9
ある日のこと。
学校で球技大会の旗を作るのを手伝って遅くなった。うちの学校はなにかとクラス旗を作りたがる。
学校を出るときちょうど7時だったから、もう陸斗さんが帰ってきてるかもしれない。
冷たくなりだした夜の空気を吸い込んで自転車をこぐ。
三十分ほど自転車を走らせると、市街地の灯りもまばらになり寂しい道にくる。このあたりが寺のあるところだ。もう慣れた道。いつものように自転車を停めようとすると……
「……くと……てそんな人……たの」
……?
確かに寺の庭から聴こえる。涙ぐむ女の人の声? 内容はよく聴こえなかった。
なんだろうと思って耳を澄ます。単なる好奇心からだった。
しかし聴こえてきた会話の内容に、唖然とする。
「信じてたのに、楽しみ終わったら捨てようってわけ? ひどいわよ!最低!!」
「言いたいことってそれだけ? 遊びだって分かってなかった?」
「っ、……あんたなんか……」
「悪いけど俺行くから。じゃ、楽しかったよ……あと、こんなとこまでついて来るとかないわ」
冷たい声。あたしの知るその人からは、聞いたこともない声。
でも紛れもなくそれは、この寺の住人のものだ。
やだ……うそでしょ? あれが陸斗さん?
絶対違う……あたしの知ってる陸斗さんはあんな人じゃない。
そう思いたかった、けど。
「出てきたら」
この声を間違えるわけがない。
「……!」
気づかれてた。
冷や汗が出てくる。怖い。行けないーー呼吸を必死で抑えて、壁にはりつくようにして隠れる。
「あっ……!」
肩を引っ張られて無理矢理顔を向けされられた。
「やっぱりまりだ。全部聴いてた?」
答えても答えなくてもどうせばれてる。あたしはただショックに打ちのめされていた。