光の間に立つ者
夜の王都は深い眠りに沈んでいた。
石畳の上には血と冷気が交じり合い、月光だけがその惨状を照らしている。
アルベルトは目の前の光景が理解できず、ただ立ち尽くしていた。
「・・・・・・・お前は、いったい——」
声は自分でも驚くほど掠れていた。
リリアは困り顔で微笑むばかりで答えず、膝をつき死体を探る。
やがて一通の封書を取り出し、立ち上がってアルベルトに差し出した。
そこには襲撃の指示とアルベルトの名が記されていた。言葉を失うアルベルトにリリアはもう一通封書を手渡した。
「夜会で死んだ男が持っていたものです」
封には同じ印が押されている。
「・・・・・・その男を殺したのもお前か」
「はい」
平坦な声で答えつつ、リリアは死体の肩を押して建物の影へと転がした。
ドレスの裾を整える彼女をアルベルトはただ見つめる。
「お前は何者だ?」
リリアはゆっくりと首を振った。
「今はまだ・・・・言えません」
胸元に寄せた手が強く握りこまれる。
「けれど、信じてください。私は・・・・あなたを守るために遣わされたのです」
リリアは顔を上げアルベルトの目を真っ直ぐ見つめ返した。その瞳は静かで、間違いなく見慣れ始めたリリアの顔だった。
リリアは周囲を見回し、微かな気配を探るように目を細めた。
「お疲れでしょう。屋敷にお戻りください」
馬車の扉を開きアルベルトに乗るよう促す。
アルベルトは無言で従った。乗り込んだ後も馬車の外に立つリリアへと目を向ける。
「お前はどうする」
「私は後から向かいます」
リリアはばつの悪そうな表情で答えた。アルベルトは小さく息を吐く。
「一緒に乗れ」
リリアの瞳がわずかに見開かれる。
「・・・・・・え?」
「私を守るというのなら共にいる方が好都合だろう」
その言葉にリリアは安堵の色を浮かべた。
「はい、旦那様」
彼女は静かに馬車に乗り込み、向かいの席に腰を下ろした。
二人を乗せた馬車は闇を抜けて走り出した。




