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ここはなにかが欠けている

学院の勇者、かも

作者: 浮月重月
掲載日:2026/10/24

王立中央学院は、王国貴族、準貴族が必ず通う学術機関である。

九歳から十四歳までの六年十二期を通じて、貴族社会の基礎を学び、

卒業出来た者が家名を継ぐ資格、騎士や文官になる受験資格を得る。


学院と名の付くものは他にも芸術学院などいくつか存在するが、

王立中央学院への入学は貴族と準貴族の義務であり、例外はない。

芸術学院などを目指す貴族子女は、王立中央学院を卒業した後に、

改めて目的の学院へ入学し直す必要がある。


つまり王国貴族、準貴族は全員が王立中央学院の在学経験がある。

卒業したか否かは置いておくとして。


◆


王国中の貴族、準貴族子女が集まる為、王立中央学院は巨大である。

その期によってもばらつきはあるものの、一期でおおよそ五百名。

貴族子女はそう多くなく、大半は一代騎士などの準貴族子女である。

それに加えて比較的裕福な平民からも百名程度入学しているため、

全部の期を合わせると生徒総数は実に六千名前後となっている。


ひとつの校舎では到底賄いきれず、広大な敷地に数多く校舎があり、

王立中央学院だけでなく他の学院も立ち並ぶ学生街を形成している。


王立中央学院の敷地には講義を行う校舎だけでなく、学生寮や食堂、

剣術や魔術の練習場、講堂、図書館など様々な施設が立ち並ぶ。


王都は王国のほぼ中央部にあるが、中央から王国の国境付近までは、

整備された街道を使うとしてもゆうに数日は掛かってしまう。


地方からの学生は王都別邸などがある恵まれた者ばかりではなく、

平民を中心とした数多くの学生が学生寮を利用している。


この学生寮、貴族や準貴族の子女、平民でも特待生なら無料だが、

そうでない者は当然寮費を支払わねばならない。食堂も然り。


平民とは言え裕福な者が大半なので、その費用に困る者は少ない。

貴族や準貴族の子女も同様である。普通の場合であれば。


普通でない場合、すなわち留年した者達にはその特権は存在しない。

教員と親達の冷ややかな視線を浴びながら各種費用の負担が生じる。


◆


学生が一日中を過ごす、という事は。当然浴場も存在している。

学生寮を使用しているのは多い時期でおおよそ全学生の半分程度。

三千名が一気に入浴したりはしないものの、一か所では無理がある。


浴場も一度に百名前後が使用出来る場所が男女別に十二か所ずつ。

実技後に使用する者も多く、学生寮と練習場の間に存在している。

朝夕自主訓練を行う者もおり、湯船には一日中湯が張られている。


一般の公衆浴場と異なる点があり、ここでは湯浴み着を渡されない。

洗濯物は学生服や実技服、学生寮の寝具などで手一杯なのである。


つまり、浴場内では何も纏っていないのだ。男子女子ともに。

それに気づいた学生、特に男子生徒の一部に時々現れるのだが。

女子の入浴を拝もうではないか、という愚挙に至るのである。

更衣室では、見られてもせいぜい下着姿まで。だが浴場ならば。

さらにここは王立中央学院。容姿の整った貴族の女子は多い。


大抵は未遂で他の者に止められる。例えば姉妹や婚約者がいる場合。

誰が赤の他人に身内のそれを見せたいと思うものか。


しかし、その手のしがらみがない者のみ集まってしまう事もあるのだ。

今回の様に。


◆


不心得者対策、という訳でもないが、覗き行為への障壁は高い。

まず男子女子で浴場は分けられており、建物の間には当然壁がある。

そして浴場にある窓は高く、大柄な者が背伸びをしても届かない。

肩車をしてもちょっと届かないだろう。人が入り込める隙間もない。

空気抜きの穴は折れ曲がっているので論外だ。見えるはずもない。


だが不可能とされるものに挑みたくなる勇者達はいるのである。

挑まれた側としてはこんな勇者は不愉快極まるだろうが。


講義の合間を縫って簡単な梯子を作り上げ、普段は分解し隠し持つ。

何としてもやり遂げるその情熱を別方面に向ければいいものを。


時間を見計らい、入浴しているかを確認し、足場をこっそり構築。

足場と一見分からぬよう、布をかぶせて見えなくしておく。


人通りがない事を見定めて、出来るだけ焦らず迅速に行動を起こす。

窓へと手が届き、遂に目標へと到達出来たと安心したのだが。

声はすれども湯気で見えない。さらに角度が悪く視界が届かない。

窓ははめ殺しであり、まさか外す訳にもいかない。さすがにばれる。

ここをどう攻略すべきだろうか。彼らは悩む事となる。


ちなみにこの勇者達はまだ魔術《放たれる視界》を覚えていない。

使えるならこんな苦労もないのだが、軍用魔術ゆえ教わるのは遅い。

こういう連中を考慮しているかどうかは定かではない。


浴場を後にし、あれこれ考えた挙句たどり着いたのは。

浴場ではなく脱衣場を狙えばいいのではないか、という結論だった。

これまで積み上げたものは無駄にはなるが、それは些事に過ぎない。

目的を達成するには、こうした寄り道も仕方なかったのだ。


汗もかいたし、確認の為にも男子の浴場へ向かった勇者達。

脱衣場に入ってすぐさま気づく。ここには窓が一つとしてない。

入口には視線を遮る衝立が存在しているし、覗ける場所などない。

女子の浴場も、その間取りは左右が逆なだけで同じはずである。

これで彼らの計画は断念せざるを得なくなった。


いや、彼らは悔し涙を流しているが未遂で済んで良かったと思う。

実行していれば退学で済まなかったのだし。

「何が勇者なものか」と思う方も大勢おられるでしょうが。

後先考えていないところは正にそうかと。


高校の時の合宿にですね、いたんです、こういうやつが。

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