アヴィリルの大冒険
俺は小さな身体を走らせた。
二十階層に出て、その小さな身体で全力疾走し、前方で走る動物型の魔物に追いつこうかと言う勢いで走っていた。
しかし、勢いだけで全く追いつかない。むしろ距離は離されていくばかりだ。
「…圧倒的に遅い!」
そりゃそうだ。俺はいつもより小さいし、移動に特化しているわけでもない。
いや、ちゃんと考えれば分かる事だけども。
テンションが上がって忘れてた。
しかし、このペースで進むと出口に着く頃にはもう夜だな。
何かいい方法は…って、あったな。
【迷宮内転移】なんて言う便利なものが
自分の足を手に入れたからか、歩いていくことばかり考えていた。
「よし。転移しよう。【迷宮支配・迷宮内転移】第一階層まで」
発動した直後、一瞬俺の体が浮き上がり、次の瞬間には一階層に辿り着いていた。
あとは出口まで歩いて行こう。
俺は数組の冒険者とすれ違い隠れながらテクテクと歩いて目的地を目指した。
数十分後、ようやくダンジョンの出口へと辿り着いた。
「はぁ、やっと着いた。一階層を歩くだけでこんなにかかるとは」
なんでこんなに広いんだ。冒険者とすれ違うたびにひやひやしたぞ。
あ。て言うか、この先もっと冒険者だらけじゃね?
…そうじゃん。どうしよう。
まさかこんなところで大冒険が終わるとは
助けて、演算機さん
『オボロを呼び出せば解決します。オボロのスキル【完全隠形】によりマスターを隠し外に出ることが可能になります』
呼ぶと言っても近くにいないし。
…いや、確かあいつの影ってダンジョン内の主要人物と繋がってるって話だったな。
だからルシフェルやミカエルにパシリにされるってオボロが嘆いていた気がする。
「…オボロ」
「はっ!ここにおります。アヴィリル様」
まさか本当に来るとは。
「俺、今から外に出るから【完全隠形】で隠してくれ。あと、俺の護衛も頼む」
たとえこの身体でやられたとしても元のダンジョン・コアに戻るだけで死ぬことはないだろうけどな。
でも、せっかく作ったこの身体を壊したくないし。
「承知しました」
そういいオボロは俺に【完全隠形】をかけるとすぐ影に潜っていった。
流石、多忙を極める男。仕事が早い。
「よし、外に出るぞ」
この身体なら弾かれることはないはず。
俺はまっすぐダンジョンの出口に近づき、そして、抜けた。
「おぉ!成功だ。外に出れたぞ!」
俺の顔文字が忙しなく動いている。表情差分はその都度、演算機が作ってくれているので場違いな顔になる事もない。
「おぉ。空だ。青いなぁ高いなぁ」
でもダンジョン内とあんまり変わらないなぁ。
くそ、本物の空を見たと言うのに。これしか感想が出ない。
語彙力がない。
「それにしても人が多いな。これ全部、冒険者なのか?」
ダンジョン入口の横には小さな建物があり、その建物を冒険者達が出入りしていた。
おそらくこの建物が冒険者ギルドと言うやつだろう。
…ちょっと入ってみるか。
ダンジョンのどんな内容が分かっているのかも気になるし。
大丈夫、ばれやしない。オボロがついているからな。多分
確か一番深くて十三階層まで辿り着いていたはずだ。
カサカサッ。カサカサッ。
俺はまるでゴキブリの如く冒険者ギルドへと潜入した。
「お前たちのパーティは何階層まで進んだんだ?」「俺たちは十一階層だ」
「あの十階層のゴーレム、なんか魔物っぽくないんだよな」「わかる。俺昔、学術都市で人工ゴーレム見たんだけど、それっぽいんだよな」
「あのゴーレム確かに厄介だけどあの騎士団が負けるとは思えないぞ」「十一階層からいきなり洞窟じゃなくて草原だ。ほぼ確実にダンジョンマスターが居るんだろ」
潜入すると様々な会話が聞こえてきた。
大体が階層の情報、十階層のボスのアインスのことなんかだ。
そんな中で一つ気になる話題が聞こえてきた。掲示板付近に群がる一行からだ。
ひとりの男が掲示板に貼られた掲示物を見ている。
「この[弔いの骸骨]ってやつほんとにいるのか。報告したのは新人らしいじゃないか」
「本当にな。ギルドはちゃんと調査したのか?新人の言葉を鵜呑みにしたんじゃないだろうな」
