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涙の上に  作者: ぬるま湯
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 ここは確かに寺だけど、陸斗さんはお坊さんではない。寺は何年か前に潰れて、陸斗さんの家族は「どっか」に行ったらしい。

 あたしが今使っている部屋は陸斗さんの妹さんの部屋だ。

 陸斗さんはどこかに仕事に行っているが、なんの仕事かは全く不明。スーツ着ているところは見たことがない。とにかく謎だ、あの人は。あたしも陸斗さんが喋らないことは聞かないけど。


 学校に着いて朝の補習を受ける。しかし朝の出来事で頭がいっぱいで集中できない。


 陸斗さんはさりげなく優しいから困る。ぶっきらぼうな声で、何とも思ってないような表情で気遣いを見せるから思わず受け取ってしまう。

 机の横にかけてある弁当に脚が当たる。


 頼ってもいいのかな。追い出されたりしないかな。







 帰って部屋に行きカバンを置く。

 明日の数学の小テストの勉強をして、洗濯物を取り込んで、晩ご飯を作って……。一人の世界。黙々と過ごす。


 早く帰って来て欲しい…


 そんなことを思った自分にびっくりした。顔が熱くなる。誰もいないのに恥ずかしくなる。

 陸斗さんが帰ってくるまでまだ一時間はある。先に晩ご飯を食べて、部屋で本を読んでいた。

 時計の針を時々確認しながらそわそわする。あと少しで帰ってくる……。


 ガラガラ、と玄関が開く音が聞こえた。あたしの心臓がうるさく鳴り始める。


「おかえり」


 さすがにこれくらいのあいさつは慣れてきた。


「ただいま」


 ごくあたりまえのことだが、それが成り立つのが嬉しい。前の家では互いに無視だった。さりげなく返してくれる声を聴くと胸のあたりがほわっとする。


 靴を整える骨ばってごつごつした手にどきっとする。じろじろ見たら不自然だと思ってすごすごと部屋に戻ろうとしたら。


「まりって誕生日いつ?」


 背中から声をかけられて一瞬何かわからなかった。


 誕生日!?

 陸斗さんがあたしに聞いた!?


 呆然としながら振り向く。


「まりの誕生日」


 もう一回聞かれた。


「12月……29日」


 恐る恐る答える。意図がわからない。なんでいきなり誕生日?


「まだか。よかった、過ぎてたら悪いと思って」


 えー!?


 今、なんて!??


 あたしは真っ赤な顔のまま、逃げるように部屋に戻った。







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