影と舞踏
アルベルトのもとに舞踏会の招待状が届いた。社交の場にはさほど興味はないが招待状の末尾に記された一文に目を留めた。アルベルトも名を知る音楽家が演奏を行うという。
応接間で侍女とお茶をしていたリリアにアルベルトは招待状を持って歩み寄る。
「近く、舞踏会が催されるそうだ。もし・・・・良ければ・・・・一緒にどうだ?」
一瞬、リリアの顔がぱっと綻んだ。だが次第に曇りが差すように表情が沈んでいく。
「アルベルト様からのお誘いとあれば是非ともご一緒したいところなのですが・・・・私、ダンスは苦手で・・・・・・」
思いがけない言葉に、アルベルトは思わず目を見開いた。
「リリアが、か?」
「ええ・・・・・リズムに合わせて動くことがうまくできず・・・・・私が相手ではアルベルト様に恥をかかせてしまいます」
「私は恥などとは思わんが・・・・・・」
しかしリリアが嫌だと言うなら無理に誘うつもりはない。
「・・・・・そうか。ならば致し方ないな」
「あ、あの、旦那様」
話を打ち切ろうとしたアルベルトに侍女がおずおずと口を開いた。
「差し出がましいようですが、音楽室で一度踊ってみてはいかがでしょうか」
「音楽でしたら侍女にピアノの心得がある者がおります」
侍女の提案に執事が言い添える。
「リリアはどうだ?」
アルベルトが目を向けるとリリアは少し恥ずかしそうに微笑みつつも頷いた。
早速その日の午後、音楽室で二人はダンスの練習を試みることにした。
呼ばれた侍女が古いグランドピアノの前に座り、優雅なワルツを弾き始める。
アルベルトはリリアと向かい合うと、手を取り互いの腕を重ねた。ぐっと迫る距離にリリアが小さく息を呑む。その反応にアルベルトも少し高鳴る鼓動を意識した。
「いくぞ」
低く呼びかけた声にリリアが頷くの確認し、音に合わせて足を踏み出す。最初こそ同時に動いていたリリアだが段々とテンポがずれていく。持ち前の反射神経でアルベルトの足を踏むようなことにはならないがステップと呼ぶにはぎこちない足運びだった。
何度か仕切りなおして踊ろうと試みるが、やはりリリアのタイミングがずれてしまう。
「・・・・・アルベルト様、私はやはり・・・・・」
リリアの言葉にアルベルトは足を止めた。同時にリリアの足も止まる。
「!」
何かを閃いたアルベルトが合図なく足を踏み出した。自然にリリアも同時に動く。
「リリア、無理にリズムに乗ろうとしなくていい。私の動きに合わせて動いてみてくれないか?」
「アルベルト様の動きに、ですか?」
再びアルベルトが曲に合わせて動き出す。リリアも遅れることなく動き出した。タイミングを間違えたアルベルトのステップまで模倣する正確さに苦笑が漏れたが、先ほどまでのぎこちなさはなりを潜めダンスをしていた。
流れるピアノに合わせて拍を取り、楽しげに踊るアルベルト。その顔を見上げ幸せそうに寄り添うリリア。
ダンスはいつまでも終わらなかった。




