A difficult youglet
こんな夜には眠れない・・・。
28センチの狭い空間の中で時は流れ、頭の中でシチュウの具の様に物事が動き回る。
「ブロッコリー」と言う名の正義が視床下部の窪みにゆっくりと銃を突きつけ、
「にんじん」と言う名の悪魔が、尤もらしい理屈をせかせかと脳に問いかけ・・・、
「たまねぎ」と言う名の天使がその間を駆け抜けて、全ての物事をまったりと落ち着かせようとしている・・・、
今、まさに、
パニックだ・・・。
余談だが、僕は人参が結構好きだ。
くそったれな脳味噌とは対照的に心の中は妙に落ち着いている。
何故だろう・・・、信じられないくらい震えていた手の震えはやがて止み、今、胸の鼓動はナチスドイツの兵隊達が足並みそろえて歩行する時の様に、しっかり、
ドッ、ドッ、ドッ、
と音を立てながら時の過ぐ様を僕に伝えてくれた。
それは確か12時の鐘が鳴った時の事だった。
目をゆっくり開けると、一匹の埃が目の前を飛んでいたんだ。
窓から溢れ出る月明かりを逆光に浴び、青白く輝かせる羽をゆらゆらと微妙に揺らしながら踊っている埃は本当に美しかったんだ。その埃を目でゆっくりと追っているうちに鼓動の病気が治ったのだろう。多くの人達は落ち着くと色々な物事を頭の中で考えてしまうが、その物事に対する正義と悪との戦いこそが
「冷静に物事を考える」
という事かもしれない。
そう、俺は、冷静だったんだ・・・。
そして、天使な「たまねぎ」がとろけだし、透き通る羽を真っ白なスープに休ませ、正義な「ブロッコリー」がそのスープの中から少しだけ顔を覗かせ、悪魔な「にんじん」が沈み始めたオリジナルブレインシチュウが出来た頃、突然涙が溢れ出てきたんだ。夜露に濡れる平安な森の都を思い起こさせる様な物じゃない 、溢れ出てくるんだ・・・。僕には全く分からないまま悪魔のささやきをこの涙に感じ取っていた。
止められない、止まらない・・・ 、
どうしたらいいものか?
おかしな事に勝手に溢れ出る涙に身を任せていたんだ。
匂い、優しい匂いと共に鍋の奥深くに眠る悪魔「にんじん」の様に・・・幼い時に母に殴り倒された、思い出したくもないかすかな危険な香が身を包んでいく様な気がする。
でも、正直こんな考え方について論ずる思考も思い浮かばないまま、自然と銃を持たない手は口を押さへ「涙」と「理性」と言う心の叫びから生まれた。
「ヒャックリ!!!」
という化け物を必死に押し殺そうとしていた。
この化け物はさすがに手強かったよ。
ヒャックリが出るだけじゃないんだ。
肩が勝手に上下に動くから、それを一生懸命抑えようとするだけで、余計な体力まで消耗してしまうんだ。更に、その後、おびただしい量の涙が乾いて、少しだけでも顔を動かすと、パキッパキッと皮膚に地割れを起こすんだ。
それが、かゆくて、かゆくて仕方がなかったんだ。今思うと、本当に分からないんだどうしてこんな場所にいるのかさえも・・・
この考え方こそが「理性」と言う物なんだろう・・・客観的に自分を見つめている真実の気持ちだから。
この化け物とはとても長い時間一緒に過ごした様な気がする。
身を隠している者にとってこれほど恐ろしいものはないと思うんだ。
今まで「理性」と言う様な頭で感じる物よりも、体で感じるものの方がこれほど大きな存在とは、普通に暮らしていく中では誰もが分からないだろう。もう一つ「ブロッコリー」が感じさせてくれた俺の中の緑色に、驚きと言うよりも、不思議な感覚を感じながら、俺ははにかむ様な笑みを自然と浮かべていた。
優しさの生活に振り返らなかった自分が滑稽に見えたのかな?
時の流れに逆らい、現実を受け止めながらも世の中全ての出来事に対してエゴを感じ、そのエゴに対する自分自身の不平不満にエゴを感じ、ジレンマの中のジレンマによる生活の中、俺の中にある緑の森に甘い天使の風が注ぎ込まれた事はある意味滑稽だ。
でも、こんな気持ちになりたいと思っていたんだ。
そのためには、今と言う生活を壊し、人の目を気にしない環境の中に身を置く必要がある事を俺は知っている・・・。
臆病な俺はその事に気が付きながらその生活を拒否していた。誰だってそうだろう、俺だけじゃない、とても勇気の要る事なんだ。ついに現実に存在する悪魔、そう、俺の右手の中に眠る銃が鍋の淵に黒い焦げを付け始め、ふつふつと沸騰し始めた今まで奥底に眠っていたはずの彼が鍋底から溢れ出る煮沸と共に怒りを顕にしたんだ。銃口は俺の頭に真っすぐに向けられ最後の暗示を唱え始める。
「おいしくな~れ~」
「おいしくな~れ~」
俺のケチヤでも混ぜる気なんだろうか。ホールトマトほどの酸味はないが案外いけるかもしれない、などとバカな事を考えている自分がいた。落ち着いた心とは裏腹にバカな事だけはどんどん浮かび上がる。
「おかしくな~れ~」
「おかしくな~れ~」
と聴き間違えた暗示にかかったのだろう。
食卓にシチュウが並ぶ時が来た。
暖かい湯気が蜃気楼の様に、小さい頃、母に読んで聞かされた童話をふと脳裏に浮かばされていた。
今まで生きた中で一番優しい気持ちになれた一時だったからであろう。
母の腕に優しく包まれ、美しい声を聴きながら想像力を膨らまし、羊が一匹出るか出ないかと言う所で眠りの世界に往ってしまう気持ちの良さ、この眠りへの誘いの瞬間までもがふっと思い浮かんだ。皮肉な事にこの時思い浮かんだ童話の話と言えば、
「ピノキオ」
だった。
あいつはいろんな困難を乗り越えて人形から人間になれたが、未だに俺は、何を目指せば良いのかすら解らないままだ。
でも、これだけは言える、人は誰でもどんなに有名な話があったとしても、きっかけがなくては自ら昔話を思い起こすなんて事は決してないだろう。
たとへ、たまたま会話の中に出てきたとしても、
「そんな話があったな」
で、終わりだ。
そして、今、俺も一つの物語になろうとしている。
だんだん、朝日の光が射し込んできた。
その光は埃と言う天使をより一層美しく見せ、埃達は俺に言った。
「ゴミでも美しくなれる時があるのよ」
と、自らを一生懸命俺にアピールしていた。しかし、誰もが口をつけない冷え切ったブレインシチュウは、もう固まって動かず、最後の決断に僕は彼女達にこう言った。
I AM SORRY
I AM STORY(俺は物語だから)
I FORGET YOU(君の事忘れるよ)
朝の目覚ましと共に心の中の銃がなる・・・。
ここは、ベッドの下・・・。
Dear my gorilla 曲が頭に浮かぶようになってから、感情と文字が自然と頭に入り込む様になったのかな。文字と言う暗号が自らの癖をつくりこみ、それを僕は神の言葉の様に信じていったんだ。このコードは神様がくれた優しさを示す場所なのだから・・・
難しい精子だけが解読できる優しさのコード進行はアルファベットの中にこそ存在する・・・。
連れて行ってあげるよ!
αbed
(アルファーベッド) という、
未知のベッドの存在の中に・・・・・。