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10/10

10元ヘイト系ヒロインは普通の恋愛がしたい

 女神は本当に私の祝福を弱めてくれたらしい。あんなに私に執心していたフランツたちが、他の生徒と同じように接してくれるようになったのだ。光属性持ちなので彼らと行動しなければいけない時はあるけれど、婚約者や恋人と間違えてしまいそうな行動は消えている。


 それでいい。特にフランツはアンネマリーを大切にしなければいけないのだから。


 私は祝福事件で親しくなった令嬢たちと交流を続けていた。遠巻きにされていた影響はまだ残っているが、面白おかしく噂を立てられることはなくなっている。


 余談だが、私とフランツとアンネマリーの三角関係だと噂をしていた生徒は、私が制裁を与える前に大人しくなった。弟の情報網によると、逆らえない立場の人々から諌められたそうだ。


 きっと詳細を知らない方がいいだろう。平民である私には、きっと刺激が強い裏事情とかあるに違いない。


 女神の愛がどうなったのかは知らないが、ここ数日は空に異変が起きていた。曇ったかと思えば急に晴れたり、雷が落ちたり星が降り注いだりと忙しい。最初はついに魔王が復活したのかと騒がれていた。ところが異変は始まりと同じく急に終わった。


 魔王が復活しようとしたところに女神が突撃して、なんやかんやあったのだろうか。もしそうなら女神にはぜひ魔王を抑えておいてもらいたい。私は最前線に立って世界のために攻略対象と愛の力を発揮するなんて辱めを受けたくないのだ。


 夢の中に黒っぽい人物が出てきて私に文句を言ってきたような気がするけど、きっと気のせいだ。私のせいで逃げ回る羽目になったとか、ろくでもない女を派遣するなとか、やけに具体的だったけれど。


 まあ、とりあえず、頑張って女神様。私と世界のために。


 私は生徒会室が見える中庭で、調理実習で作ったクッキーを持って人を探していた。


 調理実習とか、実にゆるふわ乙女ゲームらしい授業だと思う。私はともかく貴族女性にクッキーの作り方を教えて実践させて、将来何の役に立つのだろうか。


「おかしいな……弟情報だと、この辺にいるはずなんだけど」


 私が探しているのはアレスだ。彼は祝福の影響を受けていなかったせいか、たびたび私を匿ってくれた。いつかお礼をしないといけないと思っていたのに、ずっと先延ばしになっていた。


「生徒会長の王太子が生徒会室にいる時は、廊下か中庭にいるって言ってたんだけどな。今日は生徒会の活動日なのに……」


 まあ人間だし。いつも同じ行動パターンとは限らない。


 諦めかけたとき、中庭にアレスが来た。油断なく中庭を見回したのは、学園内を見回っている最中だからだろう。すぐに私を見つけて、まっすぐ歩いてきた。


「ここで何を?」

「お礼を言いたい人を探してました」


 私がクッキーの包みを差し出すと、アレスは意外そうな顔になった。


「……俺に?」

「私が厄介なことに巻き込まれているとき、できる範囲で助けてくれたので。仕事の関係で食べちゃいけないなら、遠慮なく捨ててください」

「いや、そこまでは……毒味の魔術があるから問題ない」


 護衛が差し入れで体調不良なんて洒落にならないから。私にとってお礼を言えるかどうかが大切だから、クッキーを食べてくれるかは問題なかった。


 ありがとうと言って受け取ったアレスの微笑みに、ちょっと心が飛びそうになったのは仕方ない。もしこの光景を女神が見ていたら、余計なことをしただろう。魔王に押し付けてよかった。


「どうして助けてくれたんですか?」


 私は一番気になっていたことを聞いた。


「彼らから私を隠したのを知られたら、面倒なことになっていたんじゃ……」

「本気で迷惑そうにしていたのを見たからね。学園内で揉め事が起きるのを事前に防ぐのも、仕事の一つだ」


 フランツたちの様子がおかしいのは、アレスも気がついていたようだった。


 原因が光属性持ちの私かもしれないと推測していたが、決定的な証拠がないため手出しができなかった。もし私が欲を出してフランツたちと逆ハーレムを築いていたら、何らかの処置をされていた可能性がある。そこまで聞いて、私はぞっとした。


 フランツたちを誘惑した悪魔だなんてレッテルをはられたら、何をされていたのか分からない。神殿に閉じ込められて必要な時だけ利用される未来なら、まだ温情がある方だ。


 まともな感性の持ち主で良かった。いや、乙女ゲームと同じ展開は嫌だと回避した自分を褒めるべきだろうか。


 血の気が引いた私に、アレスは笑って心配しなくてもいいと言った。


「女神の祝福が強すぎたことは、関係者全員に知らされたよ。よほど目立つことをしなければ、君が敵視されることはないんじゃないか?」


 つまり婚約者がいる男性に迫ったり、貴族の決まり事を無視した行動のことだ。


 アレスに婚約者や恋人がいないことは、弟の調査で判明している。彼にクッキーを渡すだけで非難されることはない。


 今更なんだけど、うちの弟の情報網はおかしいのではないだろうか。どうしてフランツの護衛の個人情報まで掌握できるのだろう。将来はその調査能力を活かしてスパイとして暗躍するのではないだろうか。


「祝福は弱くなったから、もう目立たないと思います」

「どうだろう。君は貴重な光属性持ちだから」

「そう言われても……」

「君の将来にも注目が集まってるぞ。神殿をはじめ、魔術師団や魔術研究所も狙っている」

「たとえばですけど、市井でパン屋になるとか」

「無理だな」


 はっきりとアレスが言う。


「言っただろう。貴重だと。光の魔術を活かして王子妃の護衛につく道もあるが……」


 ふと、私の頭に閃いたことがあった。


 アレスはフランツの護衛だ。もしくは王族の護衛をしている。将来、私がアンネマリーの近くにいる職についたなら、アレスと会える機会が増えるのではなかろうか。


「護衛につくには、何が必要ですか? 傷を癒したり浄化するのは習いました」

「最低でも攻撃手段をいくつか。自分の身を守るだけじゃなくて、護衛対象と敵の間に割り込める度胸……って、本当に興味が?」

「だって、普通の生活は無理そうですし。どうせなら自分の力を活かしたいなって」


 職権濫用してアレスとお近づきになりたいと思ったのは、伏せておくべきだろう。


「それなら、周囲に相談してみるといい。光属性の魔術と併せて、どんな教育を受ければいいのか、教師たちは知っている。学年が上がれば選択授業が増えるのは知っているよな?」


 アレスは簡単に助言をして自分の仕事へ戻っていった。


「とりあえず勉強か……」


 思い通りの進路へ進むには、やはり成績が良くないと意見を聞いてもらえない。特に神殿の誘いを断るために、私の能力は護衛に最適だと示す必要がある。


 もし私の祝福が強いままだったら。女神の提案通りに魔王を倒すための手段として、アレスを選んでいたなら。私は借り物の力で、他人を思い通りに操っていたことになる。それは私が嫌ったヒロインに都合がいい物語そのものだ。


 もしかしたら私の憧れだけで終わるかもしれない。でも全てが思い通りに進むより、私らしく生きられる気がした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

このお話は軽い気持ちで書きました。皆様も軽い気持ちで下の星を塗りつぶしてください。

少しでも笑っていただけると幸いです。


2025/09

佐倉百

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