男装令嬢は、女嫌いの侯爵令息に縋られて守ることになりました!?
「ユアナ嬢、君の隣なら立てるんだ!私と結婚してほしい!」
女嫌いで有名なエイベル侯爵家嫡男、オリバー様は必死な顔でそう叫んだのだった。
身長175cm、軍人の父に鍛えられた適度な筋肉と剣の腕前、そして美麗な男顔。
それもあってドレスが甚く似合わない。
物心ついた時から、守る側になりたかったのもあるし、何よりとても似合っているので男装をするようになった。
人呼んで『男装令嬢』とは、私ユアナ・ダウンズ侯爵令嬢のことである。
私と同じくらい違った意味で有名なのは、オリバー様だった。
私に負けない端正な顔を持つオリバー様は、兎にも角にもおモテになる。
だが、当の本人はどんな女性もお断りで、婚約者もいない、最強の女嫌いであった。
そんなオリバー様と言葉を交わしたのは、夜会でたまたまお助けしたからだった。
おや、エイベル侯爵子息は相変わらず数多の令嬢に囲まれている。
そう思いながら人だかりを見ていたのが、その中心人物の顔が青い気がしたのだった。
「今日もお美しいご令嬢方、ご機嫌麗しゅう」
「まあ、ユアナ様」
「これだけの可愛らしい方に囲まれるなんて、エイベル侯爵子息様が羨ましいですね」
「うふふ、お上手ですこと」
「ぜひとも皆様とお喋りしたいのですが、…実は先程からエイベル侯爵が子息をお探しなのでございます。私めに子息を案内させていただいてもよろしいですかな?」
そう言って、私は真ん中にいた方をお連れして外に出たのだった。
「…父がどこにもいないようだが」
ようやく口を開いたオリバー様は、ひどく小さい声だった。
「ああ、申し訳ございません。口から出任せです」
「…は?」
「貴方の顔色が悪い気がしたので不躾にもお連れ致しました。私の気のせいでしたら余計なことをしましたね」
私は男装に合う礼をすると、オリバー様は眉間に皺を寄せながら溜息を吐いた。
「…いや、香水の匂いに酔っていたんだ。助かった」
「それならようございました」
「貴女は確か…」
「男装令嬢にございます」
「…自分で言うのかね」
「こういうことは堂々としていると、案外煙たがられません」
笑いの一つでも差し上げようとしたけれど、相変わらず苦い顔のままのオリバー様を見てさっさと退散することにした。
「では、お加減良くなりますように」
「え、それだけか…?」
「はい?」
もう一度礼をして去ろうとしたが、あまりに素っ頓狂な声がして、私まで変な声が出た。
それだけって、何が?
「助けたから私に近づきたいとか、婚約者にしろとか、そういう話ではないのか?」
すごく嫌そうな顔をしながら、オリバー様はそのように言われた。
どうやらそんな形でいつもご令嬢方に迫られているらしい。
女嫌いなのにその迫り方は、なんというか、お気の毒だな…。
「残念ながらただの善意にございます。確かに私にも婚約者がおらず父は頭を抱えていますが、それとこれとは別にございます。あんなにたくさんのご令嬢に熱烈アピールをされている方と婚約なんてしたら、私の命がいくつあっても足りないでございます」
大袈裟に両手を広げ、はあーと息を吐いてみると、オリバー様は目を丸くした。
それからやっと眉間の皺が取れて、少し笑った。
「貴女は愉快な方だったのだな」
「それはそうにございます、自ら男装をする頭のおかしい令嬢なのですよ?」
「あはは、自分で言うのか」
あら、笑うと可愛らしい方だったのね。
顔色も戻ったし、大丈夫そうかな。
「それでは失礼致します、よい夜を」
そう言って私はその場を後にしたのだけれど、まさかこれがきっかけになるとは思っていなかった。
後日、王宮で父の部下に混ざって訓練していた時のこと。
「ダウンズ侯爵令嬢!」
振り向くと、オリバー様がまた怖い顔をしてこちらに向かってきていた。
えっ、私何かしたっけ?
