不思議な二人組
ホルウルカゼ村。
ホーセロルス大山脈に鉱脈が、更には近くにダンジョンが発見されたことにより、鉱員や冒険者、そして彼らを相手にする商人が多く集まりだした。結果、この村は最早村と呼べない規模に成長していた。
そんな村の中を奇妙な二人組が歩いていた。
一人は普通の衣服を纏う金髪の青年。だが纏う衣服に反して、傷一つない白い肌、何処か気品のある歩き姿をしている。
もう一人は青年と似た様な服装の初老の紳士だ。
しかし青年と同じく、違和感を感じさせる。
綺麗な銀髪を後ろで束ね、白い手袋をし、背筋を張り綺麗な姿勢で青年の付き人の様に半歩後ろを歩いている。
そんな二人の歩みは冒険者ギルドへと続いていた。
村の活気と共に依頼が増え、冒険者が多く集まる冒険者ギルドに二人組が入ってきた。
二人が入ると同時、冒険者達の視線は二人に行き、一瞬の静寂が生じる。
だが金髪の青年と銀髪の紳士は気にする事なく歩みを進め、受付の前で止まった。
「貴様、冒険者になるにはどうすればいい?」
金髪の青年が手をつき受付嬢に迫る。
「ミカ様。その様に乱暴に聞かれては受付のお嬢さんが萎縮してしまいますよ」
「うるさいぞルター。…先程は失礼したな。それでどうすればいい」
受付嬢は実のところミカと呼ばれた青年に怯えたのではない。
ミカと呼ばれた青年の顔。受付嬢がこれまで接した男性達と比べものにならない程の美形が眼前に迫り驚いたのだ。
「あ、はい!こちらで冒険者の登録が可能です。お二人共登録でよろしいですか?」
「そうだ」
「かしこまりました。ではこちらの用紙にお名前と年齢、メインクラス、戦い方、使用武器などをお書きください」
受付嬢は机の下から用紙を取り出し、ミカに渡し、
ミカとルターは共にすぐ書き終え、返した。
受付嬢は一通り用紙を見渡し
「ミカさんとルターさんですね。クラスは|《神官》と|《拳士》。…問題はないですね。ではこちらの魔道具に手を置いてください」
受付嬢が指す場所には小さな箱型の魔道具があった。
「この箱か?」
「はい。そちらの魔道具に手を置く事でギルドに名前を登録し、情報を読み取り冒険者証を発行します」
「情報を…わかった」
ミカが手を置き、魔道具が情報を読み取っていく。
しかし読み取り出してすぐ魔道具の赤いランプが点灯する。
「あれ、すみませんエラーですね。…故障かな」
受付嬢が調べに見に行くと、そこにはミカの冒険者証が発行されていた。
「あっ、ちゃんと出来てますね。内容も…特におかしなところはないですね。コチラをどうぞ」
「あぁ。ルターお前の番だ」
「はい」
ルターもミカと同様の動作をしていく。が、またランプが点灯し警告が出る。
「え、また?故障かな。あ、でもちゃんと出てる。ルターさんコチラをどうぞ」
「ありがとうございます」
ルターは綺麗なお辞儀をし礼を言う。
「この様に警告が出ることは良くある物ですか?」
「いえ、殆どないですね。ですが最近近くでダンジョンが発見されてここで冒険者登録をしていく人が多くなったので、多分いつもより使用頻度が増えて壊れたんだと思います」
「そうなのですね。我々が壊してしまったのかと」
「いえいえ、そんな事は」
ルターが疑問を受付嬢に聞いていると
「これで我々は冒険者になれたのか?」
ミカが受付嬢に確認を行う。
「はい。ミカさんとルターさんの冒険者登録は無事終了しました。このまま冒険者の説明を行いますがよろしいですか?」
「聞こう」
「冒険者は冒険者ギルドにある依頼、ダンジョンなどの攻略が主な仕事となります。冒険者に等級があり、六級〜一級、特一級、特級と分かれています。等級が上がるごとに依頼の難易度が上昇しますが同時に莫大な報酬も手に入れることができます。等級は冒険者証に記載されています」
「なるほど。つまり登録したての我々は六級と言うことだな」
ミカが己の冒険者証を見て確認する。
「そうなります。ですが六級は依頼を受ける事はできずギルドのルールや戦闘、採取の基礎知識を学ぶ講習を受けることで五級に上がります。実質の始まりは五級からですね」
