始まり
俺は普通の人と違う。
色んな意味で。
姿は黒髪黒目で顔は普通、体も人間と変わらない。
だが、一つ明らかに違う部分が存在する。“角”だ。
頭に角が生えている。
父は魔物と呼ばれているモノらしいが母は人間。いわゆる異種交配によって産まれたのが俺だ。
そして、そういう存在は『魔人』と呼ばれ差別を受けていると聞いた。
魔物とは『魔素』という世界に溢れる『力』の影響によって独自の進化を遂げた生物の総称らしく、魔物にも様々な特徴や性質、文化などがあるのだが人々は危険な存在として魔物全体を忌避している。
確かに魔物の中には強い力を持ち人々や世界に害をなす存在も多いのだが全員がそうではない。
しかし広く定着してしまった考えを覆すことは中々に難しく普通に生きたい魔物たちは未だ苦労の日々が絶えない……と、父は話してくれた。
そしてその魔物の妻である母も、子供である俺も迫害の対象となってしまっていることに申し訳なさそうにしている父の姿をよく見かける。
だけど俺は一度も父を恨んだことなど無い。父も母も大好きだ。
何せ俺は一度“死んだ”身なのだから。もう一度人生を与えられた、ただそれだけで感謝してもしきれないほどに幸せを与えられている。
だから魔人ということでこの先たくさんの障害が待ち受けているなら、それに負けず屈せず立ち向かえるように強くなれば良いと考えて小さい頃から特訓をしてきた。
走り込みや筋トレなどは勿論。父に戦いを、母に魔術を教わった。
そして、今日は俺の十二歳の誕生日だ。転生前の俺が十八歳だったことを考慮すると精神的には三十歳ということになるが結局のところ歳だけ積み重ねた子供と言っていいだろう、頭良くないし。
俺たち家族が住んでいるのは人里離れた森の中。人からは迫害を受け、父は自分と同じ種族と会ったことがないらしく頼るものがなく、辿り着いたのが此処だったと言っていた。
それでも何処からか聞きつけてわざわざ森にまで来て嫌がらせをしてくる奴らはいるのだが。
「シオン、誕生日おめでとう」
「うん。ありがとう母さん」
「本当にプレゼントはこれで良いのか?」
「もちろん。ありがとう父さん」
母は緩くウェーブのかかった金髪で瞳の色は茶色、スタイルは抜群だ。
父は肌が灰色で頭に角が生えていて背中には蝙蝠のような翼、腰のあたりからは先の尖った尻尾が生えているが体そのものは人間の形をしている。
たぶん悪魔的な種族なんじゃないかと思うが、物心ついたときには一人だったから自分が何者なのか分からないって言ってた。
で、俺が貰ったプレゼントはと言うと……本物の剣。
特訓では剣術もやっていて普段は木刀を使っているのだが、ある程度様になってきたので本物もそろそろ扱ってみたいと思ったのだ。
森には凶暴な魔物もいて、稀に敷地内に入ってきたのを父が倒しているので自分も両親を守れるように、自分の身も自分で守れるようになりたいなと。
魔術は一応扱えるようになったのだが素人レベルだし、魔力切れや相性の悪い者もいるため基本はやっぱり剣術ということになる。
「おお、すごいねこの剣」
「そうだろう? たまたま近くを旅の武器商人が通った時に買ったのだ。運が良かった」
「ええ、そうね。街までは遠いものね」
「ああ、それに行けば必ず何か騒動が起きるからな……」
子供が持つには少し大きいのだが一般的にはロングソードと言われる片手剣で、柄に綺麗な装飾が施されていたり刀身に模様が入っていたりと豪華なつくりで……なんか高級そうなんだけど、貰っちゃっていいのか?
「これ凄く高そうなんだけど、いくらしたの?」
「子供がそんなこと気にするな。それに見た目は豪華だが武器商人は数日前に道端で拾ったと言っていたからな。鞘もなかったので然程高くなかった」
「ええ、シオンは誕生日なんだから何も気にしないで。もっと甘えて良いのよ」
「うん。分かった」
高くなかったなんて嘘に決まっているけど、今更返せるわけでもないのだから有難く貰っておこう。甘えるのも子供の仕事だ。
大切にしないとな。
その後は普段より気合の入った料理を食べながら家族で楽しく過ごした。
そして今日は父と一緒に狩りに出かけることになった。
昨日の剣を扱ってみようと言ってくれたのだ。
父は食料の調達のため偶に森へ狩りに行くのだが、それの手伝いをする。
「シオン、準備は良いか? 絶対に無理はするな。父さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ」
「分かってるよ、父さん」
「よし、では行くとするか」
まずは父さんの狩りを見させてもらったのだが……めちゃくちゃかっけー。
どんな魔物も一太刀で苦しませずに片付けている。
「お、あそこに餓狼がいるな。常に腹を空かせていて何でも襲う魔物だ。倒してみるか?」
「う、うん。やってみる」
餓狼はこちらに気付いたようで走ってくる。
……落ち着け。いつもの特訓を思い出して、父の狩りを参考にして。
「ガァウッ」
来たっ!!
真正面から跳び掛ってきたので素直に剣を力いっぱいに振り抜く。
すると綺麗にスッパリと斬ることが出来た。
日々の鍛錬と父親譲りな強い体のおかげだな。あと剣の切れ味も凄いんだろう。
「凄いじゃないか、シオン。一発で決めるとはな」
「父さんの特訓のおかげだよ」
「おだて上手な息子だな。何か欲しい物はあるか?」
シュゥゥ……
「ん? なんだ今の音は」
「と、父さん!! これ見て!!」
なんと、剣に付着した血が吸い取られていくように消えた。
「これは……何か特別な加工が施されているのかもな。払った金額以上の価値はあるぞ」
「そうみたいだね」
シュゥゥ……
さらに辺りに飛び散った血も吸い取っていく。
気に入った。
それから数匹の餓狼を倒して家路についた。
「お帰りなさい。あなた、シオン」
「「ただいま、母さん」」
今日は良く眠れそうだ……zzz
……なんだろう。
顔にとても柔らかくてスベスベで、包まれているような安心感を覚えるものが。
口にはコロッとした何だか懐かしい物体が含まれている。
久しぶりの感じだ。
チュウ
口が本能の赴くままにソレを吸っていた「あんっ……」
ん? 声が。
次第に意識が覚醒していく……。
こ、これはっ!!
――俺は裸の女性に抱きついていた
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