10
どん、と陸斗さんがあたしの後ろにある壁に手をついた。逃げられない。
鋭い氷のような目で見下ろしながらあたしの返答を待っている。
「と、ちゅうから……」
声が震える。怖かった。
今まで優しかったのに、どうして?
「ふーん……ぷっ、震えすぎ」
陸斗さんが手をのばした。その手があたしの頬に触れる。びくっとする。
これ、誰?
声に出ていたらしい。笑われた。
「俺、こんな奴だから。そんな意外だった?」
「うそ……」
ぶっきらぼうでつかみどころがないけれど、いい人だと思っていたのに。
待って……これって、今までとおんなじパターンじゃない? もしかしてここもダメなの? 追い出されるの?
あたしって一体、何なのーー。
視界がにじむ。涙が出ていた。
いやだ、泣きたくない。陸斗さんに泣き顔なんか見られたくない。
こんな状況になってまでまだそんなこと気にするのか、と少し自分に呆れる。
涙はとうとう頬を伝う。一筋じゃ終わらない。どんどん出てくる。嗚咽とかはなかった。ものすごく静かに泣いていた。
もういい……どうにでもなれ。めんどくさいやつと思われてしまえばいい。
「……いや、その、ちょ、…泣かなくても……」
「……は?」
驚いて涙が止まった。
明らかに陸斗さんは動揺している。さっきの女の人も泣いてて、あの人はあんなに冷たく突き放したのに。