「その講習とやらはいつあるんだ?」
「次は…三日後ですね。この日にしますか?」
「頼んだ」
その一言と共に二人は冒険者ギルドを後にした。
そして三日後。二人は講習を受け、五級に昇級した。
「これでダンジョンに正式に入ることができますね」
「そうだな。だが、我々は現在五級冒険者。入れるダンジョンなど高が知れているだろう」
ミカとルター——否、ミカエルとウォルターは講習を受けるまでの三日間、ギルドや村でダンジョンに関する情報収集をしていた。
「この村の近くにあるのはアヴィリル様のダンジョンを除けば一つ。十年ほど前に発見されたダンジョンだ。だがライアーの情報によればもう一つダンジョンがあるようだ」
「前者のダンジョンですが攻略して騎士団の関連施設にする計画があるようです。ギルドにも依頼が来ていました。ですが条件として三級以上の冒険者に限ると書いてありました」
二人は現在、外の世界の情報収集とダンジョン攻略をアヴィリルから任されていた。
ライアーから詫びとして他のダンジョンの情報を聞き一番人に近しい見た目のミカエルとウォルターを派遣した。
情報収集と同時にライアーの情報の真偽を確かめるために二人は冒険者ギルドへと登録した。
「五級の我々では無理か。無視して行ってもいいが、目をつけられでもしたら面倒だ」
「ではライアー殿の情報にあったダンジョンへ向かいますか?」
「それしかあるまい。確かここら半日程度の距離だったな」
二人はそのダンジョンの地点へと進んだ。
だが、この三日で調べた情報にはライアーが言っていたダンジョンの事は出なかった。
おそらくはライアーの独自ルートによるものだろう。
ミカエルは「無かったらぶっ殺す」と言う思いをもちながら向かっていた。
——————
歩きで半日かかる道のりを二人は数時間踏破し、
ダンジョンと思われる古い塔の前にたどり着いた。
塔から溢れ出る魔力を感じとり判断する。
「ここか。…どうやら情報は正しかった様だな」
「その様ですね」
ミカエルは塔を覗き込み内部を確認し、下へ降りる階段を発見する。
一般的なダンジョンはアヴィリルやアルバの様に
洞窟を元に作られている場所が多いが、ミカエル達が潜ろうとしているダンジョンは古い塔の内部に作られている。
そして一番近い村から半日程の距離という理由故に今まで未発見だったのだ。
「素早く攻略し、アヴィリル様にコアをお届けするぞ」
「もちろんですとも」
その言葉と共に二人は階段を下り、攻略を—否、蹂躙を開始した。
二人は順調に進んでいき、侵入から三十分程で三階層に到着していた。
「このダンジョンにはおそらくマスターが存在しないな」
「罠や宝箱が少なく、魔物も統率が取れていません。ミカエル様の言うようにマスターが居ない、コアのみのダンジョンでしょう」
アルバのダンジョンを攻略した経験からミカエルが判断し、ウォルターも同意する。
塔のダンジョンの魔物はそのほとんどが下位の魔物。
稀に中位も現れるが、最高位の二人になすすべなく敗れて行った。
——————
塔のダンジョン最奥にてダンジョン・コアが激しく明滅していた。
コアの前には召喚陣が展開されており、召喚するための魔力を集めている最中だった。
ダンジョン・コアに意識は存在しない。
だが、侵入者に対する防衛反応は備わっている。
コアは現在ダンジョンに危機が迫っていることを知り、ダンジョン内にある全ての魔力を使い己を守る魔物を召喚しようとしていた。
——————
二人は三階層を抜け、その後も特に苦戦する事なく進み
しばらくして十階層に到達した。
「マスターが居ないことを考えると、おそらくここが最下層だ」
奥へと進むと少し広い空間にでる。
そこにはこのダンジョンには似つかわしくないボスがいた。
ミカエル達を軽く超える身長、隆起する肉体、背中にはその体躯に見合う大きな両刃斧を背負い、頭部に特徴的な大きな角と牛の顔を持つ魔物。
「ほう。高位の魔物、ミノタウロスか。どうやら我々に反応してダンジョンの魔力を使い切ったようだな」
ミカエルはダンジョンの規模や現れた魔物、魔力量からそう結論を出した。