「まぁ特異個体だからな。いないと判断するより警戒を促したほうがマシだろ」
特異個体?普通とは違うってことだよな。
それに[弔いの骸骨]は…多分、ネクロだよな。俺が最初見つけた時、やられたスケルトンを弔ってたし。
あの逃げ出した冒険者達が報告したのか。
戻ったらネクロに言っとこう。
…そういえば俺も全然ネクロ見てないな。
見つからなかったらルシフェルにでも伝えよう。
その後しばらくギルド内を見学し、外へと出た。
「中々面白い情報も手に入ったし、そろそろ森に入ってみよう」
今日の目的は冒険…じゃないこの身体のテストだ。
とりあえず戦闘能力もしくは逃げ足を確かめよう。
流石に入ってすぐは魔物も居ないだろうけど、ちょっと奥に行けば居るはずだ。
出来れば最初の敵は弱いのがいいな。
「よし行こう」
大丈夫だ。いざとなればオボロがいる。気楽に行こう。
こうして俺は森へと進んだ。
四つ足のおかげで森の中でもスムーズに歩くことができる。
森を進む道中、動物に転がされたり、鳥に突かれたりしたが、何とか奥にまで辿り着いた。
「ようやくか。魔物より先に動物にやられるところだった」
さて、魔物を探そう。
と行動しようとした直後、すぐ横の茂みが揺れる。
「な、なんだ!魔物か⁉︎」
警戒しながら茂みを見ていると中から何かが飛び出してきた。
魔物だ。しかもファンタジーでは定番のスライム。
「スライムか。初めての戦闘にはちょうどいい相手だな」
最近の漫画やアニメに出てくるスライムは何かと強いが、所詮は創作物だ。
幸いこの世界のスライムは弱い。俺のダンジョンにも居るからな。そこは知っている。
俺は格納された剣と盾を出し、構える。
「こい!」
俺の声と同時にスライムが突撃してくる。
「な!早いっ!(; ・`д・´)」
スライムの突撃は思った以上に早かったがなんとか盾でふげた。
『…』
「スライムだからと言って油断は出来ないと言うことか」
もしかしたらコイツは冒険者ギルドでも言っていた特異個体なのかもしれない。
ネクロと同じと考えるとユニークスキルも持っているかも。
「はっ!」
俺は剣を振りスライムへと攻撃を行った。
しかし、掠るのみで致命傷には至らない。
「避けたか…やるな」
『…』
次の瞬間、スライムが身をかがめまたもや突撃の姿勢をとった。
「くるか」
突撃がくる。俺は突撃のルートに合わせ、剣を突き出すように置く。
「これで終わりだ!」
剣はスライムに深々と突き刺さり、核を貫いた。
「ふぅ。初の戦闘がまさか特異個体とはな。しかし勝った」
この身体の性能も確認できたな。
な!演算機さん
『はい。マスターは戦闘能力は低位種族のスライムと同等であり、戦闘センスが皆無であることが確認できました』
な、何を言うんだ演算機!
あれは特異個体ってやつだよ。普通のより強いんだよ。
『あのスライムは通常個体です』
なんだと(;゜Д゜)
まさかあの異様に早い動きは!
『マスターの動体視力が低いせいです』
俺の剣を避けたあの動きは
『マスターの剣さばきが素人以下だからです』
そんな…
…なんということだ。最高位種族でありながら戦闘能力はスライムと同等だと…
今日はもう帰ろう。
その後は特に何も無く、俺はまっすぐダンジョンへと、拠点へと戻った。
「ただいま」
「あ、主様!おかえりなさいませ。無事戻られたのですね」
ルシフェルが笑顔で迎えてくれた。
その笑顔が眩しい。
「オボロも主様の護衛ご苦労」
その言葉と同時に俺の影からオボロが出てきた。
そう言えばいたな。すまん忘れてた。
「主様、そのお身体の性能はいかほどでしたか?」
「うん、まぁ。この身体自体に問題はなかった。うまくいったよ」
問題はそれを操る俺自身だ。
だが、さっきは落ち込んでしまったが、俺は諦めない。
あんなに戦闘が出来なかったのは人型じゃなかった事も大きいと思う。
絶対に人型の身体を作ってスライムとの戦闘のリベンジをしてやる。
まってろ!スライム!
こうして俺の身体づくりへの意欲はさらに高まった。




