第2話 『問いの矢は、誰に向けられる?』
昼の補給地は、朝よりもずっと騒がしい。
鍋が打ち合わされ、誰かが笑い、誰かが怒鳴る。命令と冗談が同じ速さで飛び交い、空気は常に揺れていた。
ルカ・ドレンテは配給台の前に立っている。
「はいはい、次どうぞ。あー、待った待った。その皿は欠けてる、こっち使って」
手を伸ばし、自然な動きで器を入れ替える。
「細けえなあ」
「細かくないと、生き残れませんからね。特に今日は」
軽口に、周囲が笑う。
列が前に進む。
「なあルカ、次の行軍って、結構きついんだろ?」
別の兵が身を乗り出す。
「噂話なら、たいてい脚が速すぎる。遅いくらいがちょうどいいですよ」
「それ、信用していいやつか?」
「信用しなくていいです。信じると損します」
また笑いが起きる。
ルカはそれを横目で確認しながら、手を止めない。
誰とでも、うまくやれる。
踏み込みすぎず、拒まず、話を終わらせる。
その背後から、低い声が落ちた。
「……で、実際はどうなんだ」
ルカは振り返る。
バルガスが立っていた。
腕は組まず、視線も逸らさない。聞き流す気がない立ち方。
「実際、って?」
「この先だ」
短い。
説明もない。
ルカは一拍置いた。
その間に、器を一つ、別の兵へ渡す。
「地図の上なら、道はありますよ。ちゃんと」
「地図の話じゃない」
視線が交差する。
周囲には人がいる。
聞こうと思えば、聞こえる距離。
ルカは肩をすくめた。
「いやあ、俺、信用の話になると途端に安売りできなくなるんで」
「計算の話だ」
バルガスは譲らない。
ルカの指が、ポケットの中で動いた。
金属の感触。金貨。
「補給は回ってます。帳も合ってる。人数も――」
そこまで言って、止まる。
何かを付け足すつもりだった。
言葉は、あったはずだ。
ルカは視線を外し、配給台の端を整え直す。
「……まあ、今のところは」
場に、わずかな間が落ちる。
「今日はここまでだ!」
別の声が割り込み、列が崩れる。
人が散り、話題が流れる。
バルガスは何も言わなかった。
ただ一度、ルカの手元を見てから、背を向ける。
「持ち場に戻る」
「はいはい。無理しないでくださいよ」
冗談で返す。
返事はない。
ルカは配給台を片付け、布を畳む。
金貨を取り出し、指先で軽く回す。
音は短い。
途中で止める。
欠けた縁を、親指でなぞる。
遠くで号令がかかり、次の準備が始まる。
補給地は、何事もなかったように動き続けていた。
ルカは金貨をポケットに戻し、人の流れに紛れて歩き出す。
振り返らない。
答えも、置いたまま。
問いだけが、そこに残っていた。




