白昼夢
馬車でのリリアの令嬢らしからぬ異様な言動が頭から離れず、アルベルトは浅い眠りから目を覚ました。
薄暗い室内でまだ頭がぼんやりと重い。夢と現実の境があいまいに揺れていた。
重たい頭を抱え廊下を歩く。
廊下の先にリリアの姿が見えた。
普段通り落ち着いた足取りに昨日の異様な様子は見当たらない。
アルベルトが考え込んでいると、リリアが駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「いかがなさいましたか、旦那様?」
心配そうに見上げてくるその顔に記憶が揺らぐ。
「・・・・いや、なんでもない」
アルベルトは頭を振って短く答えると、リリアと別れて書斎へ向かった。
昼過ぎ。
応接間の前を通りかかったアルベルトは中から聞こえる明るい話声に足を止めた。
扉の隙間からそっと中を覗くと、柔らかな日差しを受けた部屋の奥でリリアが侍女に教わりながら刺繡をしていた。
繊細な手つきで針を運ぶ傍ら楽しげに談笑する姿。その穏やかさにアルベルトの心が軽くなる。
あれは馬車に揺られて微睡み見た夢だったのかもしれない。我ながら随分と突飛な夢を見たものだと苦笑を漏らし、アルベルトはその場を後にした。
夕食の時刻。
今夜もアルベルトは時間通りに現れ、リリアの向かいの席に腰を下ろした。最近では使用人たちの間に張り合いが生まれているのか、白いテーブルクロスの上には花が飾られ食卓は以前よりも華やかさを増していた。
相変わらず二人の間に会話はないが、料理に舌鼓を打つリリアの顔を眺めてはアルベルトも微かに頬を緩ませる。静かな食卓に穏やかで満ち足りた時間が流れていた。
不意にリリアの傍を通るメイドの持つ銀盆が傾き、載っていた陶器の器が滑り落ちた。空中に放り出された器が傾き中身が零れる。
次の瞬間、リリアは視線を送ることなく流れるような動作で器をその手で受け止めた。宙に漂う雫を掬い取るように持ち上げ元の位置に戻す。メイドは器が落ちかけていたことにすら気づかずに給仕を続け、リリアも何事もなかったように食事を続けていた。
その様子をアルベルトは奇術でも見ていたかのような気分で見ていた。
やはりあの時見たのは夢などではなかった。
ワイングラスを取り上げ一気に飲み干す。通る液体が喉を焦がした。