「おい、ユアナ。お前、何をしたんだ」
父も同じこと思ったらしい、すぐに睨まれた。
「いえ、まだ何も…」
「ダウンズ侯、少しお借りしてもよろしいかな?」
「ええ…、構いませんが」
「すまないが話があるんだ、来てくれたまえ」
「はあ、かしこまりました」
父と同じ困惑顔で、訓練着のままオリバー様の後をついていった。
「ダウンズ令嬢、いきなりで申し訳ないんだが、私と結婚してくれないか!?」
王宮の人の通りのないところに来るや否や、オリバー様は険しい顔でそう言った。
「はい!?」
「君しかいないんだ、頼むっ!」
「ちょ、頭を上げてください!どうされたんですかっ?」
「夜会の時、君とは普通に喋れたんだ!」
はい…?
「私は女性が大の苦手なんだ」
「存じております…」
「女性はいつも群れて迫ってくる!」
オリバー様は気でもおかしくなったように、鬼気迫って喋り出した。
「私に話をしろと言いながら延々と喋り続けるあの口も、獲物だと錯覚させられるあの眼も、胸を押しつけておけばなんとかなると思っているあの仕草も、何がいいのかわからないあの香水の気持ち悪さも、操を捧げようとしてくるあの魂胆も、怖い!何もかもが怖すぎるっ!!!」
それは、…想像したら怖いな。
「でも、君だけは違った!」
オリバー様は私の顔を必死な形相で見てきた。
あ、初めて目が合った。
「私は、君といる時は息が出来たんだ」
その声があまりにも物悲しくて、私の胸がキュッとなった。
「君と歩いていても蕁麻疹は出なかったし、女性を前にすると恐怖で何も言えなくなる口も動いたし、家に帰ってから初めて怯えていなかったことにも気づいたんだ…!何より君は怖くない!そして、香水の匂いもしないっ!」
相当香水がお嫌いなようだ。
「昔、香水で溢れかえっているところで失神したことがあって、だから、君から香水の匂いがしなかったのは私にとって幸福だったんだっ!」
おお…、そんなに怖い顔をなさらなくても。
「もう君しかいない!君の隣なら立てそうなんだ!」
「えっと」
「君が男装なら、私は女装でもなんでもしてみせる!」
「それは血迷いすぎではっ!?」
「とにかく君なら大丈夫なんだ!人助けと思って、私と結婚してくれないか!?」
オリバー様の真剣な瞳と相まって、私の心が少し揺れた。
人助け…。
「君からしたら迷惑な話だと思うが、私にはもう他に方法が…」
「助けると言うことは、貴方を正々堂々と守っていいということでしょうか?」
「え…?」
「貴方の盾となり剣となり、女性、いや全てのものからお守りしてもよろしいのですか?」
私もオリバー様の熱に当てられて、興奮してきたような気がする。
…私にも、守りたいものができてもいいのだろうか。
「私は守られたいのではなく、守りたいのです。結婚すると言うのなら、私を貴方の騎士にしてくださいませ。私が何時も、女性と接触しないように頑張ってみましょう!」
幼い頃からの『誰かを守りたい』という夢が叶いそうで、気づいたら捲し立てていた。
私は騎士の礼をしたが、オリバー様からの返事がなくて見上げると、黙って瞬きをしていた。
あれま、駄目だったか…。
いや、殿方に守りたいというのは、あまりにも失礼だったか。
「ああ、申し訳ありません。殿方の尊厳を踏み躙りたいのではなく…」
「ダウンズ令嬢は、かっこいいのだな」
「え…」
「情けないが、私には貴女に縋らせてもらうしかないと思っている。貴女さえ良かったら、私のことを守っていただけないだろうか?」
「よろしいのですか…?」
「こちらの頼みなんだ、いいに決まっている。ユアナ嬢、私と結婚していただけないだろうか?」
「喜んでお受け致します、オリバー様」
こうして私とオリバー様は、歪で私たちらしい婚約をすることとなった。
実情を知った父は泡を吹いていたし、オリバー様を狙っていたご令嬢たちはもちろんのこと、私に懸想していた令嬢たちも阿鼻叫喚でしばらくは大変な騒ぎだったが、まあ仕方ないだろう。
最近のオリバー様は、私が女性を適度に相手していると、「君が女性に囲まれると妬けるな…」と言うようになった。
全く、私の守りたい人は可愛らしくて困ってしまうな。
了
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