第4話:消えた午後と赤いカーディガン
放課後の光は、校舎の窓を透かして教室に差し込んでいた。
蓮川一華は鞄を肩にかけながら、教室の端に落ちている紙くずに目を止めた。微かな風で揺れる紙片。まるで、失われた欠片がそこに残っているかのようだった。
「今日も……欠片が起きてるのかな」
図書室で先輩と過ごした数回の午後を思い出す。欠片を拾い戻すときの冷たさ、痛み、そして静かな安堵。あの感覚が、今も胸に残っていた。
「一華、ちょっと来て」
廊下で声をかけたのは、親友の桜井紬。彼女の表情は曇っていた。
「さっきの放課後、図書室の前で誰か泣いてたの見なかった?」
一華は首を振る。
「ううん、誰もいなかったけど……」
紬の眉がひそめられる。
「おかしいんだよね、放課後になると、消えた時間がある子がいるみたいで……私もそのうちの一人かもしれない」
一華の胸がざわりとした。消えた欠片が、町の人々に少しずつ広がっている――。
その日の午後、一華は図書室で赤いカーディガンの先輩と向き合った。
「町全体に影響が出てるみたいです……消えた時間が、誰かの心の奥で色を薄くしている」
先輩は静かに頷く。
「そう。欠片は小さな時間かもしれない。でも積み重なると、町全体の記憶や感情を蝕むことになる」
「それって……どうすればいいんですか?」
「拾うしかない。でも、全部を拾うことはできない。誰かを助けるたびに、他の欠片は残されたまま」
一華は思わず目を伏せる。助けたい。でも、助けられない人もいる――。その現実の重さに胸が痛む。
「今日は、特別な欠片を拾う」
先輩の声は少しだけ硬かった。赤いカーディガンの布が肩で揺れる。
「町の過去に結びついた欠片。忘れられた悲しみや、伝えられなかった言葉。拾うときには覚悟がいる」
一華は息を整え、目を閉じた。
心の奥でかすかなざわめきが揺れる。小さな声、涙、そして怒り――欠片は複雑に絡み合っていた。
「……これが、町の欠片の一つ……」
指先で残響に触れる。冷たい痛みが胸を突き、手のひらがじんわり温かくなる。欠片が戻る瞬間、消えた時間の重みとともに、少女や少年の心が少しだけ軽くなるのを感じた。
「戻った……」
先輩の手がそっと一華の肩に触れる。
「上手くできたね。でも、覚えておいて。欠片を戻すことは、必ずしも喜びだけじゃない。痛みも一緒に戻る。でも、それを受け入れることが、人を救う第一歩になる」
窓の外で夕日が傾き、校舎の影が長く伸びる。
赤いカーディガンが放課後の光に揺れ、二人の影も一緒に伸びた。
一華は深く息をつき、静かに呟いた。
「欠片を拾うのは……怖い。でも、やらないよりはいい」
先輩は小さく頷き、微笑む。
「そう、怖いことを怖がりながらも進む。それが、この町を守る力になる」
放課後の光の中で、赤いカーディガンは揺れ続けた。
欠片を拾う午後は、まだ終わらない――町全体の秘密が少しずつ明らかになるまで。




