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日影のリリア  作者: 篠原
本編
24/30

賢者たちの贈り物

柔らかな春の光が射し込む昼下がり。

扉を叩く軽い音に答えるとリリアが扉を開け書斎に入ってきた。

「アルベルト様。少しよろしいでしょうか」

「構わん。どうした?」

手にしていた書類を置き、アルベルトが顔を上げるとリリアは両手で小さなケースを差し出した。

「ささやかですが、日々のお礼を」

「礼など必要ない」

そう言いつつも、アルベルトは箱を受け取り興味深そうに眺めた。


蓋には透き通ったガラスがはめ込まれ、内側が見える造りになっている。黒檀の深い色合いに控えめながら上品な銀色の装飾が施されていた。

「良いものだな。ありがとう」

感心するアルベルトにリリアははにかむ。

「失礼いたします」

彼女はそれだけ告げ、静かに部屋を辞した。


残されたアルベルトはしばらくケースを眺めていたが、やがて眉を寄せた。宝飾品の類は持たず、ペンを収めるには小さい。

「さて、何を入れたものか・・・・・」

机に置いて考えあぐねた後、何気なく引き出しを開けると一本のブレスレットが視界に入った。

かつて孤児院で子供たちから贈られたもの。不揃いな編み目には幼い真心が詰まっている。

アルベルトはそっと取り上げ、ケースの中へと入れてみた。


ぴたりと収まる。


「・・・・・・なるほど」

思わず口元が緩む。大切な思い出を納めるにはこれ以上ないほどふさわしい。

アルベルトは蓋を閉じ、装飾を指で撫でるとケースを机の上に飾った。



数日後。

アルベルトは机の前で腕を組み思案に耽っていた。飾られたケースとブレスレットが目に入り、ふと頬が緩む。

これに見合う物をリリアに贈りたい。


宝飾や新しいドレス——似合うだろうとは思うがそれを心から喜ぶ彼女の姿はうまく思い描けなかった。

流行りの小説——図書室で薦めの本について語らう時間を一つ潰すのは惜しい。

甘味——普段からお茶や食後によく食べており新鮮味に欠ける。何より、食べるその表情を目の前で見たい思いが勝る。


他にも考えるほどリリアと過ごす時間を愛おしく思っていることを自覚させられる。

「・・・・・・難しいな」

そんな相手への贈り物も選べない自分に苦笑の混じったため息が漏れた。


その夜。

リリアの部屋に見慣れぬ白い花が飾られていた。添えられた小さなカードには丁寧な筆致でただ一言。

——日頃の礼を込めて。

とだけ綴られていた。


スノーフレークの花。

贈るにあたって生真面目な彼が大いに悩んだだろうことは想像に難くない。その顔を想像してリリアは熱のこもったため息をこぼした。

俯きながらも凛と咲く白が、月光に照らされていた。

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