操り手の憂鬱
本編より少し前の話。
これがなければアルベルトはリリアとは出会わず、ずっと孤独もしくはどこかで暗殺されていたのかも。
少しBLに捉えられる描写があるので苦手な方はご注意ください。
レオン・カスパールはうんざりしていた。
どいつもこいつも甘い蜜を吸うことばかりに執心で国のことなどこれっぽっちも考えていない。
目の前の男は「法案が定まれば国が豊かになる」と大仰に語っているが、その実情は裏で自分の懐が潤う仕組みであることは火を見るよりも明らかだった。
少し考えればわかるのになぜそれさえ見抜けないのか。
手を叩いて賛同する参加者にレオンは貼り付けた笑みの隙間から侮蔑の視線を向けた。
退屈かつ無意味な会議を終えて退出しようとしたその時、怒気を含んだ低い声が耳に飛び込んできた。野次馬心を刺激され、柱の陰からそっと覗いてみる。
中年の男と若い男が言い争っていた。
どうやら中年の男が押し通そうとしている方策について若い男が考え直すように説得しているらしい。
地位を乱用した理不尽な案など珍しくもないが、それを正面から指摘するとは。
不器用な男に憐れみを覚えた。
「くどいと言っている!!」
中年の男がもう一人を怒鳴りつけた。びりびりと空気が震えるほどの激昂を受けてなお、男は前を見据え食い下がる。
「しかし、貴公の案は理に適わぬ——」
「若輩者風情に何がわかる!」
怒声と共に振り上げられた杖が男の頬を叩いた。
踵を返し去っていく後姿を睨み付ける瞳にレオンは身を焼かれる思いがした。
このまま腐らせるには惜しい。
レオンはすぐさま男に近づく策を巡らせ始めた。
レオンは今まで持ち前の洞察力と人好きのする笑顔であらゆる人の懐に難なく入り込んできた。
しかし、男はレオンがにこやかに近づけば近づくほど露骨に距離を取る。終いには視界に入っただけで顔を引き攣らせるようになる始末。
これはこれで・・・・・・。
首をもたげる危うい嗜好を頭を振って追い出し、それでも接触を試みる。
自らの有用さを示し、好意を示し。
好意はまともに受け取られなかったが、志は同じ方を向いていると理解は得られたらしい。顔には不服の二文字が貼り付きつつも頼られることが増えた。
当初の目的は果たしたはず。しかしレオンは満たされなかった。この感情の正体に思い至るまでしばらく時間がかかった。
友人として認められたい。あわよくば万年眉間に皺の寄ったその顔に笑みが浮かぶのを見てみたい。
その後もレオンはことある毎に気さくに話しかけては煙たがられていた。
リリアの問いかけに答えるアルベルト。
その穏やかな表情を眺めていたレオンは物思いから引き戻された。
リリアをアルベルトに近づけたのは他ならぬ自分であり、賭けには勝ったと言っても過言ではない。しかし、何か悔しい思いが胸を掠める。
レオンの視線に気づいたアルベルトが妻に向けた顔の余韻を残してこちらを向いた。
複雑な思いに顔を顰めるレオンに驚いた様子で言う。
「お前もそんな顔をするのだな」
「君がどう思っているかは知らないが、私も人間なのでな」
アルベルトはわずかに頬を緩め、ふっと息を吐くように呟いた。
「私はお前が苦手だった」
「知っている。君と私とでは考え方に違いがありすぎる。嚙み合わないのも仕方ないだろう」
「それもあるが——」
遠くを見つめ言葉を切る。
「あの頃の私は過去に囚われ、人に心を許してはならないと強く戒めていた」
紡がれる言葉の先が気になり、レオンの顔からはいつもの余裕の笑みが消えていた。
「お前から話しかけられる度、戸惑う反面、励みに感じていたなどと認めるわけにはいかなかった・・・・」
初めて聞く不器用な男の本心。
レオンの口角が自然と持ち上がる。
今しばらくはこの男の柔らかな顔が続くことと、背後で殺気を迸らせる女をからかうことに尽力すると決めた。