ミノタウロスは興奮した様に二人を睨みつける。
「ミカエル様、ここは私が相手をいたします」
「そうか…確かに貴様の実力を見るにはいい相手だな」
言うと同時にミカエルは後ろへと下がりウォルターがミノタウロスの正面に立つ。
「貴方にはなんの恨みもございませんが…これも全て我等が主人の為。ご容赦を」
ミノタウロスはウォルターに言葉を返す様に
「ブモォオォオオオ!!!」
咆哮し、走り出す。
背負う斧を片手で取り、目の前の敵、ウォルターへと振り下ろす。
無造作に振り下ろされた両刃斧による一撃はたとえ同じ高位の魔物であろうとも避けずに防ぎ切るのは困難。
しかしウォルターは避けようとせず眼前に迫る斧に右手を伸ばし、手の甲を斧の側面に当てる。
当たった斧は手の甲を沿うように流され、軌道を逸らされる。
次いでウォルターはガラ空きになった、ミノタウロスの右腹に殴打を与える。
ミノタウロスは攻撃を逸らされ、一撃をくらったことによりバランスを崩し、後方へと倒れ込む。
が、即座に身を起こし、戦闘体制を取る。
「流石に戦闘系の種族。この程度では終わりませんか。ならば次は私から参ります」
ウォルターはゆっくりと歩き出す。
歩き出したウォルターの頭部と腰からは半透明な竜の角と尻尾が現れる。
ミノタウロスはこちらへ向かうウォルターを警戒する。
ミノタウロスは先程の自分の攻撃が何故当たらなかったのか分からなかった。
だからウォルターが目の前にまで迫った時先程よりも力を込め真正面から振り下ろす。
「我慢を知らないお方ですね…!」
再び、ウォルターは手を伸ばす。
しかし今回のは逸らすのではなく、防御の構えだ。
振り下ろされる斧がウォルターの手—否、手袋に当たる寸前、弾かれ、反動により斧が上へと上がる。
「私の手袋は少々特殊でしてね。
——〈竜聖拳〉!」
その一撃には竜の質量が乗っていた。
人竜という人型サイズの小さな拳にそれだけの質量が乗った事により、通常の殴打以上のダメージをくらう。
拳はミノタウロスの鳩尾を正確に打ち抜く。
ガラ空きになった守りも何もない胴体に与えられた一撃によりそのまま前方へと倒れ込む。
痛みにより意識が霞む中、それでもミノタウロスは立とうとしていた。
眼前の敵を見据え、闘志だけは消えていなかった。
上手く立つ事が出来ずにもがくミノタウロスの前へとウォルターは立ち、
「真正面から受け、死なずそれでもまだ立ちますか…貴方は倒してしまうには惜しい人材ですね」
素直に称賛を送る。
「その闘志は素晴らしい。ですが今は眠りなさい」
ウォルターは覇気を解放し、半透明の竜が現れミノタウロスを威圧する。
その姿を見たミノタウロスは目の前の存在には勝てないと本能的に理解し、意識を落とした。
戦闘が終わるとミカエルから言葉が飛ぶ。
「どうやらアヴィリル様から賜ったその手袋を貴様は使いこなしているようだな」
「えぇ。この手袋には中々面白い能力が付与されていますからね。私の戦い方とも合っています」
ウォルターが身につけている白い手袋はアヴィリルが作り渡したものだ。
その手袋にはアヴィリルも意図しない能力が付与されていた。
付与されたのは物理的、魔法的な汚染、損傷、染色を拒絶するという能力だ。
今回の戦闘でミノタウロスの斧が弾かれたのはこの手袋によるものだ。
「そこのミノタウロスはどうするんだ?」
「可能であればアヴィリル様に許可を頂き、ダンジョンへと連れて行きたいのですが」
ウォルターはミノタウロスの闘志、頑丈さを高く評価していた。
「ふむ…貴様はそこのミノタウロスがアヴィリル様の役に立つと、そう判断したのだな?」
「はい。この者ならば必ずやアヴィリル様の役な立ちましょう」
「…ならばオボロを呼ぶぞ。流石にこの巨体を連れ歩くのは目立ちすぎるからな」
「感謝致します。ミカエル様」
「勘違いをするな。実際に許可を頂けるかは、アヴィリル様次第だ。それに責任は貴様がとれ」
その後二人はダンジョン・コアの元へと向かい。ダンジョン攻略を完了した。
攻略後、オボロを呼び出し、ミノタウロスを連れ、アヴィリルの元へと戻った。




