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涙の上に  作者: ぬるま湯
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7

 休日。

 いつもより遅めに起きた。朝ご飯の当番ではなかったし寝過ごしてもいいと思ったのだ。来てすぐの頃に比べれば、だいぶ進歩したと思う。

 のびのびと過ごせるようになってきた。

 休みの日も、陸斗さんは朝早くどこかに出かける。帰ってくるのは昼頃だ。それから何してるのかは知らない。

 考えれば考えるほど、あたしは彼のことを知らないと思い知らされる。

 台所には、シンプルなメニューだがとにかく量の多い朝食が置かれていた。こんなに食べると思ってるんだろうか?

 陸斗さんは細いのに大食いだ。三人分用意してもぺろりと平らげる。自分の胃袋と一緒にしないでよ、と心の中でつぶやいたけど、そんな陸斗さんの思考回路がかわいいと思った。


 昼頃になると陸斗さんは帰ってきた。


「どこ行ってたの?」


 思い切って聞いてみた。


「合気道」


 へえ、知らなかった。意外だ。道着とか似合うんだろな。

 それからは無言だった。でもあたしは彼のことを一つ知れてルンルンだった。


 夕方、洗濯物を入れに庭に出ると、縁側で陸斗さんが寝ていた。初対面のときに着ていたあの甚平だ。彼が好む服装はとにかく「着ていて楽なもの、動きやすいもの」だ。そういうもの以外を身につけているのはまだ見たことがない。

 たぶん制服もネクタイとかしてなかったんだろうなとか勝手に想像してみた。

 あたしに言わせれば、彼はネコだ。自由気ままに生きてて気まぐれで行動する。あたしを引き取ったのも気まぐれだったりして。


 でもあの格好は反則だ。どういうわけかだらっとしていればしているほどかっこよさが増す陸斗さんだが、縁側で寝ている姿には見入ってしまうものがある。 わざとゆっくり洗濯物を入れる。ちらちら縁側を見ながら。


 夕飯の時間になっても陸斗さんは来ない。

どうしたのだろう。まさかまだ縁側で寝てるとか?

 案の定だった。

 日が暮れたことに気づかないのだろうか。


「あの……」


 起きない。揺さぶってみようか。

 そう思いつき、肩まで手をのばして引っ込める。ムリだ。触れない。恥ずかしすぎる。

仕方なくそばにあった孫の手でつんつんとつつく。それでも起きない。今度はもう少し強く。


「うそ、これでも?」


 まさか死んでるなんてことないよね。


「陸斗さん、起きて」


 あたしは決心して肩をつかみ揺さぶった。重たい。細いけど一応男だからか。揺さぶるどころか押しまくってるみたいになる。

 とたんに陸斗さんは目を開けた。

 え、こんなんで起きるのに何で今まで起きなかったの!?


「ん……今何時?」


 眠そうなまぶたが異様な色気を放っている。なるべく顔を見ないようにして答えた。


「7時だよ。晩ご飯できてるから……」


「あー、ありがと」


 ありがと、と言われただけで胸がざわめく。


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