がれていた。
「落ち着いて……あれは“聖剣教団”の者たちよ。迂闊に手を出して良い相手じゃないわ」
「で、でもっ、んぐっ……」
「静かに、しっかり作戦を立てましょ。良い?」
「……分かった」
「聖剣教団って言うのは魔物を絶対の悪とし、世界中の魔物を根絶やしにしようと企む宗教団体なの。魔物や魔物と関わる者は容赦なく全員殺害する危険な組織なんだけど色んなとこで魔物の被害から救われたって声があって人間の間では広く浸透しているのよ」
「つまり俺たちのことも殺すつもりなんだね? どう戦えば勝てるの?」
「……正直この数を相手にするのは厳しいわ。魔物を相手にしている団体ってこともあって強さも相当なものなのよ」
「じゃあどうすれば」
二人で考えた、でもどうやっても勝てる見込みはゼロ。
白銀の鎧を着て剣と盾を装備しているのが教団に所属する騎士、神殿騎士。純白のローブに身を包んでいるのが教団に所属する魔術師、祓魔師。物理、魔術、攻撃、防御の整った構成だ。
俺のような子供が立ち向かえる相手じゃない。だからと言って父と母で勝てるのかも不安になってきた。
しかし、話し合えるような相手でもない……くそっ!!
「出て来るのです、魔に取り憑かれた者たちよ。自らを捧げなさい。さすれば天の道は開かれるでしょう」
一際豪華なローブに身を包んだ魔術師が意味の分からないことを言っている。
メアによるとあれは教団の部隊を率いる部隊長、司祭と言うらしい。
「我らは神の代わりに聖なる剣を振るう者。聖なる剣は魔を祓ってくれるのです。さあ、神の祝福を授かるのは名誉なことなのですよ? 抵抗するならば残念ながら強行手段をとらなければいけません」
これはいよいよヤバいな。
――シオン、聞こえますか?――
「か、母さんっ!?」
頭の中に直接声が響く。
――今、念話を使って語りかけています。聞こえているということは近くにいるのですね?――
確か念話は言葉を交わさずに直接頭の中で会話することのできる魔術だったはず。
母の念話が俺に向けられているようなので同じように頭で話してみる。
――うん。家の近くにメアといる。どうするの?――
――私たちは包囲網をどうにか突破して逃げます。シオンとメアちゃんも気付かれていないうちに逃げて――
――でもこんな人数から逃げられるの? 俺も一緒に――
――駄目よ。こう見えて私もお父さんも強いんだから心配しないで早く逃げなさい。後で必ず合流するから――
――そう。分かった――
そしてこの場から離れようとしたとき。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「ぐあぁっ……な、なんだ、これ……っ」
耳を劈く音が響いて来た。
「こ、これは……聖歌隊……紛れていた、なんて……」
メアは聖歌隊と言った。これのどこが聖歌なんだ。頭が割れそうだ。
「ぐあぁっ……があぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」
「駄目よ……堪え……て、居場所が、ばれて、しまう……わ」
苦しい、もう何も聞こえない、ただ頭が痛い。
「おや? あそこにも魔に取り憑かれた者の姿が見えますね。あなた方には辛いでしょう。この聖歌は。今楽にして差し上げますね」
司祭がこちらに気付いたみたいだが、それどころではない。
俺は、死ぬのか?
――音が止んだ
痛みも消え、意識が正常に戻っていく。
どうなった?
「なんだ……あれ?」