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日影のリリア  作者: 篠原
本編
12/30

自らに落ちる影

王宮からの帰路、馬車の中でアルベルトは遠い記憶を思い出していた。


六つの時母が亡くなった。

優しく穏やかな人だった。いつも彼の髪を撫で、夜には本を読み聞かせてくれた。

その温もりがある日突然失われた。


母の死を境に父は彼を遠ざけるようになった。会話を避け、目も合わせない。次第に家を空けることが多くなった。屋敷の中には埋めようのない冷たさが満ちていった。

心の拠り所を失った少年は、心を閉ざすことで自分を守る術を覚えた。


——誰かを大切にすれば、その分だけ喪失の痛みが増す。

そう信じていた。


年月が過ぎ、父が病床に伏した。

今際の時、父は掠れる声で真実を告げた。

「・・・・・・・・お前にはすまないことをしたと思っている」

母の死は病ではなかった。父の立場を悪用したい者たちとの攻防の末、毒を盛られたのだ。

「お前を・・・・巻き込みたくなかった。だから、距離を置いた。・・・・・・それが、お前を守る・・・・・・・唯一の方法・・・だと・・・・・」

父の指が力を失い、沈黙が訪れた。

アルベルトは何も言えなかった。父を憎めたらどれほど良かったか。

長い孤独が父の愛情だったなど・・・・・・・。



夜更け、屋敷の扉が静かに開く。

玄関に控えていた執事が頭を下げた。

「おかえりなさいませ、旦那様」

アルベルトは外套を外しながら問いかける。

「彼女は?」

「奥様はいつも通り屋敷で過ごされ、夕食後にお部屋にお戻りになられました。特にお変わりはございません」

その言葉に小さく頷く。

「そうか・・・・・・・」

アルベルトの口から無意識に安堵のため息が漏れた。



寝室に入りベッドに身を横たえる。

長い一日だった。


眠りに落ちかけたその時——

何かの気配に目が覚める。予感めいたものを感じてベッドから身を起こし、窓辺へ歩み寄る。

月明かりの中、庭の方で人影が動いた。長い裾がはためいているように見える。


——あれは・・・・・リリアか?


人影は門の方へと向かい、闇に溶けるように遠ざかっていく。


どこへ行くのか。

なぜ、この時間に。

アルベルトは窓に手をかけたまま、しばし動けずにいた。

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