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翡翠の星屑  作者: 季月 ハイネ
四章 アルティナ王国
51/207

51,温度差ふたつ、混ざらずに


「どうもしないぜ?」


 ラスターの視線を受け止め、リディオルは端的に告げた。


「肯定したならそのまま王宮まで連れてきた。嬢ちゃんは断ったから島に行かせた。まぁ、こっちの手間がひとつ省けたかもしれねぇが、それだけだ」


 リディオルは言う。計画に、支障も予定外もなかったと。


「じゃあ、船を沈める気は初めからなかったんだよね?」


 勢いをつけて訊いてみると、妙な沈黙が漂った。ラスター以外の皆の視線が、改めてリディオルに集まる。何か変なことでも言っただろうか。

 こめかみに人差し指を当て、眉根を寄せたリディオルが心底嫌そうにラスターを見た。


「……なんで今、その話が出てくるんだ?」

「なんでって言われても、一番気になってたコトだし」


 うめきにも似た声へと、ラスターは返す。リディオルはやめたと言っていたけれど、ラスターのせいで船が沈められたのではないかと、気が気でなかったのだ。

 しかし、リディオルだけでなくキーシャもこの場にいるということは、船が無事にアルティナまで着いたという証だ。それは感謝したい。


「ありがとう、リディオル。船を沈めないでいてくれて」

「あのな……ありがとうも何も、はなから沈める気なんてねぇよ。なんで自分が乗ってる船を沈めるんだよ。よく考えりゃわかるだろうが」

「あ、そっか」


 反応に困ったらしいリディオルが、それはもう呆れきった顔になって深々と息を吐いた。


「嬢ちゃん、あんた本気で嫌になるくらいそっくりだな……」

「そっくりって、誰に?」

「俺の知り合いに」


 そのままあさっての方向へ目を逸らしたリディオルが、一体誰をその脳裏に浮かべたのか、ラスターは知らない。世の中には自分に似ている人が三人はいるのだという。その理屈から言うのなら、ラスターと似ている人も、あと二人はいるのだろう。リディオルが挙げた一人のように。

 そのとき視界の隅で動く影があり、ついそちらへと目を向ける。リディオルの視線を追って、彼の眼前まで移動したナクルだった。わざわざ視界に入る位置に足を向けるなんて、何事だろう。


「──リディオル殿」


 呼ばれたのはラスターではないのに、肩が跳ねた。


「あ?」

「先ほどの言動、本気ですか?」


 ナクルの口が発したのは、地の底から響いてきそうな声だ。それも、ラスターがいつか耳にしたシェリックの声と、負けず劣らず低い。


「本気なわけあるか。ただのはったりだっつーの」

「あなたなら、一人だけ逃げおおせたあとに船を沈める芸当をやりかねません」

「そこまで馬鹿じゃねぇよ。そんなことをしたら、シャレル様に何を言われるかわかったもんじゃねぇだろ」


 おどけて肩をすくめるリディオルの前で、ナクルがひとつ、息を吸った。


「──そうですね、そんなことをしたら反逆罪を問われて国外追放……いえ、それでは生易しい。捕縛したのち、即座にその首をはねられるでしょう。お望みであれば、私自らの手で裁いてあげますよ」

「冗談。おまえにやられるくらいなら是が非でも逃げきるね。ま、おまえごときに捕まるほどの腕じゃねぇし? ──っと、だからそうじゃねぇ。そもそもの前提がちげぇよ!」


 いていた剣へとかけられた手。ナクルが無言で行動に移そうとしたのを見て、リディオルが慌てて制止の声を上げた。


「こっちの策だ。あくまで嬢ちゃんをその気にさせるための策。本気じゃなかったっつってんだろうが! 脅し文句だ、脅し文句!」

「そうですか……それは残念です」


 心の底から惜しみながら、ナクルは柄に添えていた手を離した。何がどう残念なのか、怖くて詳しく聞きたくない。

 今のシェリックとリディオルもそうだけれど、それ以上にこちらの二人は、どうしてこう殺伐としているのだろう。大まかな原因がリディオルにあるような気がするのだけれど、ラスターの思い違いだろうか。

 仲の良し悪しという単純な判断だけでは括れない。人の関係性は、複雑怪奇だ。


「シェリック殿、ラスター殿。長旅でお疲れのところ、お見苦しいものをお見せしてしまい大変失礼しました。部屋までご案内しますので、私のあとについていらしてください」

「ああ」


 そこからどうして何事もなかったかのように話が進むのだろう。応じるシェリックもシェリックだし、開放されたとばかりに背中を伸ばし始めるリディオルもリディオルだ。ついていけない。


「さーて、俺も戻るかねぇ」

「そうですね。私がこちらに戻ってくる前にお帰りになって頂けると、大変ありがたいですが」

「口の減らねぇ奴だな……」

「ありがとうございます」

「褒めてねぇ」


 無表情にも近いナクルと、疲れきった表情のリディオルと。なんだか対照的で、足してふたつに割ると丁度良くなるかもしれない。足したら足したで、一度そこでせめぎ合いそうだけれど。


「しばらくはここにいるんでしょう?」


 おかしなことを考えていた思考から頭をもたげる。おずおずと話しかけてきたキーシャが、ぎこちなく笑みを見せた。


「ラスター、また会いましょう。今度はもっとお話ししたいわ」

「うん、ボクも」


 話したいことも聞きたいことも、たくさんある。あれからどうしたとか、嵐の中の航行が大変ではなかったかとか、ラスターたちが輝石の島にたどり着いたこととか。


「ナクル、ありがとう。またね、キーシャ」

「ええ、また」


 待っていてくれたナクルに礼を言い、キーシャに別れを告げる。

 次へと繋げられた約束が、ラスターの胸をほんのりと温かくさせた。


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