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予兆

 や、やばい!!

 今は勿論、前世でも童貞だった俺には刺激が強すぎるっ!!


 「おはよう。甘えん坊さん」


 へ? 何この人平然と話しかけてきてるの? 頭が混乱して状況が理解できない。

 昨日は……初めての狩りで心身ともに疲れていて夜は早く寝た。それだけだ。何もおかしいところはない。

 一つ普段と違ったのは剣を抱いて寝たということだが……ま、まさかね。


 「あ、あのぉ……ぶはっ!!」


 ふ、服を着てくれっ!! 全部見えちゃってる……胸とかお尻とか……毛とか。


 「と、とりあえず何か服を」

 「あら、恥ずかしがっちゃって可愛いのね。もっとおっぱい吸っても良いのよ?」

 「なっ……い、いいですからっ!!」

 「分かったわ。仕方ないわね」


 その人は何やら魔術を使ったのか一瞬にして服を身に纏った。


 病的に白い肌と濁りのない漆黒のロングヘアー、真っ赤な瞳を持つナイスバディな絶世の美女。そして黒を基調とした豪華でエレガントないかにも貴族が着るようなドレスを身に纏った姿はそれだけで一つの芸術だ。

 歳は二十代の中盤ぐらいか? けど美人過ぎて判断しかねるな。雰囲気は妖艶な感じでもっと三十代とか言われても不思議じゃないし。


 「これで良いかしら」

 「は、はい。大丈夫です……それで、あなたは?」

 「私はあなたの所有物よ」


 絶句だ。いきなり所有物とか言いだすなんて頭がいかれてる。


 「坊やも立派な男の子なのね。にやけてるわよ」


 しまった!! 無意識のうちにちょっとロマンを感じてしまっていた。こういうとこだけゲスい大人なんだから困るよな、俺。


 「い、いや、そういうことじゃなくて……」

 「ふふっ、ごめんなさい。少しからかってみただけよ。本当は何が聞きたいのか理解してるわ」

 「えっ」

 「私は“吸血鬼”と呼ばれている魔物で名前はメア。最近ちょっと貧血気味で動くのがダルかったから剣に変身すれば誰かが勝手に血を与えてくれるかなって思って試してみたのよ」


 は? 色々と要素がありすぎて思考が追い付かん。

 つまりこのメアっていう人が誕生日にプレゼントされた剣で吸血鬼……は?


 「吸血鬼という種族は変身系の魔術に優れているのよ」

 「は、はぁ」

 「それで、昨日たくさん血をご馳走してくれた坊やにお礼をしようって」


 昨日……確かに餓狼を数匹倒した。それのことか?

 それでお礼が裸で……て、何でやっ!!


 「だけど変身を解いたら坊やが大切そうに抱きしめてくれてたから」


 あ、後生大事に抱きかかえて眠ったのは俺ですね。はい。

 でも父が見繕ってくれた鞘に入れておいたはずだけど。鞘はメアさんの変身ではないよね?


 「あ、それとごめんなさい。変身解いたときに入ってた鞘を壊しちゃったみたい」

 「あぁ、はい。大丈夫です」


 そういうことね。

 それで、どうすんだ? この状況。


 「でもメアさんはこれからどうするんですか?」

 「そうね。私のこと高い金額払って買ってくれたみたいだし、これからも坊やに使ってもらおうかなって思ってるんだけど……どうかな? やっぱり吸血鬼とか駄目かしら」

 「え、いや全然その辺は問題ないです。むしろ剣としても性能は良いのでこちらからお願いしたいくらいですよ。」

 「あらそう? 良かった。これで楽できるわ」

 「ははっ」


 なんか俺の持ってた吸血鬼のイメージとは少し違うな。見た目はそれっぽいし話してるときチラリと牙が見えるから本当なんだろうけど、性格はもっと高慢な感じだと思ってた。

 けどこれからも武器として使わせてくれるみたいだし悪くないな。





 「と、言う訳なんだけど」


 俺はメアのことを掻い摘んで両親に説明した。裸で抱き着いてたりおっぱいの件はなしで。


 「な、なるほどな」

 「そ、そうなの」


 まぁ理解はしてくれた。





 それから数日は楽しかった。

 父と狩りに行くようになったり、メアと親睦を深めたり、母とは魔術の特訓を続けて、時には家事の手伝いをしたりと平和でのどかな幸せの日々だった。


 「気を付けて行ってきなさい」

 「うん。行ってきます」


 今日は初めて一人で狩りに出かけることになった。まぁメアがいるんだけど。


 「さて、今日の獲物は……あ、射撃蜂(シューティング・ビー)だ」


 射撃蜂は尻部分にある針を撃って攻撃してくる大きめの蜂だ。遠距離から攻撃してくるため同じく遠距離系の武器か魔術で倒すのが効率的。


 魔術とは世界に満ち溢れている『力』そのものである『魔素』に自分の魔力を使って術式を加えることにより様々な現象を引き起こす技術だ。

 しかしまず自分の中にある魔力を魔素に対してどのようにして干渉させるのかは多種多様な方法が存在し、個体によっても向き不向きや可能不可能もバラバラで自分に合った手段を見つける段階から既に困難らしい。

 さらに個体によって持っている魔力の性質や量なども違うので扱える魔術の種類や得意不得意な分野も違ってくるという。

 このように非常に敷居が高く結局習得できない者も多く、そもそも才能がなく扱えない者もいるというのだが、俺は魔素に近しい存在の魔物である父と魔術師として実力のある母に恵まれたおかげで時間はかかったが何とか扱えるようになった。


 俺の魔術発動手段はこの頭に生える角。この角は俺の中と外を繋ぐ媒介になってくれるらしく頭の中で組んだ術式を魔素へ伝えてくれる。

 そして闇系統の魔術が得意らしい。


 さて、攻撃魔術として重宝している黒炎弾(ダーク・ボール)を使ってみよう。

 正直魔術に関しては基礎を理解するのにかなり苦労して、まともに使える魔術は少ない。


 右手を前にかざし魔術式を魔素へ加える。

 両手サイズの黒い炎が発現し、勢いよく射撃蜂へ撃ち出される。


ボアッ

バチバチッ


 見事成功した。

 急いで消火しないと。


 蜂系の魔物からは蜂蜜が取れるので中身が駄目になる前に持参していた水をぶっかけて消火する。





 そして数匹の魔物を倒した後、家に帰っている途中……。





 「な、なんでっ!?」





 ――家が燃えてる





 嫌な予感がした……俺は必死で家までの道のりを駆け抜ける。





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